第29話「古代武具」
少し距離を置き、戦闘態勢をとってみるが俺に魔力なんていうものはほとんど残っていない。
この一撃に魔力を乗せきってしまったから。
そしてシェムハザがゆっくりと顔を上げる。
その表情は先ほどまで見ていたものとは打って変わり、眉間にしわを寄せ、歯をかみしめ、怒りを露わにしている。
「お前、俺の顔に傷をつけやがったな……」
「まあ、そんな怒るなよ。怒ったらその汚ねえ顔も台無しだぜ」
俺は不敵な笑みを浮かべ、シェムハザを煽ってみせる。
これが今できる最大限の抵抗であった。
が、こいつはそんな言葉に聞く耳すらも持っていなかった。
「ころ、す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
シェムハザの魔力は元々凶悪な魔力であったが、それがもっと殺意を帯びたものとなって周りもその魔力に包まれていく。
「流石に、これ以上は無理か」
なんとか余裕を見せているつもりではあるが体は嘘をつかない。
額には嫌な脂汗が滲み、呼吸も乱れているのがわかる。
さっきの攻撃で大抵のやつは死ぬんだけどな。
目を閉じ、シェムハザの攻撃を何もすることなく待つ。
眼前に立ちふさがるシェムハザからは先ほどと比べものにならないほどの強烈な魔力を放ち、こちらにも痛いほどに殺意が伝わってくる。
「だからってこんなところで死ぬわけにはいかねえんだ」
そうだろ、アザゼル。
自分の恩人であり、師匠であり、親である人の名前を心で呟いた。
かつて、自分を育ててくれた人物の名前を、自分を死ぬまで追い込んだ人の名前を、自分に優しくしてくれた人物の名前を。
「『偽りの英雄』」
「死ねえええええええ」
禍々しい魔力が咆哮とともに立ち尽くす俺に向かって攻撃がなされる。
その攻撃によって顔や体に切り傷をつけながら、距離を詰めシェムハザが片手に持っていた包帯で巻かれたものを奪う。
「これもらってくぞ」
「っ!」
もうここまで来たら、あとは運に任せるしかない。
運に身を委ねることは好きではないが、この状況であれば頼らざるを得ない。
「雑魚がぁ!」
シェムハザは物を奪われた程度では、攻撃を止めることはない。
俺の動きに合わせて魔力が獣のように追尾してすぐそこまでやってきている。
「結局運ゲーか……」
『古代武具』は大昔、天界大戦争で使われた武器という伝承がある。
アーノルドが持っていたような『魔法武具』と違い、この武器自体に魔力が備わっているのだ。
そのため『古代武具』の周囲には魔族が集まる傾向にあり、入手するのが困難。
加えて強大すぎる力故か、今俺がいる遺跡や洞窟などに封印されていることが多くそれも難易度を跳ね上げている要因。
本当は賭けなんてしたくないだけどな。
頼むぜ、古の武器。
その武器を構えシェムハザの攻撃を受け止める。
『古代武具』を封印していた包帯がシェムハザの魔力が衝突したことにより散っていく。
包帯で姿を隠していた古代武具が姿を現した。
黒色の鞘に、黒色の柄。
すべてを飲み込むかのように、すべてを無に帰すかのように漆黒であった。
そしてこの形には俺自身にも馴染みがあった。
そして鞘から刀を抜くと、真っ黒な刀身に赤色の刀文が焼かれている。
古代武具
【自由への刃】
「気が変わった。三十秒だけ、相手してやるよ」
ニヤリと笑ってみせたところで地面を蹴って正面からシェムハザを切りかかる。
シェムハザは寸でのところでそれを避けたが、カウンターのように指を立てて禍々しい魔力を放出し切り裂こうとしてきた。
何もない空間に切り裂くような魔力が繰り出された。
当ってしまう寸前で、その攻撃を【自由への翼】で切る。
切った瞬間にポンっという音を立てて魔力が突然として消え去った。
「っ!」
怒りに満ちているシェムハザでさえも、その攻撃が無力化されたことに驚いていた。
シェムハザの攻撃を切り終え、息をつく間も与えずに切りかかる。
シェムハザも先ほどの攻撃が大きかったのか、隙ができており防御もままなっていないようだ。
「もらった!」
「ぐっ!」
ようやくこいつに傷をつけることができた。
顔からは黒色の血がスーッと滴り、それを手で拭い付着した血を眺めている。
「ハッハッハッハッハ」
「どうした。壊れちまったか」
シャムハザが笑っても、緊張が緩まることはなかった。
首を刎ねたつもりだったが、俺がつけた傷は顔につけたちょっとした切り傷のみ。
おいおい、どうやって勝てって言うんだ。
先ほどの攻撃は俺自身も手ごたえを感じていたが、負わせたのはたかだか浅い切り傷。
シェムハザの様子を見たら全くもってダメージを負っていないことなど明白である。
「いや、すまんすまん。久しぶりに血を見て笑っちまっただけだ」
なぜかシェムハザは攻撃を受けたことに笑っている。
先ほどまでの殺す勢いで怒りの感情をぶつけてきた相手が、一瞬で切り替えたことが不気味に感じた。
「おかげで少し冷静になれた。これで、久しぶりに対等に殺し合いができる」
様子を伺い、かかってこいと言わんばかりに指でクイクイっと俺を招いている。
それに呼応するように刀を鞘に納め、居合のように構える。
「さあ、かかって来いよ」
シェムハザも笑って、俺が繰り出そうとしている攻撃に備えていた。
「うるせえ、言われなくてもそのつもりだ!」




