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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第51話「タイヨウの始まり」

「どこだここ……」


 タイヨウが目を覚ましたのは道路の上。


 布を掛けられ、簡易的な布団のような場所でタイヨウは目を覚ました。


「よかった目を覚ました」


 椅子に腰を掛けて、飲み物は飲んでいた彼がニコリと笑った。

 その顔が誰よりも爽やかだったのが印象的である。


「誰?」


「俺はマーク。 よかったよ、君が生きていて」


「もしかして、俺を助けてくれた人!?」


「ああ、ちょっと駆けつけるのが遅くなってしまってね。 でも大丈夫、ここら辺を焼き尽くしていた魔獣は僕が倒したから」


 タイヨウはその言葉に感動していた。


 いるではないか英雄は。

 この世には存在したのだ。

 憧れていた英雄が自分の命を助けてくれたのだ。


「君は運がいいかもね、あの火事の家で生きていたことが奇跡だ」


「あ、ありがとう」


 なぜかタイヨウは嬉しかった。

 英雄に褒められた気分だったから。


 運がいいという、自分の実力でなかったとしても彼に褒められることが嬉しくて仕方がなかった。


「マークさんは強いの?」


 タイヨウは自分の素直な疑問を質問する。


 聞きたくて知りたくて仕方がなかった。

 彼のことを尊敬しているからこそ、黙ってなんかいられなかった。


「いやぁ、どうだろうね。 僕が会った事もない強い人がこの世にはいるだろし、それに君みたいな子がいつか僕を超えるかもしれないからね」


 タイヨウは鼻息を荒らげながら、マークの話に耳を傾ける。


 この人の全てが知りたい。

 この人のような英雄になりたいと思ったからこそ、知識欲が先行していた。


「あ、そうだマークさん。 俺のお母さんとお父さんってどこにいるのか教えて! 早くマークさんのことを話したいんだ」


 タイヨウは早く両親に会って話がしたい。

 英雄がこの世にいたことを。

 一刻も早く、今すぐにでも話したかった。


「……タイヨウ君だったかな。 心して聞いて欲しいんだけど」


「ん?」


 マークが深刻そうな顔を浮かべ、目線を下に落としていた。

 なぜそんな顔をするのだろうか。

 それではまるで不幸な事が起きたみたいではないか。


「君の両親はもういないんだ」


「え? あ、この場所にはいないってことだよね! だったら場所を教えてください、走ってその場所に行くので!」


「いや、もうこの世にはいないんだ……」


「え……」


「すまない。 僕が駆けつけた時にはもう家の中には君と炎の魔獣しかいなかった。 でも君が生きていただけほんとによかっ――――」


「嘘だ!」


 タイヨウの目から大量の涙が溢れ出す。


「だってあんたは英雄なんだろ!? 誰でも助けてくれる、弱い者を救ってくれるんじゃなかったのかよ!」


 タイヨウはマークの体を殴った。


 この怒りを自分を救ってくれた英雄にぶつけた。


 それしか、できなかった。


 このどうしようもない悲しみを誰かに、どこかにぶつけないと悔しさで自分がどうにかなってしまいそうだったから。


「英雄なんかではないよ、僕は。 君の家族を守れなかったからね……」


 俯くマーク。


 その暗い顔がタイヨウの心をぐしゃぐしゃにした。


 怒りをぶつける相手がこの人でないことは幼いながらもわかっていた。

 それでも、どうしても、この人物に、英雄に八つ当たりをするしかできなかった。


「嘘だ、噓だ噓だ噓だ噓だ! 英雄なんてこの世にはいないじゃないか! 誰も助けてくれてないじゃないか!」


 もう涙で目の前が見えない。

 拳に伝わる感覚だけでマークを殴ることしかできなかった。


「ちょっと君! マークさんは君のことを助けてくれたんだぞ! 命があるだけ有難いと思いなさい!」


 近くにいた大人にはがされてしまう。


「離せよ!」


 今の自分ではこの大人一人にも勝てることができない。

 なんて無力なんだ。

 なんて弱いのだ。


「離してあげてくれ。 彼の言っていることは正しい、俺でよければいくらでも殴られるさ」


「で、ですが、マークさんはこの地を救った英雄ではありませんか」


「やめてくれ」


 鋭い眼光でその人物を睨みつけるマーク。


「はあ……」


 男がタイヨウを放すが、もうタイヨウには殴る力も立つ力も残っていなかった。

 放されたと同時に膝から崩れ落ちる。


「英雄を語るなぁ! あんたは、ただの人だ……」


 最後の力を振り絞って、声を発するが徐々にか細くなっていく。


 わかっているのだ、この人は悪くないと。

 むしろ自分を助けてくれた恩人なのだと。


 それでも今はぶつかることしかできない。


 するとマークは立ち上がり、タイヨウに目線を合わせて頭を撫でてくれた。


「僕は弱い、君の家族を守れなかったから。 だから、今度は君が他の人を守れるように強くなってはくれないか」


 目も涙でぼやけているが、なんとかマークと目線を合わせる。


「俺はなれるの、英雄に」


「ああ、なれるさ。 弱さを知った君はきっと僕よりも強くなる」


 なぜかまた涙が溢れ出した。

 なぜかその言葉が嬉しかった。


 心底恨むはずの相手が、なぜか英雄に見えてしまった。


「約束してくれ、今度会った時には今よりももっと強い君を見せてくれるって」


 片腕を持ち上げられ、小指と小指を交差した。


「マークさん、そろそろ……」


「ああ」


 そしてマークは立ち上がり、去っていく。

 その後ろ姿に感動を覚えた。

 こうなりたいと強く思った。


 両親を亡くした悲しみは消えない。

 この悲しさを一生引きずっていかなくてはならない。


 それでもマークと約束したから。

 今よりも、もっと強くなるって。


 弱者を助け、悪を滅ぼす。

 そんな英雄になるために。

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