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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第55話「ネロの昔話」

 冒険者たちが隊列を組むことなく、王都の各地に散らばっていた。

 少人数のグループに分かれて、王都を警備している。


 ネロも自分の配置まで歩いて行ったが、そこには見慣れた顔があった。

 それも、見るだけで嫌な気分になるぐらい心底憎い顔。


 ネロの双子の妹、ロアがそこにはいたのだ。


「久しぶりね、姉さん」


 ネロと同じような緋色の髪の女の子。

 首から見える透き通った白色の肌がやけに眩しく、ネロは少し嫉妬を覚える。

 そして、何よりも憎しみ深い青色の瞳。


「……ロア、あなたもここに来ていたのね」


 機嫌が悪くなってしまうのが少し辛かった。

 悪いのはロアではなく、自分の家族であるから。


 * * *


 トルール家。

 王家の血を引く家庭であった。

 そこに二人の女児が生まれた。

 ネロとロア。

 トルール家は二人の誕生に心底喜んでいたわけではなかった。

 なぜなら、ネロには王家の証である青色の魔眼がなかったから。

 トルール家はネロを忌子として扱った。

 ロアには優しく、ネロには厳しく。

 いや、厳しいというよりも無視。

 厳しくされた方がネロにとっては有難かった。


 なぜ目が青くないだけでここまで差別されなくてはならないのか。

 なぜ家族としてみてくれないのか。

 愛情がなかった。

 優しさがなかった。

 なぜ、私は家族として認められないのか。


 ネロは暗い倉庫の中一人で泣きじゃくっていた。

 ご飯もろくに食べられていない。

 でもそんな空腹よりも、心に開いた空洞のようなものが辛かった。


 ガタガタ


 ネロは扉が開いた音を聞き、扉から差し込んだ光により目を細めてしまう。

 しかし、扉はすぐに閉められ倉庫の扉の前に置かれていたのはパンと水のみ。


「……ご飯だ」

 

 放られたように置かれたお盆。

 ネロはその食べ物を見た瞬間、飛びついて口に入れ込んだ。

 たったパン一つとコップ一杯の水。

 パンはパサパサで賞味期限なんてとっくに過ぎているであろう。

 水もどこから汲んできたのかわからない。

 少しだけ異臭が漂っていても気にしない。

 ネロは食べるしかなかった。

 好き嫌いなんてできなかった。

 その不味い食べ物でも量が少ないためネロの空腹は満たされることはない。


 グゥ~


 水もパンとともにすぐさま胃の中に溶け込んでしまう。

 満たされることはない。

 体も、心も。


「お腹空いた……」


 ガラガラ


 再度扉が開いた。

 基本ご飯の時間にしかこの扉は開かない。

 誰なのだろうか。

 ネロは横たわりながら顔だけ上げて、その人物を見る。


 そこにいたのはメイド。


「ネロ様、ご飯をお持ちしましたよ」


 にこやかに微笑み、ご飯が乗ったお盆を持っているメイド。

 お盆から湯気が出ており、作り立てだということがわかる。

 

「ミア!」


 ネロは横になっていた体を飛び起こし、ミアに抱き着いた。


「あらあら」


 ネロは強く、強くミアの太ももを抱きしめた。


 ミアはトルール家で唯一ネロに優しかった。

 トルール家では家族からはもちろんのことメイドからも無視されていた。

 おそらく父であるゴッシュがメイド達に命令を出しているのだろう。

 それでもミアだけはネロに優しくしてくれた。

 家ですれ違ったら必ず挨拶を交わし、庭で一人遊んでいるときもミアはずっと傍にいてくれた。


 幼いネロからしたら唯一心を許せる存在。

 唯一優しくしてくれる存在。

 唯一人間として認めてくれる存在。

 唯一、家族と呼べる存在だった。


「ミア、あそぼ!」


 ネロは快活な声でミアを誘う。


「すみませんネロ様。ここでネロ様と遊んでしまうとお父様から注意されご飯を届けられなくなってしまいますので、今回はご飯を食べて明日遊びましょう」


 頭を撫でたミアがゆっくりとネロの手をほどく。


 その行為がネロにとってどれほど辛いことか。

 もう一生会えなくなってしまうと思ってしまうほどに、ネロの心は暗くなってしまう。


「ミア……」


 瞼に涙が溜まっているのがわかる。


「ではこれで。おやすみなさいネロ様、愛していますよ」


 ミアはネロの頬に軽くキスをした。


 そして扉が閉まる。


 ネロは地面に置かれたご飯を泣きながら食べることしか今はできない。

 うっすらと涙で塩味がついたご飯。

 でも、温かいだけでいい。

 ミアが作ってくれたならそれでいい。

 それだけでいいのだ。

 それに明日はミアと遊ぶ約束をした。

 今日は早く寝よう。

 そうした方がこの辛い現実から逃げられるから。

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