第3話「ヤバい奴には近づくな」
「さ、とりあえず飯と行きたいが……」
昼飯時からすこし時間が空いてしまい、俺の腹はもうすっかりと空腹状態であった。
それも腹と背中がくっつきそうなほどに。
しかし、先ほどの射的をやったせいで昼食を食べられない状況。
なぜなら射的のせいで貴重なお金が俺の財布から消え去ってしまったからである。
てか、あの悪徳店主金返せよ。
空腹からか人混みを歩くことがかなりしんどくなってきてしまい、一時避難するために路地裏へと向かうことにする。
昨日から何も食べていないためか、自然と目線も下がってしまい路地裏を探すことさえ一苦労であった。
てか俺路地裏好きすぎるだろ。
路地裏観光大使として国から金もらえねえかな。
ドンッ
「あ、すみません……」
路地裏に入ろうとしたがちょうど向こうから出てきた人物とぶつかってしまい、反射的に謝罪の言葉を述べる。
「痛ってえなあ! どこ見て歩いてんだ!」
顔を見上げると、いかにも柄の悪そうな人物に睨みつけられていた。
路地裏の陰に覆われていながらもはっきりとわかる金色の髪をリーゼントに仕立て上げ、眉間にはこれでもかというほどにしわを寄せている。
体格も大きく、服の上から隠し立てもせずに筋肉が盛り上がっている。
ぶつかったのは俺のせいだけどよりによってなぜこいつなのか。
その風貌に俺は若干引きながらも、自身の運の悪さを悔いた。
なぜだか最近不幸が立て続けに起こっている気がする。
その不幸を一つ紹介するならば、最近行った外食だ。
10年に1度の卵が入荷されたと聞き、つい目を点にしてその店に入っていってしまった。
そして卵を見せてあげると言われなぜか厨房に連れていかれ、10年に1度の卵について店主から熱弁を受ける。
追記、今思えばそこまで希少でもなさそうな卵であった。
久しぶりの外食であったため値段なんか気にせずに食べてしまう。
値段はなんと普段の食費1週間分。
食後、なんとも言えない消失感を抱えたまま店を出る。
ちなみに飯は美味かった。もしかしたら本当に10年に1度の卵だったのかもしれない。
鉱石が入った袋を置いていったのを思い出し、急いで踵を返し店に戻る。
なんとびっくり、そこにあったはずの袋は綺麗になくなっていたのだ。
この袋は誰が取っていったのかを聞く。
店主は何も知らず、追い打ちをかけるように卵について熱弁Part2。
街をうろつく、所持金は1回の飯代のみ。
射的1回にそのなけなしのお金を使う。
現在、金髪ヤンキーに絡まれる。
QED不幸という言葉以外出てこない。
「おうおうおう、俺に喧嘩売るなんていい度胸じゃねえか」
「どうしてくれんだぁ~!」
「だ!」
周りにも目を向けてみると、ぶつかった相手の半歩後ろほどには取り巻きという名にふさわしい者たちが茶々を入れている。
風で吹き飛ばされそうなひょろひょろの男と、どんな風が来ても飛ばされることはないであろう太ったチビ男が続けざまに言葉を発した。
なんだこいつら、典型的なチンピラすぎないか。
そのチンピラ3人衆を見るや、話を聞きそうにない雰囲気を感じ取る。
そして飯を食べていないという、俺からしたら当たり前のことではあるが体は言う事を聞いてはくれない。
だから逃げようにも逃げられない。
仕方ないから流れに身を任せてみることにしてみる。
「イチルの兄貴、こいつ舐めた顔してますよ」
「よ!」
取り巻き二人が俺の表情を察してか、自分たちの金髪ムキムキリーダーをさらに煽っていく。
「おい、ニチカ、ミチ。手ぇ出すんじゃねえぞ」
イチルと呼ばれる取り巻きのリーダーは指をぽきぽきと鳴らし、悪どい顔を浮かべて睨みを利かしていた。
ガリ男とチビ男も、へっへっへっと笑いリーダーの動向を見届ける。
仕方ない。
あれを出すときが来てしまったか。
それに対抗するかのように俺もイチルと呼ばれる者に対して睨みを利かす。
その空気感の違いに気づいたのか、イチルも身構え取り巻き二人にも先ほどまでの余裕は見られない。
路地裏に独特な静寂がこの場を支配し、誰も言葉を発することはできなかった。
大通りの喧騒さえ、この場にいるものには届いてはいないだろう。
そして戦いの合図かの如く、音を立てた風が俺たちの間に吹き抜けてゆく。
心して構えよ。
刹那、俺は深々と頭を下げる。
「いや~もう、ほんとに申し訳ない! いや~こればっかりはね。いや~ほんとにほんとに、ね! 申し訳ない!」
ただひたすらに笑いながら謝ることで、俺のした罪を誤魔化す。
この場をなんとか逃れようとするために。
戦う事を放棄して。
これぞ俺の必殺技「ニコペコ戦法」であった。
笑うことのニコニコと、とにかく謝るペコペコを合体させた俺渾身の必殺技である。
この世で生きている以上、大なり小なりのトラブルは避けては通れぬ道。
その状況に陥ったときに俺が編み出した技はとにかく笑いながら、謝ることであった。
食事代が少し足りない、勝手に敷地を使って寝ていた、農家の作物を勝手に食べた、などなど数えればきりがないトラブルの数々をこの必殺技によって回避してきたのだ。
これをやるとなぜか向こうからトラブルを避けようとしてもらえる。
人間ヤバい奴にはかかわらない方がいいと本能的にプログラムされているからだ。
風がすーっと路地裏を吹き抜け、イチル達も固唾を飲み込んで俺の一連の行動を見届けていた。
「てんめぇ、何笑ってんだ!」
しかし、この男にこの必殺技は見事に打ち破られてしまう。