第33話「【天使の加護】ギルドマスター」
階段を下りた先の大広間にはすでに料理の準備がされていた。
長い机にこれほどかというほど料理が敷き詰められている。
そしてその机を囲む人は見覚えのある連中だった。
タイヨウ、ネロ、ヴィオラさん。
そして、死んだ目のおっさん。
誰、この人?
「お! カナタ!」
「へえ~、生きていたのね」
「カナタ君!」
二人は歓迎、一人は嫌そう。
ネロちゃん、俺一応君の事助けて上げたんだけど。
「さあ、カナタ君も席に座って!」
ヤマトさんに導かれるまま長机の横に並べられた椅子に腰を掛ける。
そして目の前には死んだ魚の目のおっさん。
「さあみんな! 手を合わせて、いただきます」
ヤマトさんの号令の元、各々が料理を食べ始める。
タイヨウは見境なく目の前にある料理をがっつき、ヴィオラさんはサラダを取り分けてくれていた。
ネロもそのサラダを受け取り美しい所作でご飯を口に運んでいる。
そしておっさんはずっと俺の方を見ている。
「なんか、知らないおっさんいるんすけど不法侵入者ですか?」
「ぶっ、あははは。マスター変質者だってぇ!」
ヤマトさんが腹を抱えながら笑っている。
マスター? ってことはもしかして……。
「おい」
「はい」
自然と背筋を伸ばし、次の言葉に備えてしまう。
「ほんとにお前が一人でA級を倒して、Z級と戦ったのか?」
死んだ魚の目ではあるが、この人が持つ独特なオーラが俺の目を離さない。
一見すれば本当にどこにでもいる、ただのおっさん。
それでも見えない何かが俺の目を掴んでいた。
「ごめんごめん、紹介が遅れたね。この人が【天使の加護】ギルドマスター、クロガネさん。死んだ魚の目をしてるけど、すごーく強いから安心して」
「ヤマト、死んだ魚の目は余計だ」
ぼさぼさの髪に無精髭、服のしわはこれほどかというまでについている。
死んだ魚の目に目線が集中してしまうが、他の顔のパーツを見ても覇気が感じられない。
こんな生きているか、死んでいるのかわからない人がギルドマスター?
でもヤマトさんが強いと言っているのだ、相当な実力者であることは間違いないか。
「で、お前がほんとにやったのか?」
改めてクロガネさんが聞いてきた。
「うーん、全て俺の力ってわけではないっすけど」
「ふーん」
「え、もっと聞かないの?」
「いや、もうめんどくさくなっちまった」
絶対にこのおっさんみたいな大人にならないでおこう。
たった今、そう決心した。
「じゃあ、私が代わりに聞く。『古代武具』はどうなったの?」
『古代武具』か。
あの夢で出会った少女はおそらくそれだ。
そうであるならば、その行方はただ一つ。
「俺の中っすね」
ヤマトさんが驚いた表情を浮かべている。
そしてここにいた他の者達も、例に漏れず同じように深刻そうな顔を浮かべていた。
あれ、なんか俺不味いこと言ったか。
「うーん、これは不味いことになったかもねマスター」
「はあーあ」
クロガネさんが大きなため息とともに、死んだ目がさらに死んでいた。
片手に持っていたビールのコップをちびちびと飲みながら、近くにある魚の開きに手を伸ばしている。
「どういうことっすか?」
「君は契約しちゃったんだよ、『古代武具』と」
「契約?」
「『古代武具』には魔力が宿っているっていうのは知ってるよね? 『古代武具』はこの国で大変貴重なものなの。だから国は勝手に契約することを禁じている」
ヤマトさんが俺の目をじっと見つめている。
ヤマトさんが真剣な時は決まって悪いことしか言わない気がする。
冗談を言っている場合ではないときだからだ。
「だから、君は今法律を犯したことになっているの。つまり、今君は犯罪者」
「……まじ?」
珍しく胃袋よりも現状起きていることが頭を逡巡している。
今までしてしまった小さな悪行は謝ることでなんとか逃れてきたが、今はそれができない。
だって勝手に契約されちゃったもん。
ただ、夢の中で出会った少女の顔が忘れられなかった。
心の底から助けを求める悲痛な表情。
そして命を救ってもらった恩人。
今《自由への翼》を取り出すことはできないが、もし取り出せたとしても簡単に誰かにゆずるつもりはなかった。
それが犯罪だとしても、彼女との約束は守らなくてはならないから。
それが彼女への恩返しであるから。
命の対価は重い。
返すためにはそれ相応のことをしなくてはならないとも思う。
そして俺はこの異世界出身ではない。
俺からしてみれば『古代武具』と契約してしまった法律の重さ、罪の重さに実感が湧かないのが本音であった。




