第59話「正解」
このようなハイレベルな争いでは一つの出来事が勝敗を大きく分ける。
ヤマトが渾身の一振りを浴びせたその時にこの均衡は崩れることとなった。
ジンが防御をするも、思った以上の攻撃でトライデントが弾かれ胴体ががら空きになる。
そのチャンスをヤマトが見逃すはずがない。
すぐさま光の矢を放ちジンの体を貫いた。
「ぐっ」
その攻撃を当てられてジンがふらつき、距離を取る。
Z級は一筋縄ではとは思っていないが、この少年見た目以上にタフであるとヤマトは思った。
先ほどの光の矢は中途半端な魔力ではない。
確実に殺すために放ったはず。
それを受けてもなお立っているのだ。
「ちっ、人間如きに使いたくねえけど仕方がない」
ヤマトは静観を続けたが、来たる攻撃にもきちんと備えていた。
能力は人によって様々。
だからこそ、相手の能力は一番警戒しなくてはならない。
「『死ぬまでずっと一緒』」
空から稲妻を纏った四本の剣が四方に突き刺さる。
ヤマトはそれを見た瞬間、この場から離れようとしたが遅かった。
四方に刺さった剣から電流が流れ、リングのようなものが出来上がる。
「このフィールドから逃げようとしたら電流がお前を追って殺す。 もちろん、その電線に当たっても死ぬ」
「へぇ~。 じゃああなたを殺さないとここからは出れないってわけね」
「ほざけ、この能力を使ったからにはお前を殺す」
「怖いね」
おそらくこの能力はただのリングを作るわけでだけではない。
いつの間にか周囲が少しだけ暗くなり、空を見上げれば灰色の雲がかかっていた。
するとジンはトライデントを空に向かって掲げる。
雲からゴロゴロとした音が響き渡り、トライデントに雷が落ちてきた。
「ぐああああああ」
ジンは叫び声を上げながら、雷を浴びる。
「うわ、痛そ~」
ヤマトがしかめっ面を浮かべるが、そんなヤマト関係なしに雷に打たれ続けているジン。
そして数秒の間雷を受け止め続けたジンは、髪の先から足の先まで電気を帯びている状態へと変わった。
「第二ラウンドだ」
ジンが一瞬にしていなくなった。
ヤマトも魔力を光に変換し、その速さに対応する。
「残念、電気よりも光の方が早いんだ」
ヤマトはジンを追いかけ、剣を振り抜いた。
その攻撃をトライデントで受け止められる。
ただ、一抹の不安がヤマトの頭によぎった。
何の変哲もないただの攻撃と防御。
しかし、数多の戦闘経験があるヤマトだからこそ、この違和感に気づける。
先の戦いでは今の一撃は避けられていた。
それなのに今回は受け止められたのだ。
ジンが少し口角を上げる。
ヤマトは瞬間的に魔力を体にコーティングした。
そして横にある四方の電線から、上の雲から、雷がジンの元へと集中した。
「ああああああ!」
ジンがその雷撃を受け、叫び声を発する。
ヤマトも漏れることなく、その電流を浴びてしまった。
「っ!」
なんとかその攻撃を耐え凌ぎ距離を取る。
服はとこどころ破け、魔力を使ったのにも関わらず体にできた無数の火傷の跡が痛々しく残っていた。
「やっぱ魔族でも男の子だね」
ヤマトは痛みが強い右腕を押さえながら、ジンへと語り掛けた。
魔族に感情など抱いてはならない。
そんなことは耳にタコができるほど両親から聞いてきた。
家族を、村を奪った魔族を許すわけにはいかない。
それでもヤマトは子供には弱かった。
この戦いで手を抜くようなことはしていないつもりだ。
でもいつものパフォーマンスを発揮できていないことは体がわかっていた。
「やっぱ子供には弱いなぁ、私」
ヤマトは少しだけこの状況に危機感を覚えていた。
一瞬の隙を相手に晒してしまったことで、優勢だった状況は一転している。
ジンの表情は一貫して無表情。
ただし、電気を浴びた時の悲痛な声を聞けばダメージを負っていることは確かだった。
「だからって容赦をするわけにはいかないんだ」
ジンがトライデントを構え、こちらに敵意を剥きだしている。
ヤマトは手負いながらも巨大な光のオーロラを頭上に作る。
そしてオーロラの中に散りばめられた星屑が一つ一つ矢のような形になっていく。
やがてオーロラは消え去り、代わりに矢となってすべての矢がジンに向いた。
この一撃で終わらす。
そのヤマトの決心がこの矢のオーロラに全て込められていた。
せめて、痛みが一瞬で終わってくれと期待と願いを込めて。
「『光の矢』千式!」
千本の矢が一気にジンに放たれた。
ジンがトライデントで何とか応戦するも千本ある矢を全て対処することはできなかった。
一本凌げば、二本目が当たる。
二本凌げば、四本当たる。
そのすべての矢が放たれた後、ジンは黒い血を流し立ったまま気絶していた。
「じゃあ、これでバイバイだね」
ヤマトが指先に魔力を集中して最後の一撃を当てようとする。
「やめて!」
ジンの前に立ったのは、トライデントになっていたガミ。
涙を流しながら手を大きく広げて、ジンを庇おうとしている。
「ガミたちは指示されただけなんだ、お願いだから殺さないでくれ!」
その剣幕にヤマトは動揺していた。
憎むべき、駆逐するべき魔族が目の前にいるのになぜ自分は攻撃しないのか。
なぜ魔族に感情を抱いているのか。
相手は魔族だから殺さないといけない。
それでも相手は子供。
ヤマトは過去を思い出してしまった。
愛していた弟が死ぬ瞬間を。
家族が殺されていく瞬間を。
「はあはあはあはあ」
手先も震えだし、呼吸が浅くなっている。
どうすればいいのか。
何が正解なのか。
自分にはどうすることもできなかった。
それでも、指を向ける。
殺すしかない。
相手は魔族なのだから。
「ああああああああ!」
叫び声を上げながら光の光線を放った。
ガミは目を閉じて、ジンを抱きしめる。
しかし、その攻撃はガミの頭上をかすめただけだった。
ヤマトは自分が何をしたのかわからない。
体の動きに脳も処理が追い付いていない。
膝から崩れるように座り込み、目線は地面しか見えていない。
「あ、ありがとうお姉さん」
晴れやかな声が聞こえてきた。
よかったのか、これで。
生かしていいのか、魔族を。
そしてヤマトはゆっくりとガミの方を見上げる。
声だけではなかった。
涙で顔がぐしゃぐしゃになっていても、ガミは笑顔だった。
少しだけ、ヤマトはほっとしてしまう。
この笑顔を守れたのだから。
この笑顔を救うことができたから。
「早く逃げて……」
ヤマトは震えながら言葉を振り絞る。
いつものヤマトからは想像できないほど、冷たく弱気な声で。
自分がなぜこの言葉を吐き出してしまったのかわからない。
「うん! ありがとう、おねえ……」
ブシャ!
「何してんの、ヤマト」
イザベラは空から着地すると同時にガミとジンの首をチェーンソーで切り裂いた。
言葉が出なかった。
何を選択するのが正しかったのか。
わからなかった。
何が正解だったかなんて。




