第57話「ネロとロア」
王都〈セルティナ〉
「姉さん、元気だった?」
「あなたに姉さんと呼ばれる筋合いはないわ」
ネロはそっぽを向いて、その場から離れた。
憎きトルール家。
その復讐心からネロはリーベルと名乗っている。
ミアを殺し、ネロの人生をめちゃくちゃにした。
トルールに関する者すべてが憎いのだ。
ウゥ~
突如この王都に警報が鳴り響いた。
ネロが空から魔力を感じ瞬時に見上げる。
空には黒い穴が出現していた。
ネロはこの魔力を知っている。
〈未開拓遺跡〉で痛い目を見たあいつ。
手も足も出なかった相手。
「アンドラス!」
ネロが空をグッとにらんだ瞬間その魔獣がネロの目の前に降り立った。
土煙を起こしながらドンっという音を立てて、こちらを見てニヤニヤと笑っている。
ネロが背に持っていた杖を構え、アンドラスと対峙する。
「バギャ!」
しかし、アンドラスは横からロアに攻撃され吹っ飛ばされていった。
「姉さんは下がってて」
ロアは小柄ながらも魔力を巧みに使い、アンドラスを後ずさりさせている。
【王の楽園】の超新星の名は伊達ではなかった。
『黄金世代』と呼ばれる者達のトップを走り続けているのがロアだ。
ネロの世代は各ギルドに強者が揃っていたため『黄金世代』と呼ばれていた。
世間は英雄を求めている。
魔獣から解放されることを望んでいる。
だから若く強い世代が一同に名を連ねる出来事は世間にとってみたら希望そのものだった。
「『果てのない大航海』」
中心にいるロアから半径十メートルほどの水の球体が浮かび上がった。
そして飛ばされた魔獣もその水の球体に包まれる。
「行きます!」
ロアはネロが使っているような杖をタクトのように振った。
すると球体の内側にドリルのような水が呼び起される。
アンドラスは能力などを気にせずにロアに突撃していく。
しかし、水のドリルがその突進を阻んだ。
鋭い爪でそのドリルを切り裂くも、ドリルは水。
アンドラスが水にどれだけ魔力を使っても、力を入れてもドリルの形がなくなるだけで水はなくならない。
水が切り裂かれてもすぐさまドリルの形になりアンドラスに襲い掛かる。
ドリルはアンドラスの肉体を貫き、串刺しにしてしまった。
不可侵の水の球体。
変幻自在の水。
この絶対領域を支配しているのはロア。
この球体に入った時点で勝敗は決定しているようなものだった。
これが【王の楽園】の超新星、ロア・トルール。
これがネロとロアの差。
〈未開拓遺跡〉のアンドラスに比べたらあそこまでの圧倒的な魔力はない。
しかしそれでもA級。
A級を一人で倒せるほどの力が今のネロにあるとは思えなかった。
勝てるのだろうか。
いや、勝つしかない。
勝たなければ、ロアを越えなければ、トルールを壊すのは夢のまた夢。
ネロは杖を構えた。
まだここに魔獣がやってきているから。
小型の魔獣だが数は多い。
「『孤人に咲く一輪の花』」
地面から棘を携えたツタが伸び、向かってくる小型の魔獣ニードルデビルを絡めとる。
圧死した魔獣が黒色の血しぶきを上げる。
「やるわね、姉さん」
球体が消えアンドラスを倒したロアが姿を現す。
「あんたに褒められても何一つとして嬉しくない」
ネロは目を合わすことはない。
例えロアが悪くなくても、その家族が憎いから。
大人気ないことはネロ自身わかっている。
それでも許してはならない。
自分の唯一の家族を奪ったトルール家なのだから。
「あれれ~、お姉さんたちも双子~?」
「人間と喋るな。 虫唾が走る」
声がした方をネロとロアが息を合わせたように振り向いた。
そこにいたのは、中学生ぐらいの双子。
顔は瓜二つで見分けられるとしたら性別ぐらい。
その自分より小さな者達を見て、ネロは寒気が背中を伝った。
圧倒的な魔力量。
その魔力は見ただけでわかった。
この二人はおそらく。
「Z級……」
ネロは両者を睨みつけながら杖を構える。
隣にいるロアも杖を構えて戦闘態勢に入っているようだ。
「私はガミ、こっちの無愛想なのがジン。 戦おうとしているところ悪いけどお姉さん達じゃ勝てないよ」
不敵な笑みを浮かべるガミ。
「やってみなきゃ分からないでしょ!」
ネロが言葉を発した瞬間に能力を発動する。
それに呼応するようにロアも能力を展開した。
この場にいる者を包み込むように不可侵な水の球体が浮かび上がる。
地面から伸びたツタがガミとジンを襲う。
ロアも息を合わせたように水のドリルで攻撃をする。
「失せろ」
水球の中にあるのにも関わらず、ゴゥと音をたてて突発的な風が吹いた。
「ぶっ!」
「え?」
ロアの方を振り向いた時には遅かった。
ロアの体が無数に傷を付けられ口から血を吐いている。
ネロとロアに油断など微塵も存在しない。
それなのにいとも簡単に、容易くロアを葬った。
そして自分達の能力も消え去っていた。
ネロは判断が遅れたが、なんとか結論を導き出す。
今の攻撃はZ級の能力ではないと。
ただ魔力を放出しただけだと。




