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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第41話「黒い穴」

 ここら辺から街一面を見渡しても人の出はなかった。

 この魔族進行が発覚してからギルド連合は非常時に備え住民を近くのギルドへと避難させている。

 ここら辺に住んでいる大多数は【天使の加護ブレッシング・エンジェル】に避難済み。

 今頃ヴィオラさんが駆けまわって、色々なお世話をしてくれているだろう。

 いいなあ、俺もギルドに帰ろっかな。


 ギルドに帰る、か。

 生まれてこの方家などなかった。

 野宿が当たり前だったころに比べたら家があるというだけでも天国に近い。

 それに美味しいご馳走付き。

 何か悪いことでも起きそうなぐらい、順調であった。


「でも大体こういう時、悪いことしか起きねえんだよな」


 魔族進行の定刻を迎えたため、体を震わせるほど大きな鐘の音が静寂な街に鳴り響く。


 そして俺の悪い予感は的中してしまった。


 空中に大きな黒色の穴が開きそこから、小型の魔獣が溢れ出してくる。

 その数は遺跡で出会ったイカロニテクスの比ではない。

 イカロニテクスを始めとした、ざっくばらんな魔獣たち。

 そして最後に姿を現したのは、五体の巨大な魔獣。


 ここら一帯に点在する家と高さはなんら変わりない。

 その巨大な魔獣が一度に五体も出現した。


 ここから数百メートルの距離があるのにも関わらず、ずしんとした大きな足音がこちらまで聞こえてきた。


「A級か……」


 あのデカさ、あの魔力、一目見ただけでも魔獣の階位がわかる。


「グォォォォォォォォ!」


 煩いほどの雄たけびを上げ、その咆哮だけで近くにあった家屋が崩れ去った。


「ふぅ、さてどうしたものか」


 しかし、俺が考えたところであの魔獣を片付けることはできない。

 『偽りの英雄(ライアー・ヒーロー)』は極力使いたくないから。


 それは流調に構えているからではない。

 使ってしまえば俺自身が死ぬ危険性が高まってしまうから。

 まずは自分の命、それがあってこその人命救助だ。


 それにここには『神の実績(シン・クラス)』に一番近いとされている人物もいる。

 そう簡単には破られない。


「しかしまあ、なんで一直線に人に寄って来るのかねえ」


 黒い穴から出てきた魔獣たちは散り散りになっている。

 けれど向かった先は、さっきまで一緒にいた連中のところだった。


「ただ、俺も人の心配できる立場じゃないんだよな」


 そしてトンボ型の魔獣であるニードルデビルがこちらに向かってくる。


「おい、起きてるか《自由への翼(フリーダム・フェーズ)》」


「はい、マスター。 ただあまり機嫌がよくありません」


「どうして『古代武具ロスト・アイテム』に機嫌なんてあるんだ?」


「それは私にも魂が宿っているからでしょう。 でもマスター、はやく私の機嫌を直さなければ魔獣が来てしまいますよ」


「いや、もう来てる」


 《自由への翼(フリーダム・フェーズ)》と喋っていたら、ニードルデビルの群れは目の前まで来ていた。

 俺はすぐに高い場所から、地面に着地し逃亡を試みる。


「おいおい、早くしてくれないか? 俺今すごいピンチなんだけど」


「マスター、私はあなたの心の内がわかってしまいます。なのであなたが今どんな気持ちを抱いているのかわかってしまうのです」


「そうかい。俺はお前の気持ち全く読めなくて大変な気持ちをわかってくれているか」


 そういいながら路地を何回も曲がり、なんとかニードルデビルを巻こうとする。

 しかしニードルデビルは執拗に追いかけてきた。


「なあなんでご機嫌ななめなんだ? 腹減ってんのか?」


 これぐらいしか理由が思いつかない。

 人間が機嫌悪くなるのなんて、飯を食えば一瞬で解決できる。

 あ、でも武器に対してその理論は通用するのか? 


「……マスターにはデリカシーというのが欠如しているようですね」


 デリカシーも何もお前は『古代武具ロスト・アイテム』だろう。


「いてっ!」


 何者かに足を引っかけられ、その場に倒れ込んでしまう。


 人がいないこの付近に誰がいるというのだ。

 ただ答えはすぐにわかった。


「おい、ご主人様になにしてんだ」


 顔を見上げればそこにいたのは銀髪の幼女。

 幼い顔立ちながらも目鼻はくっきりしており、美形と言われるに相応しい。

 そして無表情ながら、双眸の黒色の点をしっかりと見つめている。


「これはたまたまマスターの足が私の足と絡まってしまっただけですよ」


「あからさまに足出してたの見えたけどな」


「あら、それは失礼しました」


 全く悪びれる素振りもなく、手を口に当てた彼女がこちらを見ている。


 こんなやり取りをしていたらブーンとした音が聞こえてきた。


「はあ、俺が悪かったよ。どうすれば機嫌を直してくれるんだ」


「マスター、そんな態度では私は納得できません。もっと丁寧に気持ちを込めて、そして私に可愛い名前をつけてくれれば納得しましょう」


「名前?」


 こんな時に名前なんて決めている場合か。

 と思った瞬間に彼女の姿を思い出した。

 そういえば、こいつは俺の心を読み取れるんだっけか。

 ふと顔を見上げてみると彼女の目は氷のように冷たかった。

 それは表情から察したわけではない、彼女から放たれている強大な魔力が禍々しいものになっていたから。


「わかったよ。 すまんかったな、フリル」

 

 フリーダム・フェーズ。

 名付けて、フリル。

 単純な名前かもしれないが、現状捻り出せる最高の名前だ。


「たった今許しました。 古の理に乗っ取って天命を信じ、あなたに力を授けましょう」


 そしてその瞬間彼女は刀となる。

 黒色の刀が地面に刺さっていた。


 そして一瞬で地面から飛び起き、その刀を手にする。


 古代武具ロスト・アイテム

 《自由の翼(フリーダム・フェーズ)


「さあ反撃開始だ」

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