第37話「隠し札」
終わったか。
最初からこうしとけばよかったとは言えない。
俺にとってこの決断は重要で、悩み抜いた結論であったから。
《自由への翼》よりも元の世界へと帰ることのほうが大事だが、俺にも好奇心というものがある。
『古代武具』を調べたい、研究したい、真実を確かめたい、その欲が俺の悩みを一瞬にして消した。
アザゼルの探索も続けるが、こうなった以上道草を食わしてもらう。
それでいいんだろ、アザゼル。
それにもう一人も探さなくてはならない。
むしろ、こいつの方が先に探さないといけないとも思っている。
弱虫で泣くことしかできなかったあいつを。
この世界で唯一の俺の家族を。
「じゃあ、私たちはこれで! お邪魔しました」
「ヤマト、私の話は覚えてる?」
急にルーエが口を開いた。
「ルーエさん、私は【慈しみの愛】には入りませんよ」
「そう、残念ね。でも私は誘い続けるわ、いつでも私は待ってるから」
不敵な笑みでヤマトさんに語り掛ける。
ルーエとヤマトさんの間に何があったかは知らないが、『神の実績』を欲しがるギルドなんてどこにでも存在するだろうということで納得できた。
「カナタ・アゼレア。その『古代武具』は凶器ともなる、そのことを忘れるな」
「へーい」
最後にミエルに釘を刺されたが、てきとうな返事で誤魔化しておいた。
もうこのギルドマスターどもに媚びる必要なんてないからな。
そして俺にそんな力なんてない。
でもそれだけ『古代武具』が危険ということの暗示でもある。
ダメと言われれば、逆にどんどん興味が湧いてくるというものだ。
俺は探し続けるよ、この異世界の宝物を。
* * *
【天使の加護】にはヤマトさん一人で帰ってもらった。
俺にはどうしてもお礼を言わなければいけない人物がいたから。
もしかしたらその人物がいなかったら、『古代武具』は回収されていたかもしれないから。
「ごめん、カナタ君。なんか会議が長引いて遅れちゃった」
「いや、そこまで待ってないから気にするな。 それにしても久しぶりだな、アル」
そうその人物とは【森の妖精】ギルドマスター、アル・グリーン。
クロガネさんに言ったお願いは俺を【天使の加護】に匿ってもらうことと、アルに俺のことを話して味方をしてくれと伝えてほしいということだった。
正直アル一人であのギルド連合をどうにかできるとは思っていなかったが、こうやって何とかなっているのもアルのおかげだ。
「なんか、久しぶりだね。カナタ君と会うのも」
「そりゃそうだろ。あれからもう五年ぐらい経ってるからな」
「そうだね。でも驚いたよ 【森の妖精】には入ってくれなかったのに、【天使の加護】には入っちゃうなんてさ」
「これには色々と深い訳があってだな」
「ふふっ、ごめんごめんわかってるよ。でもちょっと妬いちゃうな」
クスっと微笑みながらからかってくるアル。
俺が会った時には常にもごもごとしている根暗な奴だったけど、人間という者は成長する生き物だな。
「それにしても助かったよ。お前がいなかったら『古代武具』が没収されていたかもしれないからな」
「ううん、私は何もしてないよ。ちょっと小言を挟んだだけ」
「その小言があの連中を黙らしたんだ。いつからそんな事できるようになったんだ?」
少しアルをからかってしまう。
でもこうやって心を許してからかえるのもアルだからだ。
「私もギルドマスターだからね。このぐらいはしないと。カナタ君があの時そう言ってくれたから、頑張れてるんだよ?」
アルは微笑みながら、真っすぐと俺の目を見つめてきた。
「そんな事言ったっけ?」
「あ~、忘れちゃってるでしょ! もうカナタ君は相変わらずだな~」
「俺も人間だからな。それに俺はついかっこいいことを言ってしまうから、言葉一つをいちいち覚えていないんでね」
「ふふっ、そうだね。 君はいつもかっこいいよ、あの時からずっとね……」
アルは昔へ思いを馳せるように懐かしそうにしている。
俺は〈危険領域〉から出た後に、色々なところを転々としていた。
目的はもちろん人を探すため。
その時出会ったのが【森の妖精】だった。
そしてこの時、俺は唯一の楽しみである遺跡探索を見つけることができた。
楽しみなことが何一つない俺に【森の妖精】は遺跡探索を教えてくれたのだ。
この異世界に絶望していた俺にアル達は楽しみを与えてくれた。
だから感謝しかしていない。
このギルドも俺のことを熱心に誘ってくれたのだが、人を探さなければならなかったためその誘いを蹴ってしまった。
だから、もう二度と会うことはできないと思っていた。
だからこそ、こうしてアルと喋れているだけで奇跡みたいなものだ。
「あいつらは元気してるか?」
「うん、それはもうカナタ君に追いつくぞーって意気込んでるよ」
「俺なんかとっくに超えてるよ、あいつらは」
ふと感傷に浸ってしまった。
あの時、あの〈桜の遺跡〉で苦楽を共にし、生死を共有した者たち。
俺の目からでもあいつらは会ったときから、俺より上であることはわかっていた。
「魔族進行は大丈夫そうなのか?」
「うーん、かなり厳しい状況だけどね。カナタ君がくれた魔族のデータがあるからそれを見ながら対策は練ってきたよ」
なんだ、結局使ってんのかよ。
「じゃ、俺は帰るとしようかな。ヤマトさんの飯が待ってるし」
そういった途端アルがムッとした表情を浮かべた。
「やっぱりヤマトちゃんが狙いなの?」
「狙いって言い方おかしいだろ」
「でもヤマトちゃんがいたからでしょ。 ふーん、そうかそうか。私なんて地味だし根暗だし、良いところなんてこのちょっと大きい胸ぐらいだもんね」
アルが胸に手を当てて、拗ねたように唇を尖らしている。
相変わらず、でけぇな。
「あのなあ、アル。俺は【森の妖精】には感謝しかしていないぞ。【天使の加護】もいいギルドだが、【森の妖精】もいいギルドだ」
「ギルドじゃなくて、私のことなんだけな……」
「ん? なんか言ったか?」
「カナタ君の鈍感」
ぼそぼそ言っていて聞こえなかった。
というか鈍感ってなんだ。
こいつはあの時もこんな感じだったな。
それが今やギルドマスターの責務を頑張って全うしているのだ。
先ほどあったギルド会議でのアルはどこへ行ってしまったのやら。
それでもこれは成長というほかない。
「グルルルル」
「ん?」
声の方を向けば、狼型の魔獣がそこに三匹。
それも警戒心剥きだしでこちらを見ている。
「なんで魔獣がこんなところに」
アルが驚くのも無理はない。
なにせここは王都〈セルティナ〉。
魔獣なんかいれば街中から衛兵がやってきて駆除する。
それにここは王都なだけあって厳重な警備体制が敷かれている。
いるわけがないのだ、こんなところに。




