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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第56話「ネロの昔話」

 ガラガラ!


 勢いよく扉が開かれた音でネロは起きた。

 この倉庫には時計などの時間がわかるものはない。

 僅かに差し込む光で朝は起きていたが、倉庫の小窓はまだ暗いまま。


 しかし、ネロは扉を開けた人物の表情を見たらいつも通りでないことがわかった。


「ネロ様、急いでください!」


 血相を変えたミアがネロの腕を強引に掴み倉庫の外に出る。


「え、え……」


「急いで!」


 ミアに強引に手を引かれながらミアについていく。


 いつも優しい口調で喋ってくれるミアがこんなにも激しい口調なのは初めてだった。

 何も状況はつかめていないネロだったが、今はミアについていくことしかできない。


「こっちです!」


 ミアとネロは月に照らされた大きな城を縦横無尽に駆け回る。


「ねえ、ミア痛いよ~」


 引っ張られる腕が痛くて思わず声を出してしまった。


「すみませんネロ様。 ですが今だけは我慢してください」


 ネロからミアの表情は見ることはできないが、たぶんさっき見た通り何か焦っているような表情だろう。

 声質からも焦燥感を受け取れる。


「いたぞ!」


 トルール家のメイドの声がした。

 十数人のメイドが銃を持ちこちらに銃口を向けている。


「え、なんで?」


 ネロが不安な気持ちを口に出した瞬間、銃口から火花が散った。

 刹那ミアはネロを抱き込み物陰に隠れる。

 激しい銃声が静かな城に鳴り響く。

 城の壁に当たったカンっという音が鳴るたびにネロは体を震わせた。

 これでもかというぐらいミアの腕を掴み、なんとか恐怖心を分散させる。


「早いですね……」


 ミアが物陰からちらっと銃声の鳴る方向を見つめていた。

 でもネロが見えているのはミアの方から流れ出る鮮血の痛々しい血であった。


「ミア、血が……」


 ネロは泣きそうになるのをなんとか押さえながらミアの心配をしている。


「これぐらいなら全然痛くないですよ」


 ネロのポツリと落ちていく涙をぬぐいながら笑ってみせるミア。

 これはネロを庇ってできた傷。


「ねえどういうことなの! ミアはトルール家のメイドじゃないの?」


 ネロはもう言葉を我慢することはできなかった。


「そうですね。 なぜなのでしょうか、こんなに可愛くて仕方がないネロ様を攻撃してくるなんて許せませんね」


 ミアは笑顔だった。

 いつもそうだ。

 ミアが笑顔を絶やしたことはない。

 この笑顔があったからネロは生きてこられた。

 自分の人生に絶望することはしなかった。

 この人の為に生きて見せると誓った。


「さあネロ様。 ここから最後の頑張りです、あと少し頑張りましょう」


 そしてミアはスカートの中からマグナムを取り出した。


「行きましょう!」


 ミアが物陰からマグナムをメイド達に打ち込む。

 その弾丸は見事にメイド達の頭を抜いた。

 外すことはなく正確に打ち続けるミア。


 その隙を見てネロの手を引いて駆け出していく。


 追手は時が経てば経つほど増加していった。

 ミアはメイド達に弾を外すことなく当てていくも、人数差が圧倒的すぎる。


「私がもっと強かったら……」


 ネロは走りながらぼそっと呟いた。

 自分が強かったらミアを助けられるのに。

 自分が弱くなければミアを守れるのに。

 自分に力があったら、こんな家から離れられるのに。


「これからですよ」


 ミアはネロと目を合わせることはしなかったが、ずしりとその言葉が響いた。


 * * *


 何とか追手から逃れ、城壁に小さな穴がある場所まで着いた


「ネロ様、この穴から抜けて真っすぐ進めば街があります。 そこまでネロ様自慢の足で走ってください」


「ミアは?」


 か細い声でミアに尋ねる。


 まだネロは幼い子供。

 一人でこの城から逃げ出したとしても、生きることはできない。


「私はここで追手を止めておきます。 それが終わればすぐネロ様に追いつきますから」


 ミアはにこっと笑ってネロの頭を撫でた。


「約束だよ! 絶対だからね!」


「ええ、必ず」


 その言葉を信じて、ネロは小さな穴をするりと抜けて行った。


 * * *


 ネロがいなくなった後、追手はすぐにミアの元まで駆けつけた。

 すぐにトルール家のメイドに囲まれ、銃口を向けられている。


「トルール家に仇名した罪をわかっているな」


 そしてメイドの囲いから抜け出してきたのはトルール家の当主、ゴッシュ・トルール。

 ネロを忌み子のように取り扱った憎き男だ。

 ミアはこの男に一度も感謝などしたことはない。

 人を道具としてか見ておらず、使い物にならない者はゴミのように捨てるだけ。


「ゴッシュ様……」


 本当はこんなに敬意をもって接したくはない。

 それでも染みついたものは簡単には取り除かれなかった。

 心底それが鬱陶しい。

 トルール家のメイドなんてすぐにでも辞めてやろうと思っていた。


 しかし、ネロがいた。

 何も罪がない子供をただ目が青くなかっただけで、人間として家族として扱わない。

 この男だけは絶対に殺す。

 この男だけは許さない。

 沸々と怒りが込み上げてくる。


(ネロ様、遊ぶ約束を守れなくてすみません)


 そしてミアは右手に持ったマグナムの銃口をゴッシュに向ける。


「死ぬ前にお前に伝えなければならないことがあった」


 ゴッシュは淡々と言葉を述べる。

 うっすら浮かべた笑顔が、ミアの衷心を気味悪く感じさせる。


「ネロというゴミを捨ててくれてありがとう」


 ミアは言葉が出なかった。

 家族を、娘をなんだと思っているのか。

 この男は何を言っているのか。

 ただ目が青くなかった可愛い女の子に対してどうやったらそんな言葉が出てくるのか。

 怒りを通り越した感情がミアの体を埋め尽くす。


「お前は絶対殺す、何があっても!」


 ミアの体を震わせながら叫んだ。

 体が震えているのは恐怖心からではない。

 体の内から込み上げてきた怒りがそうさせているのだ。


「そうか、であればお前というゴミも処理させてもらうぞ」


「死ね」


 ミアが言葉を発すると同時に引き金を引いた瞬間、一斉にメイドから銃が放たれた。

 銃弾が体に当たった瞬間に血が溢れ出し、当たった反動によって体が小刻みに揺れる。


 そしてミアはその場にゆっくりと倒れた。


「ネロ様、強く、生きて、く、ださい……」


 その場にネロがいると思って片手を上げ撫でる動作をする。


 バンッ


 ゴッシュから放たれた銃弾によって頭を貫かれる。

 その手が偶像のネロに届くことは叶わなかった。

 偶像でさえも会えることはできない。

 ただ、ネロが生きていればそれでいい。

 彼女の将来を思い描いたミアは笑っていた。


 * * *


「ミア……」


 ネロは城から一直線に走っていたが、森全体に響くほどの銃声が聞こえてきた。


 ネロは踵を返してミアの元に戻ろうかと思ったが、グッとこらえる。

 今までミアは約束を破ったことがない。

 であれば、ネロが約束を守らなくてどうする。


 ネロは走った。


 ミアと遊ぶために。

 ミアとまた追いかけっこするために。

 今はそれの練習だ。

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