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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第1章「未開拓遺跡編」
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第31話「敗北」

「は?」


 俺がその言葉を口にしたのち、シェムハザはこの言動に呆気をとられていた。


 刀を地面に落として、両手を挙げ降参のポーズを取る。


「もう魔力が底を尽きた、俺の負けだ」


「は? おいおいおい! こっからが面白いところだろ!?」


 シェムハザも何が起こっているのかわかっていない様子だ。

 せっかく見つけた好敵手がもう白旗を挙げている。

 彼の表情はひどく落胆しているように見えた。


「何度も言わせるな、もう魔力は残ってない。だから戦えない」


 シェムハザは未だに納得の表情を浮かべていない。


 悍ましい魔力は段々と静まっていきこの場には静寂が訪れる。


「————ま、しょうがねえか。でもお前のことは気に入った」


 意外にもあっさりと俺の言葉を受け入れてくれている。


「なら、見逃してくれたりしないのか」


 シェムハザはフッと笑い、言葉を吐き捨てる。


「それはないな。さっきも言ったが俺のことを知られた以上、返すわけにはいかない」


「そうか……」


 少し残念そうにしたが、わかりきっていたことだった。

 仕方なく現実を受け入れるしかなかった。


「ひとつだけ、お前が生き伸びる道がある」


「……」


 返事をすることはなく、シェムハザの次の言葉を待つ。


「俺たちの戦闘兵器になれ」


「は? どういうことだ」


 意味が分からない。

 そしてお断り。


「お前を〈危険領域(ブラック・テリトリー)〉に持ち去り、お前を兵器化する。そうすれば、魔力が尽きることはなく俺といつでもさっきの状態のまま戦えるだろ」


 シェムハザは表情を一切変えることなく、あくまで冷静に語った。

 それだけシェムハザは本気で言っているということがわかる。


「嫌だね、あんな場所には二度と戻りたくない。 それにどうせお前の能力で俺がおもちゃにされるだけだろ?」


 俺は冷静にその後の状況を分析した。

 俺の分析が当たったのか、シェムハザは嬉しそうにしている。

 指をパチンと鳴らし、指さしてウインクをする。


「御名答!」


 ハーっと息を吐き捨て、俯く。


「だったら……」


 地面に落ちている刀【自由への(フリーダム・フェーズ)】を拾い上げて、刃先を自分の胸に向ける。


「ここで、死ぬわ」


 この状況でも余裕を持つことは忘れない。

 今から死ぬというのにも関わらず。

 ぐっと歯を食いしばり、俺はそのまま刀を自分に刺そうとする。


 しかし、刀を握っている両手が動かなかった。


「おいおい、勝手に死ぬなよ」


「ぐっ……」


 シェムハザは何もしていないのに、俺の手と体が動かない。


「いつのまに……」


 俺の目には、細い糸のような魔力が自身の体を縛っているのが映る。

 先ほどの二重の虫篭といい、圧倒的な魔力があるのにも関わらずこのようにばれないように魔力を隠すという器用な部分もある。


 強いな。

 さっき戦った魔獣にキレのある頭が加わったようなもんか。


「そりゃ、勝てねえか」


「もうお前は、俺の傀儡だよ」


 俺の顔にぐっと自分の顔を近づけ、不敵な笑みを浮かべている。


「まあ、これから長い付き合いになる。仲良くやろうや」


 そしてシェムハザは片方の手で、俺の頭に手を置く。


「『呪縛の傀儡(パペット・カース)』」


「っ!」


「さ、帰るか。『古代武具(ロスト・アイテム)』ともう一つ。いい土産ができた」


 その言葉を聞いたと同時に地面に倒れる。


 刀を自分の胸に突き刺して。


「は?」


 どうせ困惑でもしているのだろう。


 能力によって自身の手駒にしたやつが、目の前で死んだのだから。


「はっ。よかったよ、自分の、死ぬ場所ぐらいは……」


 言葉も最後まで言うことはできなかった。

 大量の血が地面に広がっていくのがわかる。

 床に広がる血は真っ赤な鮮血。

 俺とシェムハザの戦いはこれにて結末を迎える。


 * * * 


 シェムハザは頭の中を逡巡していた。

 どこで、こいつは自分の胸に刀を刺すことができたのか。


「俺が能力を使ったときか……」


 チッと舌打ちをして、シェムハザは悔しがる。

