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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第43話「カナタの昔話(二)」

 薄暗い森の中をゆっくりと地面を確認しながら進む。

 これでもない、あれでもないと呟きながら薬草を手に取っては捨てていた。


 間違うことができないという重圧と魔族に奇襲をされるかもしれないという恐怖感。

 大なり小なりの不安を伴いながらも、子供の命のためと思って必死に薬草を探す。


「あった……」


 しばらく捜索を続けていたら、これだというものを見つけることはできた。

 この極限状態の緊張で感覚が研ぎ澄まされたのか、この薬草を見つけた時に閃いたときのような衝撃が下りてきた。


 ただ薬草探しに必死になっていたせいでかなりの時間を消費してしまった。

 時計など持っているわけではないので太陽の陽の傾き加減で時間を確認していたが、薬草探しに必死になっていたため太陽の位置も確認していなかった。

 すっかり空も茜色に染まり、空気も肌寒くなっている。


 薬草が全く見つかる気配がなく、ポチも疲れにより寝てしまっていたため安全な場所に隠してきた。

 それでも心配で仕方がなかった。

 自分の選択が正しかったのか、それだけをずっと考えていた。


「早く帰らねえと」


 夜になれば魔獣も活発になってしまう。

 まだ日が昇っているうちに帰らなくてはならない。

 夜になった〈危険領域〉は魔獣も活発になるのに加えて、単純な視界の悪さによって一番危険度が増す。

 俺は疲れもピークであるはずだったが、そんな事は頭をよぎらなかった。

 魔力を使い、自分が持てる最大限のスピードを使って森を駆け抜けた。


 * * *


「ポチ?」


 石で覆われた小さい隙間を通り抜け、現在の拠点かつポチが寝ているところまで急いで帰ってきた。

 が、ここにポチの姿はなかった。


「あいつ、どこ行った……」


 息も切れ、魔力を使って全速力で戻ってきた。

 彼女のために、彼女の体調のために。


 心配という言葉だけが頭の中を逡巡する。

 あいつの体調を鑑みると遠くへは行けないはず。


 ただ俺も無我夢中で薬草をしていたため、ここに着いた頃にはすっかり日も暮れ森も静まり返っていた。

 ただでさえ静かな森が、暗い雰囲気に包まれることによって不気味で物騒な空気が漂う。


 ただでさえ少ない魔力を使い、周りをくまなく探す。

 それでも見当たらない。


 焦り、不安、命、その全てが肩にのしかかってくる。


「ポチぃぃぃぃぃ! どこだぁぁぁぁ」


 叫んでみても返事は返ってこない。

 それもそうだ、ただでさえ体調がよくない彼女が俺の声を聞いたとて返事なんかできるわけがない。

 甘かった。

 起きても動けないだろうと思った自分。

 薬草を取るのに必死になって時間を忘れてしまった自分。

 後悔してもしきれないとはまさにこのことだ。


 それでも足を使って駆け回り、声が枯れても叫び続けることしかできない。


 いない。

 どこにいるんだ。

 ポチ、ポチ、ポチポチポチポチ。

 ポチ。


 いつからこんなに彼女に依存してしまっていたのか。

 いつからこんなに彼女のことを思ってしまうのか。

 いつから、家族になってしまったのか。


 たかが一ヶ月。

 されど一ヶ月。

 短いようでとんでもなく長かった一ヶ月。


 辛いことしかなかった一ヶ月。

 夜も眠れず、一人で涙を流したこともあった。

 次の日のことを考えるだけで手も震えて、食事も喉を通らないこともあった。

 飯もろくに食えていないのに突然嘔吐をしてしまったこともあった。

 ただどんなに死にたくても、今すぐ逃げ出したくなっても、隣を見れば彼女がいた。

 彼女が心配してくれた。


 彼女のために、生きるしかなかった。

 いや、彼女のおかげで今でも生きている。

 なんとか生活ができている。


 依存と言われればそうかもしれない。

 でもご飯を食べているときの彼女の笑顔が、冗談を言った時に笑ってくれる彼女の存在がとてつもなく自分の中で大きなものになっていた。

 これが家族というものなのか。

 生死を共にした彼女はいつのまにか家族みたいな存在になっていた。


 無我夢中で走り続けたところに少し森が開けた場所に出た。

 月の光が眩いほど差し込み、明暗差で目を細めてしまう。

 夜でありながらも月によって明るくなっているこの場所。


 しかし、その月を見ることは叶わない。


 そこにいたのは巨大な魔獣。


 全身が緑の苔で覆われており、岩のようにごつごつした体格がわかる。

 顔にも苔のようなものがついており全貌を確認することはできないが、隙間から見えた爛れた顔が俺の緊張度を一気に上げる。


 ワームウッド。


 確かアザゼルがここら辺で一番気を付けたほうがいい魔獣だと言っていた。


 考えてみれば俺がポチを探すとき、魔獣と遭遇しなかったのだ。


 答えは単純。


 ここにヌシがいたから。

 ワームウッドがそこにいたから。


 とにかく逃げることを考えなければならない。


 魔獣がいなかったという事実が、ほんの少しだけ俺の心を和らげていた。

 これだったらポチの生存率も上がるから。


「お、にい、ちゃん……」


 足元から切なく、今にも途切れそうな声が聞こえてきた。

 細くても聞きなれた声。

 体が、細胞が覚えている声。


「……ポチ?」


 この現実をすぐには把握することはできなかった。


 目の前にいるワームウッドのせいなのか。

 探していた人物を急に見つけたからか。


 違う。


 ポチが今にも死にそうだからだ。


 可愛らしい顔面に緑のあざがついており、服も切り裂かれたようにズタボロ、裸足の足は泥だらけで血も滲んでいる。


「なんでお前、外に出たんだよ!」


 うつ伏せの彼女を抱きかかえながら、激しい口調で問い詰めてしまう。

 自身の管理能力のなさが招いたものなのにポチに八当りしてしまった。

 抱きかかえたポチは相変わらず高い熱を帯びており、呼吸も浅く、息をするのがやっとといった様子。


「おにい、ちゃん、が、いなかったから。わ、たし、さ、び、しくて……」


「すまん、俺のせいだ」


 苦しい状況なのに、今にも倒れそうなはずなのに、彼女は、ポチは笑ってくれた。


 そして安心したのか、俺の腕のなかで眠ってしまった。

 まだ息はしている。

 急いで薬草を調合して飲ませれば絶対に助かる。


 早く帰らないと。


「ウヴォー」


 野太いくやる気の声だが、森一帯に響き渡った。


 相手の動向を注視したうえで、ポチを背負って逃避を試みる。


「————え」


 瞬間、俺は遠く離れた木に激突していた。

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