第38話「嵐の前の喧騒」
「カナタ君、危ない!」
魔獣が俺をめがけて駆けてくる。
かなり興奮した状態で、こちらを敵とみなして襲ってきていた。
「アル、ちょっと下がってろ」
俺は足に魔力を集中した。
魔獣と言っても、頭に脳がついていてそこから体に指示を出しているのは人間と変わらない。
で、あればそこに蹴りを入れるだけで十分行動不能にすることができる。
魔獣が三方向から俺に嚙みつこうとしてきた。
頭に確実にダメージを入れるためには、各個撃破が最善。
右から来た魔獣にまず挨拶代わりの蹴りを顎に突き当てる。
そして右の開いたスペースに体を移動させ、今度は左にいた魔獣に横蹴り。
俺を噛み損なった正面の魔獣は身を翻しもう一度、俺に攻撃してくる。
足を大きく上げて、俺はその魔獣に踵落としを喰らわした。
魔獣たちは脳震盪を起こし、その場で倒れる。
「ふぅ、にしてもなんで魔獣がこんなところにいるんだ?」
「おかしいね。ミエル君にこのことは伝えておくよ」
アルが険しい顔を浮かべて魔獣たちを覗き込んでいる。
「アル、さっと帰った方がいい。なんか嫌な予感がする」
「うん、そうするよ。それにしても相変わらずカナタ君の魔力の使い方は一級品だね」
「褒めすぎだ、このぐらい練習すれば誰でもできるようになるさ」
「できないよ、カナタ君じゃなきゃ」
アルが微笑を浮かべる。
そんな褒められることなんてなかったからこういう時どうしていいかわからない。
「カナタ君は今からどうするの?」
「俺は今から【天使の加護】に帰るよ。どうやら歓迎会が開かれるらしく、そこに大量にご飯が作ってあるらしいからな」
「そっか。それじゃあ、ここでバイバイかな」
寂しそうにするアルにこちらまで名残惜しい気持ちが出てくる。
「ああ、世話になったなアル。あいつらにもよろしく言っといてくれ」
「うん! また【森の妖精】にも遊びに来てね、きっとあの子たちも喜ぶから」
「そうだな、アルと会ったらまた騒がしいあいつらと会いたくなっちまったよ」
「……絶対だからね」
「俺は義理堅いつもりだ」
「そうだね。カナタ君は私たちのヒーローだもん、来てくれないと困るよ」
「ヒーローなんて簡単に言うなよ、俺はお前らと遺跡探索しただけだ。それじゃあな、アル。元気で生きろよ」
最後に手を振ってアルと別れた。
〈桜の遺跡〉か。
強くなってるんだろうな、ジェット。
* * *
「え~、ごほんごほん。それではこれより、えーっと、この後なんていえばいいんだ?」
「そんな堅苦しい挨拶なんていらないわよ、タイヨウ。さっさとこのどうでもいい奴の歓迎会を始めましょ」
「じゃ! かんぱーい!」
景気のいいタイヨウの声とともに歓迎会が開かれた。
目の前には、大量の豪華な食事。
ヤマトさんとヴィオラさんが丹精込めて作ってくれた、最高級のご馳走。
「いただきます!」
俺もタイヨウに負けじと元気な声で、声を出し料理に食らいつく。
うまい、うますぎる。
ヤバい、また涙ができそうだよ。
「ちょっとカナタ君、がっつきすぎだよ。料理は一杯あるからゆっくり食べてね」
隣にいたヤマトさんが俺の心配をしてくれる。
なんて素敵で幸せな空間なんだ。
「ちょっとヤマトさん、そいつに甘すぎない?」
「ネロちゃん焼きもち? も~う、可愛いなあ、このこの」
ネロの頭をごしごしと撫でるヤマトさん。
ネロも嫌そうな顔は一切せずに、ヤマトさんにされるがままだ。
なんだ、それじゃあほんとに焼きもちみたいじゃないか。
いいな~、俺もよしよしされたい。
「それにしてもまさかあのカナタがうちにくるなんてね。あの時あんなに断ったのに」
ヴィオラさんが珍しく笑いながら、喋りかけてくれた。
「言い方悪いすっけど俺も苦渋の決断でしたからね。 人生何が起こるかわかんないもんすね」
あの時断ったここのギルドに行きついた。
飯をご馳走になり生死を助けられ、そのお礼としてタイヨウとネロを助けた。
でも結局ヤマトさんに助けられてしまった。
だからといってこのギルドに来たわけではない。
俺が契約した〈自由への翼〉のためなのか、自分の好奇心のためなのか。
まあ俺は赤の他人のためなんかに頑張れないが、自分の好奇心のために副次的に助けてしまうのは別に厭わない。
「で、マスター。魔族進行の件はどうなったの?」
ヤマトさんが静かに一人で酒を飲んでいた【天使の加護】ギルドマスターに先日あった七大ギルド連合の結果について質問している。
その言葉を聞き、木製のジョッキに残った酒を飲みほして死んだ魚の目を俺らに向ける。
「……次の魔族進行は個人個人で別の場所で警備してもらう」
「え?」
ネロがその言葉の意味を十分に理解できなかったのか、もう少し詳しい説明をクロガネさんに求めていた。