 自身が隙を見せてしまったことに。


 おそらく【自由への(フリーダム・フェーズ)】は魔力を切ることができる。

 つまり、自分の体に刀を刺せば自身に纏わりつく魔力を掻き消すことができるということだ。


「わかっていても自殺なんてできねえだろ。 普通の人間なら、な」


 シェムハザは関心すると同時に悔しがる。


 この男の死への耐性と、死ぬことへのためらいのなさは普通の一般人では到底辿り着けない。

 躊躇なく死ぬことを選び、死ぬ選択から逃げなかった。


 シェムハザが出会ってきた人間で彼が初めてだった。


「まあ、死んじまったものはしょうがねえか。このお宝だけでも持って帰るか」


 残念そうに、カナタを見る。

 シェムハザが一人の人間にここまでの感情を抱くことはなかった。

 それだけ、この男を魅力的に感じている証。


 そしてカナタの心臓に刺さっている刀を握った瞬間だった。


 シェムハザはとてつもない魔力を感じ取り、カナタから距離をとる。

 そしてカナタの周囲にまばゆい光が集中し、それが人の形になっていく。


「ちょっと遅かったかな……」


 すると可憐な女性が姿を現す。

 長いまつ毛に、大きな瞳。艶やかな髪は肩にかからない程度の短さにし、後ろで二つに結ぶ。

 美女と言われる人間を何人も手駒にしてきたシェムハザの目にも絶世の美少女として映ってしまう人物が。


「可愛いらしい女の子だねえ。俺の人形にしたいよ」


 言葉とは裏腹に、シェムハザはその強大な魔力を警戒している。


「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。でも……」


 彼女は手のひらをシェムハザに向ける。

 光が彼女の手に集中する。


「魔族は大嫌いなの」


 すると目にも止まらぬ速さで、一本の光の矢がシェムハザを襲う。

 なんとかその攻撃を防いだシェムハザであったが、その表情に余裕はない。


「お姉さん、何者?」


「私? 私はヤマト・プリステス。 あなたたちからしたら、『神の実績(シン・クラス)』って呼ばれることが多いのかな」


 ふふっと笑いシェムハザを挑発している。

 敵対しているのは凶悪な魔力を持ち、遺跡探索メンバーを半壊させた魔獣よりも数段強い相手のはず。


 しかし、その彼女からは焦りの表情は見えない。


「『神の実績(シン・クラス)』か……」


 シェムハザは納得した様子であった。


 『神の実績(シン・クラス)』とは人界において、特別強い者たちを指す言葉。

 人界の最後の壁と言ってもいい。

 その戦力はたった一人でA級をゆうに倒せるほどだ。

 シェムハザでさえ余裕を見せられない相手であった。


「ほんとうはお姉さんを人形にしたいところだが、『神の実績(シン・クラス)』となれば話は別だ。今、この場で殺す!」


「————やめなさい、シェム」


 シェムハザが攻撃を仕掛けようとした瞬間、隣に黒いゲートのようなものが開かれる。

 そしてそこから出てきた人物は一人の幼女。

 幼い顔立ちであるが両目に包帯を巻き、艶やかな桃色の髪を腰まで伸ばした小さな身長をしており、一見子供のようにも見える。


「サマエル」


 シェムハザは悔しそうにするが、半ば諦めた様子だった。


 サマエルが現れたということは、時間切れの合図。

 そして、自分がミッションを失敗したことを知らせる合図でもあった。


「ちっ。しくじったか」


 ヤマトと交戦を控え、そのゲートに足を踏み入れようとする。


「あら、逃げるの?」


 ヤマトは戦う気がないシェムハザに対し、いかにも戦闘する気満々だ。


「今じゃあないだけだな」


 シェムハザがにやりと笑い最後に言葉を置いていった。


「もしそいつが生きていたら言っといてくれよ、もう一度お前に会いに行くってな」


 それだけ言い残し、シェムハザとクラネルはそのゲートに消えていった。


 ヤマトは逃げるシェムハザ達を追撃することはしなかった。

 なぜなら、自分の横に死にかけの少年が倒れているから。

 ヤマトは内心ほっとしていた。

 まだ助かるかもしれない命がそこにあったから。


「魔族のいうことは聞きたくないけど、それだけは伝えといてあげるわ。この子のためにも、ね……」


 ヤマトはカナタの隣でしゃがみ込み、カナタの顔を見つめる。


「こんなところで死んでちゃダメだよ、カナタ君……」

なんとか1章無事完走できました!

最後まで書けるように自分も精進して参ります!

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