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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第54話「平原の決着」

「へっへっへ。『神の実績(シン・クラス)』かぁ、思ったよりも手強わかったねぇ」


 ソルトがゆっくりと近づく。


 タイヨウはじっとしていられなかった。

 自分の英雄が負けたのだ。

 それも自分のせいで。


 全身を炎で包み込み、無我夢中に突進した。

 勝てるはずがなくても、自分が命を落とすことになっても、じっとしてはいられなかったから。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 大きな雄叫びを上げ、走った。


「や、め、ろぉ……」


 タイヨウはその声を聞いた瞬間に立ち止まる。


「マークさん?」


 か細くても、力がなくても、はっきりとタイヨウにはわかった。

 自分の憧れの英雄の声を聞き逃すことはなかった。


「君は、これから、この戦争の、貴重な戦力だ。 だから、こんなところで死んでは、い、けない……」


 マークは立ち上がった。

 もう立つことさえ、生きていることさえできない状況であるのに。


「死にぞこないがぁ!」


 ソルトが鎌をマークに向かって振りかざした。

 死にゆく者への攻撃にしては余りある魔力を使って。

 しかしその攻撃をマークは片手で受け止める。


「おい、魔族、覚悟しておけ。 僕が死んでもここにいる、才能ある若者がいずれお前らを滅ぼす」


「っ!」


 ソルトは怯えているようだった。


 なぜ生きているのか。

 なぜ死なないのか。

 なぜそこまで、守れるのか。

 ソルトにそんな感情が入り混じっていてもおかしくはない。

 心臓を抜き取られたはずのマークのどこにそんな力が宿っているというのだ。


「死ねぇぇぇぇぇ!」


 ソルトは恐怖心を掻き消すように魔力を集中して、鎌を押し込む。

 それでも鎌はびくともしなかった。


「『星の隕石(スター・ロケット)』、シックス!」


 マークの手から放たれたのは、小さい拳の魔力。

 それでも、その一撃は重たかった。

 ソルトの顔面がボコボコに殴られる。

 そしてソルトの顔面は形を変えていた。


「人間風情がぁ!」


 ソルトが言葉を発した瞬間、悪魔によって心臓を抜き取られる。

 顔面の穴という穴から黒血を飛び散らせた。


 マークの放った魔力が星のようにキラキラと輝き、マークに降り注ぐ。

 弔うかのように、門出を祝福するかのように。


 そしてマークは地面に倒れた。

 魔族を倒して。

 若き希望に全てを託して。


 〈北にある大地(ノーサン・アイランド)〉北部の戦い。


 『悪魔の茶会(セレモニー)』、ソルト撃破。


 『太陽神アポロン』、マーク・ウェスト殉死。


 * * *


 王都〈セルティナ〉。


 この場所には二人の『神の実績(シン・クラス)』がいる。

 そして、この場所を任せられているリーダーはミエル・クリストファー。

 【王の楽園(キングダム・エデン)】ギルドマスターだ。


「はあ、私もタイヨウと同じように前線がよかったわ……」


 ネロ・リーベルが深いため息とともに、自身の運のなさを悔いていた。


「こればかりは仕方がないよ。 それにこの場所にも魔族が出現するかもしれないし」


 ヤマトがネロの言葉をなんとかまとめる。

 それでもネロの機嫌は完全には回復することはなかった。


「まあヤマトさんと一緒だからそれはよかったけど……」


 こればかりは自分の匙ではどうにもならない。


「ここにいたか、ヤマト」


「やっほー、ヤマト~。 それにネロちゃんも」


 声の方を振り返れば、見ただけで圧倒されてしまうほどの威圧感の男性。

 そしてギャルのような見た目をしているのにも関わらず、溢れ出す魔力を隠しきれていない女性が手を振っていた。


 【王の楽園(キングダム・エデン)】ギルドマスター、ミエル・クリストファー。


 『神の実績(シン・クラス)』、イザベラ・シャーベット。


 ネロはあまりこの人物にいい印象を抱いていなかった。


 一見すれば、誰もが好印象を抱く彼女。

 ネロはこの人物と幼いころからの顔馴染みではあり、彼女のことを一回も嫌いになったことがない。


 だからこそ、彼女が不気味でならなかった。

 一回も嫌いにならなかったというのが不思議でしかない。

 それはネロが幼いときに感じた直観のようなもの。

 それが今でもイザベラに対する苦手意識がある。


「お久しぶりです。 イザベラさん」


 ネロが少し頭を下げ、イザベラに挨拶をする。


「ネロちゃんなんか堅苦しいなあ。 それに表情もなんだか怖いよ」


 少し口角を上げたイザベラがネロを見つめた。


「で、何の用ですか。 ミエルさん」


 少し不穏な空気を打ち消すように、ヤマトが口を開いた。


「ヤマトとイザベラは今回二人で行動してもらう」


「……どういう事ですか?」


 ミエルの言葉を聞いた瞬間、珍しくヤマトが真剣な表情を浮かべていた。


「今回の魔族進行は〈危険領域ブラック・テリトリー〉に隣接した都市が主戦場だとされているが、王都にも魔獣が出現したといった情報がいくつか入って来ている。 王都に万が一もあってはならない、そのために二人の『神の実績』をここに呼んだ」


「だからって二人一緒にいることが良いことだとは思いません」


 はっきりと口にした。


 ネロはこの姿がたまらなく好きである。

 どんな相手にも自分を曲げない。

 自分の思ったことを包み隠さず言う。

 これにずっと憧れている。

 だから口も悪くなってしまって、周りの人も離れて行ってしまう。

 それでも自分の信念を曲げたくなかった、ヤマトに追いつくために。


「……『悪魔の茶会(セレモニー)』がもしもここに現れた場合、『神の実績』だけでは対処できないという私の判断だ」


 『悪魔の茶会(セレモニー)』とは、魔族の最高クラスであるZ級のもの達を指す別称。

 ネロが〈未開拓遺跡ラビリンス・リメインズ〉で出会ったあのA級よりも上位の存在。

 『神の実績(シン・クラス)』に匹敵する実力者。

 人間のような見た目をしているが、中身は魔族。

 それが仲間を作り、狡猾にこの国を狙っている。

 人類が、この国が、一番警戒をしなくてはならない連中であった。


 だから、このミエルの言葉にヤマトは納得するしかできない様子なのだ。


「……わかりました」


 苦虫を嚙み潰したように、ヤマトが頷いた。


「そういうことだから、よろしくねヤマト」


 イザベラは相変わらず口角を上げたままだ。

「ごめんね、ネロちゃん一緒にいられなくなっちゃった」


「謝らないでくださいヤマトさん。 私は一人で大丈夫ですから!」


 両手で謝るヤマトに、ネロは快活な返事をする。

 ヤマトに心配されたくない、甘えたくない。

 そろそろ自分が成長姿を見せたいから。

 だから、ネロはここでヤマトと離れて結果を残したかったのが本音だ。


「じゃあねえ~、ネロ」


 手を振りながらイザベラの別れの言葉に対して、ネロは軽く頭を下げた。

 そしてミエル、イザベラ、ヤマトの三人は離れてしまった。


「この場所に本当に来るのかしら、魔獣なんて」


 そしてネロは冒険者が集まる場所へ歩いて行った。

 今にも雨が降りそうなどんよりとした雲。

 ヤマトと離れてしまった寂しさからか、この天気の雰囲気からか少しだけネロは不穏な予感がしていた。

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