第48話「戦光」
ティアがいなくなったと思ったら魔獣に数十、数百もの傷がつく。
全ての傷口から黒血が溢れ出し、魔獣が呻き声をあげながら地面に倒れて行った。
「『戦光』か……」
ネロが言っていたのだが、ティアには『戦光』という二つ名があるらしい。
俺はなぜこのように呼ばれているのかわからなかったが、この瞬間その名前の意味を知った。
魔眼を使わなかったらおそらくこの攻撃は追えていない。
一秒にも満たない間に数多の攻撃を繰り出す。
目にも止まらぬ速さならぬ、魔眼にも止まらぬ速さで。
よっ、カナタさん座布団一枚。
「カナタ・アゼレア。 どうだ私の力は」
なぜかこちらを振り向き、自慢をしてくる。
「ああ、強いな」
疑うことはなかった。
『神の実績』に一番近い人物はその名声の通り、実力があったから。
なぜかニヤリと笑った嬉しそうな彼女。
ただその言葉を聞きすぐに振り返って、歩いていく。
やっぱり褒められるって嬉しいもんなのかな。
【王の楽園】なら俺に褒められなくても十分わーきゃー言われてるだろうに。
「救護班をここに呼んである。今にも死にそうなやつらが何人もいるから、応急処置だけして救護班に引き継いでくれ」
「あんたは何もしないんかい」
こき使われたようで少しばかり腹が立ち、減らず口を叩いてしまう。
「私は【天使の加護】周辺に向かう」
「そういうことね、まあ応急処置とかなら得意だ」
かつて〈危険領域〉で何度ポチに手当をしてあげたことか。
それが今ではこんなことにも役に立つ。
あの経験をしておいてよかったかもな。
「そうか。では頼んだぞ」
そういうと一目散に【天使の加護】へと駆けて行った。
「はや。逃げてるときの俺ぐらいはあるな」
ティアの後姿を見送って、死にそうになっている奴らの応急処置へと向かった。
* * *
〈北にある大地〉北部の見晴らしの良い平原。
そこには数千の冒険者が集められていた。
厳重な装備を身に纏い、顔つきも余裕のある者は一人もいなかった。
この場所はギルド連合が一番警戒している場所。
平原を超えた先には〈危険領域〉、〈巨大橋のある街〉の次に激戦区になると予想されている場所だった。
つまり、魔族進行を止められるかどうかの鍵を握っている激戦区の一つだ。
そのためここに集まっている冒険者は戦闘経験が豊富で、実力も兼ね備えたもの達が選ばれている。
優秀な冒険者を束ねるこの場所のリーダーは『神の実績』である『太陽神』。
そしてここにはタイヨウの姿もあった。
「あ、あのマークさん!」
タイヨウが声を掛けたのは、『太陽神』の称号を持つマーク・ウェスト。
この防衛エリアのリーダーであり、『神の実績』である。
赤髪の彼はこれほどなく爽やかな顔で、身長も高く、女性のファンが後を絶たない。
人気もさることながら、実力も兼ね備えたまさにスター。
そんなスターにどうしても一言伝えたくて、これから戦だというのにマークを見つけにやってきたのだ。
「ん、どうした少年!」
マークが爽やかな声でタイヨウに返事をする。
「えっと、俺昔、マークさんに命を助けてもらって、えっと、それで……」
もじもじしたタイヨウが何とかマークに憧れの思いのたけを伝えようとしているが、緊張のせいか文章にもなっていなかった。
「そうか! じゃあ今回は他の人を助けると思って戦ってくれ!」
「は、はい!」
マークはタイヨウの思いを汲み取ったのか、爽やかな笑顔を見せる。
短いやりとりではあったが、タイヨウはその一言だけでも心底嬉しかった。
(やっぱすげえ人だな、マークさんは……)
嬉しさを心に留め、タイヨウは来る戦闘に目的を変えた。
マークのたった一言がタイヨウのやる気を底上げしていたから。
タイヨウは今までにない感覚を感じていた。
「来るぞ!」
マークがぼそりと呟いた瞬間、ドタドタとした地響きが鳴り渡る。
平原の先に見えたのは、数えきれないほどの魔獣の群れだった。
タイヨウも自分が配置された場所まで戻り、来たる戦闘に備える。
「総員、戦闘態勢!」
マークの声とともに冒険者が一斉に武器を構える。
「いけぇぇぇぇ!」
マークの叫び声とともに冒険者たちが駆け出していった。
タイヨウもそのうちの一人。
集団に置いてかれまいと、必死についていった。
集団は各々が魔力を練り、全速力で魔獣の群れへと向かっていった。
そして第一陣、最前線のグループと魔獣が衝突した。
押しては押され、一人が死に、一体の魔獣が死ぬ一進一退の攻防だった
魔獣に食われたものはその場で血を流して倒れ、魔獣も冒険者によって黒色の血を流す。
ここはまさに戦場。
「くっ!」
タイヨウはその姿を見て少し怯んでしまったが、落ち込んでいる暇などなかった。
魔獣がすぐそこに何十匹も存在するから。
能力を使いながら無我夢中で魔獣を倒していくタイヨウ。
ドガーン!
タイヨウから数メートル離れたところで、地面が揺れるほどの衝撃波が伝わった。
そしてそこら一帯のは魔獣がいたはず何もなかったように、一人の人物しか立っていなかった。
「あれが、『神の実績』」
そこに一人立っていたのは『太陽神』ことマーク・ウェスト。
地面はマークの位置から百メートルほど抉れ、近くにいた冒険者達も驚いた様子だった。
「さあ、行くぞ!」
マークの掛け声によって冒険者達の士気が上がる。
タイヨウもそれに応えるように魔獣を倒していった。
終わりの見えない戦い、疲弊していく体力。
それでも、マークに『太陽神』に追いつくためにタイヨウは拳を振るい続けた。
体にダメージを負おうが、顔に傷をつけられようが、戦うしかない。
それが国を守ることになるのだったら、命を燃やして戦う。
それがタイヨウという青年だ。
「え?」
隣にいた冒険者が空を見上げた。
そこには黒色の穴が浮かび上がり、禍々しい魔力を放っている。
そこから落ちてきたのは大型の魔獣。
タイヨウは一瞬で見分けがついていた。
かつてデコピンだけで屠られた魔獣。
手も足も出なかった魔獣。
体が少しだけ震えてきた。
唇を噛みしめグッと拳を握り、その畏怖からくる震えを何とか掻き消す。
「アンドラス!」




