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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第2章「魔族侵攻編」
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第32話「夢の中で」

 俺が目を覚ました場所は白い靄がかかったようなところだった。

 どこにいるのか、何をしているのかすらわからない。

 体がふわふわしており、例えるなら空に浮いているようなそんな感覚であった。


「死んだのか、俺?」


 自分が覚えている最後の記憶は、《自由への(フリーダム・フェーズ)》を自身の胸に突き刺したところまで。


 改めて周りを見渡してみても白色の空間だけがそこには存在し、物などは一切なかった。

 出口もなければ、地獄へとつながる三途の川も見当たらなかった。


 チョンチョン


 後ろから指で誰かにつつかれる。


「おはよう、マスター」


 振り向いた先にいたのは銀髪の髪がよく似合う女の子。

 長いまつ毛に大きな瞳を持ち合わせクールな見た目をしており、ふっくらとした小さな唇が印象的。

 白いワンピースを1枚だけ着ており、そこから露になっている肢体が眩しい。

 ただ一つ残念なところは子供だということ。


「マスターは小さい女の子、嫌い?」


「え?」


 心を読まれたことに驚いてしまう。


 ここは死後の世界だろうから、そんなことができてしまってもおかしくないか。

 だとすれば、この子は神様?


「ううん、マスターは死んでない。それに私は神様ではないわ」


「えっとじゃあここは?」


「マスターの心を仮想的な空間に呼び出しているだけ、言い換えれば夢の中」


「夢? てことは俺死んでないのか?」


 小さな彼女がコクっと頷く。

 だとすれば疑問に残る点がある。

 あの時、俺は確実に自分の胸を刺した。

 シェムハザに乗っ取られないために、自分の信念を貫くために。

 だから死んでいないという事実が不思議でならなかったのだ。


「私がマスターの魔力に溶け込んで、命を救ってあげた」


 夢の中ではあるが自分の胸を確かめる。

 心臓の鼓動は感じることはできないが、生きている安心感のようなものが全身を伝った。

 過去の地獄のせいで死ぬことに耐性がついたと思っていたが、やっぱり生きているってわかるとこれほど嬉しいものはない。


「ありがとうな」


 少女の頭を撫でる。


 なんか懐かしいな。

 昔こうして何回もあいつの頭を撫でてたっけ。


「ねえ、マスター。命を救った代わりに頼みたいことがあるの」


「おう、いいぜ。命を救ってもらったからには俺ができることならなんでもする」


「……私たちを解放して欲しいの」


「ん? どういうことだ」


 反射的に首を傾げてしまう。


「そろそろ時間、でもこの約束は果たしてほしい」


 言っている事が何も理解できない。

 でも一人の少女が、俺の命を助けてくれた恩人が、頼みごとをしている。

 だからこそ、断る理由はなかった。


「よくわからんけど、できることはする。借りたものは返さないと気が済まないからな」


「——ありがとう」


 すると突然視界が光に包まれる。


 最後まで彼女の言いたいことはわからなかった。

 彼女は誰なのか、どうして俺を救えたのか。

 なぜ、俺の魔力に溶け込めたのか。


 いや、あの状況で一人だけ救える奴がいた。

 俺が最後自分の胸を刺した、『古代武具(ロスト・アイテム)』だ。


 * * *


「どこだ、ここ……」


 目を開けてみれば見知らぬベッドで横になっていた。

 上体だけ体を起こして周りを見てみても見知らぬ景色が広がるだけで何もわからない。


 ただ太ももあたりで暖かさを感じ、その場所に目線を配ってみると見慣れた人物がそこにはいた。


「ん、あ、おはよう、カナタ君」


 目を擦り、寝ぼけた顔でニコッと笑う女性。


「ヤマト、さん?」


 大きな欠伸と伸びをして、俺のベッドに顔を伏せていたヤマトさんが目を覚ました。


「よかったよ。死んでなくて。ヒーローはこんなところでは死なないからね」


「なるほど。ヤマトさんにまた大きな貸しができちゃったみたいっすね」


「私と君の仲なんだから、貸し借りで君のことを助けたりしないよ。君だってそうでしょ?」


 ニコリと笑いながら、こちらを見てくる。

 その双眸でこちらの胸の内を見られているような気がしてしまい、若干の恥ずかしさが芽生える。


 助けた、といえばそうなのだろうか。

 ヤマトさんには確かに借りがあった。

 そのヤマトさんにタイヨウとネロのことを頼まれていたことも記憶を巡ればそのような事もあった。

 しかし、A級魔獣がいたこと、そしてそれ以上の力を持つシェムハザという男。

 この凶悪な者に対して、そんなことを考えられるほど余裕はなかったのも事実だ。

 だから自分の中では助けた、というところまでは至っていなかった。


「で、どこまで読んでいたの?」


 ヤマトさんがにこやかな表情を変えずにこちらを見てくる。


「読んでいた、とは?」


「私があの場所に辿り着くまでに、壁に人為的に書かれた矢印がつけてあったわ。それも迷いそうなところで正確に。あれ、あなたが書いたんじゃない?」


 ほんとにこの人は全てを見透かしたように聞いてくる。


「さあ、どうでしょうね」


 俺もヤマトさんそっくりにニコリと笑ってみせる。

 別に隠すようなことではないのもわかっている。

 どうせヤマトさんのことだ、俺がやったことだとわかっているはず。

 ヤマトさんの手のひらで踊らされたくないという思いからか隠すような言葉遣いになってしまった。


 確かに俺は一人で遺跡内を迷っていた時、壁に目印をつけながら探索をしていた。

 でもそれは未開拓の遺跡を探索する上では当たり前のことだ。

 これからこの遺跡を調査するためには、誰かがその面倒くさい作業をやらなくてはならない。

 俺にとっては癖のようなものだった。

 だから、ヤマトさんが来るとわかっていたから目印をつけていたわけではない。

 でも心のどこかでは、ヤマトさんが来てくれることを願っていた。

 遺跡素人同然の冒険者に〈未開拓遺跡(ラビリンス・リメインズ)〉を調査することに危機感を感じていたのは、ヤマトさんも同じようだったから。


「いじわる」


 拗ねたようにヤマトさんがプイっとそっぽを向く。

 ヤマトさんは年上のようだが、たまに見せる子供っぽさについ可愛いと思ってしまう。


 危ない。

 好きになっちゃう。


「さあ、とりあえずご飯食べよ。カナタ君に会わせたい人がいるし」


 会わせたい人というのには引っかかるが、そんなことは心底どうでもいい。

 またヤマトさんの飯を生きて食べられる。

 それだけで幸せなことだ。


 俺も久しぶりに生きるか死ぬかの状況に出会ってしまった。

 できるだけ避けて通ってきたが、運命というのは非情なもので追いかけるように俺の後ろを走り終いには壁として立ちはだかる。

 それでも、生きるためにはその壁に立ち向かわなくてはならない。

 どんなに厚くても、どんなに高くても挑み続ける。

 俺にできるのはそれぐらいだから。

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