第58話「意地」
「ここまでの差があるの……」
ネロは頭で戦わないといけないと思っていても、体が言う事を聞いてくれなかった。
ロアが戦闘不能になったことにより、この場を包んでいた水球も消えてなくなる。
つまり、ネロは単身でZ級二体と相対しなくてはならない。
「上等!」
ネロは魔力を再び練り込んだ。
ここの場所は自分が任された場所。
であればその責務を全うすることがネロの仕事だ。
自分の事を必要としてくれる人がいる。
自分の事を可愛がってくれる人がいる。
そして自分には居場所がある。
だから負けるとわかっていても戦える。
その人、居場所を守るためにも逃げるような事はしてはならない。
「『孤人に咲く一輪の花』!」
ネロは全力で魔力を放出した。
魔力を全開で放出したことによって、今にも倒れそうになるが何とか持ちこたえる。
(根性みせなさいよ、私!)
棘のある大きなツタがガミとジンを中心に円形となって覆う。
ツタから生えた花が一輪だけその上に咲き誇った。
ネロがここまでのツタを生やせたことはない。
絶望的な状況が魔力の限界を超えさしてくれたのだ。
ネロは杖でなんとか体を支え、片膝で地面に立つ。
いつ見ても美しい。
ネロはこの花に憧れを感じていた。
花のように誰に邪魔されても凛として咲き続ける。
強く、逞しく、美しく。
そんな女性に、そんな人間になりたい。
あの時自分を逃がしてくれた、解放してくれたミアのようになりたいと。
「うーん、もうちょっとお姉さんと遊びたかったんだけどなぁ」
「……はぁはぁ」
ネロはその言葉に言い返すことさえもできなかった。
ツタが枯れて形を失くし、二人の少年少女が姿を見せる。
(ミア、私はまだあなたに追いつけない……)
ネロには逃げる体力も残っていなかった。
「人間があまり調子に乗るな」
一歩ずつ近づいてくるジン。
目が霞んでいるネロからすれば、どれだけ近くにいるのかわからない。
「死んで償え」
でも耳でおおよその位置はわかった。
そして、死ぬことも悟った。
「死ねるかぁ!」
でものこのこと負けるわけにはいかない。
ネロは最後の力を振り絞って、拳をぶつけにいく。
「だーめ。 大人しく死んで、お姉さん」
その拳をいつの間にか近くにいたガミに拳を押さえこまれる。
「また地獄で遊ぼうね、お姉さん」
その瞬間ネロの視界が光で包まれた。
「あら、じゃあ今度は私と遊んでくれない?」
その声を聞いたら、自然と体から意識が遠のいた。
今まで何度も命を救ってくれた人物。
自分に居場所を作ってくれた人物。
自分が尊敬している人物だったから。
ネロのヒーロー、ヤマト・プリステスが駆けつけてくれたから。
* * *
ヤマトが現れた瞬間に、瞬時に距離をとったガミとジン。
「ガミ、こいつは厄介な雑魚だぞ」
「そうだねジンちゃん、確かヤマトっていう人だよ」
「あら私もしかして有名人?」
Z級二体を対峙しても、ヤマトの余裕は崩れない。
いや、崩されなかったという方が正しいか。
この二体のZ級にはどこか違和感があったから。
そのZ級が二体いるのにも関わらず、シェムハザと比べても魔力量は大したことはなかった。
〈未開拓遺跡〉で対峙したシェムハザよりも魔力の威圧感が感じられない。
Z級であるはずならば、存在しているだけで威圧的な魔力を帯びていてもおかしくはない。
その違和感を感じたからこそ、不信感が出てくるというもの。
「人間がぁ……」
憎しみの表情を浮かべるジン。
「ジンちゃん、最初から全開で行こう」
「……ああ」
ヤマトはそのやり取りを聞き、ついに魔力を練り込んだ。
何か仕掛けてくると直観的に判断したから。
「じゃあジンちゃんあとよろしく」
ニコッと笑ったガミに魔力が集中する。
黒い魔力が放たれ、人型のガミが魔力となり形を変えた。
そしてガミは武器となり、一本のトライデントなる。
「『神罰の槍』」
その武器をジンが片手に装備する。
「なるほど、そういうことか」
ヤマトが独り言を呟く。
先ほどの魔力を見ていてもA級よりも少し上程度しか感じられなかった。
しかし、この姿を見てわかった。
この双子は、二人で一人。
この状態になって初めてZ級というわけだ。
「まあ、二人よりはましか」
笑みを浮かべたヤマトは光の剣を装備し、地面を蹴って距離を詰める。
光の魔力を纏ったヤマトは先手必勝とばかりに切りかかる。
ただジンもその攻撃を易々と受け止めるわけにはいかない。
黒い稲妻を纏ったトライデントで応戦してくる。
圧倒的な魔力がぶつかり、周囲が土煙で包まれた。
そんな周りの状況でも両者は攻撃を止めることはしない。
片方が攻撃すれば、見事に防御される。
その隙を突こうものなら、カウンターで攻撃を当てられる。
そんな状況が交互に繰り返された。
一進一退の激しい攻防が繰り広げられているが、両者とも傷一つついていない。
攻撃はさることながら、防御も怠らないのだ。
それだけこの攻防はハイレベルな戦いであるという事を証明していた。




