第45話「カナタの始まり」
敵対する魔獣はそれも見事に頭から地面に打ち付けられていた。
自分が想像していたよりも遥かに魔力が籠っていることに驚いてしまう。
己の肉体であるのにも関わらず、自分で動かしているとは思えない。
そのぐらい不思議な感覚だった。
脳から送られた信号が瞬間的に伝わる、そんな感覚だ。
「グォォォォォォ」
ワームウッドが巨大な体をゆっくりと起き上がらせると同時に叫び声をあげた。
周りにうっそうと生えている木々が揺れ、付いている葉っぱが吹き荒れる。
そしてワームウッドが体から胞子のようなものを巻き散らした。
地面から生えてきたのは木で作られた小型のワームウッド。
その数、およそ百体。
その一体一体がゾンビのように俺に近づいてくる。
動きはワームウッドよりも早いが、それでも人の歩く速さよりも少し遅い。
走れば逃げることも可能ではあるが、さっき俺に付着した胞子によって俺の位置は特定されずっと追いかけ続けられることになる。
だったら選択肢は一つ。
こいつらを一体残らず殲滅するのみ。
俺の能力はおそらく時間制限つきだ。
でなければこんなに魔力が増幅しないはず。
そうだとすれば、俺の魔力が尽きるのが先か、こいつらを殺すのが先か。
俺はちらっと倒れているポチを見た。
負けるわけにはいかない。
逃げるわけにもいかない。
例え俺が死んだとしても、こいつだけは守って死ぬ。
「最後の偽物ヒーローショーだ」
笑いながら、ワームウッドの群れに駆け出して行った。
ここからあまり記憶がない。
無我夢中で目の前の魔獣を殺し続けた。
疲れても、肌が抉れても、骨が折れても。
俺は魔獣を殺し続けた。
ポチのため、愛する唯一の家族のため。
* * *
喉が渇いた。
お腹が空いた。
手足の感覚がない。
体にあるのは痛みなのか、疲労なのかすらわからない。
ただ背中にある人の温もりだけは感じることができた。
それのおかげで今なんとか歩けている。
丁寧に木を背にしてポチを座らせ、簡易的ではあるが薬草と水を混ぜあわせたものを飲ませた。
これで俺の役目は終わり。
偽物のヒーローショーはこれにて終幕。
バッドエンド。
いや、ハッピーエンドとしよう。
偽物らしい終わり方でいいではないか。
* * *
「なんか最悪な思い出のようで、良い思い出だったかもな……」
ニードルデビルの群れを全て薙ぎ払い、建物の屋上で地面に腰を下ろす。
俺は今までで何度もこの過去を思い出してきた。
辛そうになった時、逃げたくなった時、この経験を思い出すようにしている。
これに比べたら、辛いことなんて鼻くそのようなものだ。
今生きていればそれでいい。
過去なんて時とともに過ぎてしまえば、記憶とともに薄れていく。
でも、それでも、そうであっても、この経験は忘れることはできない。
それだけ俺の短い人生の中の大きな分岐点になることだろう。
「てか、空中にできた穴からA級が五体ぐらい出てきてたけどどこ行ったんだ」
俺がいる建物の屋上はここら辺だったら一番見晴らしのよい場所であるが、あたりをキョロキョロと見渡してみるもそれらしきものはいなかった。
この場所に集まっていた冒険者を魔眼で見ていたが、A級の魔獣を倒せそうな実力があるものはいなかった。
いや、一人だけいたか。
魔眼を使うまでもないと思ってハナから見ていなかった人物。
魔力が体中から溢れ出しており、言葉ではなく魔力によって他を圧倒していた女性。
「ティアか……」
まあ、あいつがA級を倒しているなら納得がいく。
しかしA級であることには変わりない。
『神の実績』に近いと言ってもA級との戦闘はかなりの消耗をもたらすはず。
これだけで収まればいいが。
「あ」
心の中で少し未来に不安を覚えた瞬間に、空中で黒のゲートがいくつか開いた。
なるほど、これが俗にいうフラグってやつね。
ゲートから出てきたのは、大型の魔獣。
その一体一体がデカく、禍々しい。
今回はニードルデビルのような小型の魔獣が出てくることはなかった。
その代わりにゲートは点在し、俺らの防衛エリアを埋めるように落ちてくる。
ゲートが閉まると同時に、巨大な魔獣がドンっという音を立てて地面に降り立つ。
ゲートは漏れなく俺の近くにも開いていた。
そこに落ちてきた一体の魔獣と目が合う。
「おいおい、こっち来るんじゃねえぞ」
目が合ったのは翼の生えている、大型の飛行魔獣。
見覚えのあるカラスの頭。
特徴的な鋭い爪。
口から剥き出した鋭利な牙を見せながら、こちらへと突進してくる。
「……逃げよ」
魔力を使って全速力で防衛エリアの中央に向かった。
そこに行けば、ティアがいる。
俺が普通に戦ってもこいつに勝てるわけがない。
勝てる奴に任せるのが、一番効率的で一番簡単なこと。
建物の路地を使って、右に左に迂回しながら目的の場所へと向かう。
俺が通った道は悉く破壊されていき、後ろを少し振り返れば家などは木端微塵に砕け散っていた。
「グギャァァァァ!」
後ろの魔獣は奇声を発しながら、俺の後を綺麗に追走してくる。
逃げ足なら俺のほうが上だな。
絶対普通に走るよりも足が速くなっている自信があるね。
そして中央の広場が見えてきた。




