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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第36話「切り札」

「百種類……」


 セクシーな女性が呟いた。


 さあ、どうするミエルさん。


「その情報が正しいかの判断はどうしろと?」


 しかし彼は変わらずの態度を取っていた。

 上に立つ者であれば、他人に流されない心を持つことが何よりも必要だ。

 それを彼は、ギルド連合のトップに君臨している者は、ちょっとやそっとではその心は崩さない。

「それは今〈危険領域(ブラック・テリトリー)〉を捜索している連中が持ってきた情報と照らし合わせて確認していただければいいです。一回の調査で十種類ほどの未確認魔獣が発見されているんでしょ?」


「それだけでは足りんな」


 あくまでも信用されていないってわけか。


「てかなんでそこのガキがその情報知ってるんだ? それにこいつはまだ『何もない実績(ミーデン・クラス)』だろ? 調査すらもできねえだろ」


 態度の悪い男は口も悪い。


 この交換条件を出した以上、この反論が来ることは想定内。

 本音を言えば先ほどの遺跡の件で決着をつける予定であったが、ギルド連合のトップはそう簡単にはいかない。


 深いため息とともに、言葉を続けた。


「俺は十年間、そこで暮らしていましたから」


「え!?」


 隣にいたヤマトさんが驚いて声を漏らしてしまっている。


 そして、それ以外の面々も表情を変えていた。

 一気に場の空気が変わったのもわかった。


「嘘をつけ、あそこは人間が住めるところじゃねえ」


 さすがにこれに真を置くことができなかったのか、その男が執拗に質問してくる。


「少し黙れブルシット」


 ミエルに制止され、チッと舌打ちをしてそっぽを向いた。


「それにも証拠が必要となってくる。残念ながら未確認魔獣百種類と君が〈危険領域(ブラック・テリトリー)〉に住んでいたことは信じ難い」


「でも、絶対その情報は必要だよね?」


「そうかしら。こいつが『悪魔の茶会(セレモニー)』の手先だったらその情報に踊らされて私たちが壊滅するってこともあり得るわよ」


「うむ。ルーエさんの言う通りだな」


「ぶーん。ガチャガチャがちゃーん!」


 『森の妖精(フェアリー・ウッズ)』のギルドマスターが俺の意見を飲もうとしてくれても、他のギルドがそれを許さない。

 こういう場では多数決がものをいう。

 一人が意見を言ったところで流されてしまうのだ。


 それに俺が住んでいた証明は難しい。

 なにせあそこの情報は頭にしか入っていない。

 これを証明するのには無理がある。

 誰か一緒にいたやつがいればいいんだが、あそこにいたのは俺を含めて三人だけ。

 しかもそのうちの二人の所在はわからない。

「それだけでは『古代武具(ロスト・アイテム)』との交換は不可能だ。 どうする、カナタ・アゼレア」


 不動の顔でこちらをじっと見てくる。


 やっぱり、無理か。

 いくら俺が小さい脳みそをフル回転させても、このミエルという男は突破できない。


 元から期待はしていなかった。

 ミエルを突破できたとしてもまだギルドの長たる連中がここにはいる。


 立場は俺より上。

 それに俺は犯罪者というレッテルが貼られ、地位としては最下位。


 意見を通そうと思っても、まず聞いてくれない。

 ハナから話を聞こうとしないこいつらに、聞く耳なんてあるわけがない。


 切り札を使うしかないか。

 持っていたカードは全て使った。

 それにそのカードたちはものの見事に破壊され、話は何も俺の予想通りにはいかない。


 そして切り札はできるだけ使いたくなかった。

 このカードを切れば俺の人生が大きく変わる気がしたから。

 そしてこれに関わる人たちも。

 それだけこのカードは重要であり、人生を左右してしまう。


「はあ」


 深いため息が漏れ出てしまう。

 ただもう悩みはこの息とともに吐きだすしかなかった。


 各ギルドマスターは俺のことなんて見向きもしていない。

 唯一見てくれているのは俺の真っすぐ前に位置している、ミエルのみ。


「さっさと帰れよ、犯罪者。 もうお前に反撃の余地はねえ」


 態度のデカい男が追撃してくる。


 ただその態度はもうできんぞ。

 これからは俺のターンではない。

 お前らと対等にいるそこの死んだ目のおっさんのターンになるからな。


「じゃあ、俺は今この瞬間に【天使の加護(ブレッシング・エンジェル)】に入ります」


「え!?」


 ヤマトさんが再度驚くのも無理はない。

 俺はこのことをクロガネさんにしか伝えていなかった。


 ヤマトさんには苦労を掛けたくなかったから。


 ここで俺の役目は終わり。

 あとは俺のギルドマスターに任せる。


 ちらっとクロガネさんを見てみると、驚いた顔をしている。

 おいおい、このおっさん俺の話忘れてただろ。


「どういうことだ、クロガネ?」


 ミエルが横に目をやり、クロガネさんに答えを求める。


「まあ言葉の通りだ」


「今この場ではカナタ・アゼレアが【天使の加護(ブレッシング・エンジェル)】に入ることは関係のない話だと思うが?」


「そうだな、言葉足らずだった。正確にはこいつを俺のギルドが引き取ることによって『古代武具(ロスト・アイテム)』の所有権を【天使の加護(ブレッシング・エンジェル)】にくれっていう話だな」


「はぁ? クロガネ、言葉に気をつけなさいよ」


「そうだぞ、クロガネ君! ルーエさんの言う通りだ」


「うーん、でも確か【天使の加護(ブレッシング・エンジェル)】って唯一『古代武具(ロスト・アイテム)』持ってないギルドじゃなかった?」


「おいおい、【天使の加護(ブレッシング・エンジェル)】の味方すんのか、アル」


「ここでは敵も味方も関係ないし、むしろ全員が味方でないとダメだよ。それに魔族進行において各ギルドに戦力のバラつきがあってもよくないと思うんだ」


 アルの言葉によって、ここにいたギルドマスターの口が止まる。


「弱小ギルドの【天使の加護(ブレッシング・エンジェル)】が『古代武具(ロスト・アイテム)一つぐらいで戦況が変えれるわけでもねえだろ」


「じゃあその『古代武具(ロスト・アイテム)』ぐらい、弱小ギルドに渡してもいいよね?」


 ニッコリとアルが微笑む。

 アルの言い分が最もだったのか、先ほどまで反論していた男も黙ってしまった。


「クロガネ」


「ん?」


「この男と『古代武具(ロスト・アイテム)』を管理できるのか?」


「まあ大丈夫だろ。その隣にいる『神の実績(シン・クラス)』がなんとかする」


「もしできなかったら、わかっているな?」


「ああ、その時は俺がこいつを殺すよ」


 クロガネさんがはっきりとその言葉を告げた。

 それでいいさ、そっちの方が俺も好き勝手出来る。


「そうか。であれば、今回の魔族大進行に限り『古代武具(ロスト・アイテム)』は【天使の加護(ブレッシング・エンジェル)】のものとする」


 限り、か。

 まあ可能性が少しあるだけでも今回はよかったな。


「反論があるものは?」


「……異議なし」


「異議な――し!」


「ブーン」


「異議なし」


「チッ。だがなクロガネ。今回限りって話だぞ」


「それでいい」


「では、反対0名として今回の『古代武具(ロスト・アイテム)』の所有権は【天使の加護(ブレッシング・エンジェル)】に委ねることとする」


 ミエルが毅然とした口調で、この『古代武具(ロスト・アイテム)』と犯罪者である俺の話は終わった。

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