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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第1章「未開拓遺跡編」
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第28話「束の間」

「すまねえな……」


 魔獣のことは特別恨んでいるわけではない。

 魔獣によるトラウマは植え付けられたが、もうそれも徐々に消え去りつつあるし、別に見たからといって殺意が湧くといった感情もない。

 勝手に遺跡を荒し、自分の利益のために魔獣を殺す。

 そしてこれが普通だと思ってはいない。

 悪いのは俺達のほうだ。

 俺が別の世界から来たから、なのかもしれない。

 けれどそれが当たり前だと思いたくなかった。


 人間が他の生物を殺さないと餓死してしまうように、弱肉強食の世界では食物連鎖という鎖に囚われる。

 だからこそ仕方がないことではあるのかもしれないが。


 でもそこに感謝の気持ちがあるからこそ、人間が手を合わせていただきますと言うのではないか。


 こうして自分の都合で殺してしまったときは、せめて天国へ行ってくれとそう願うしかできない。


「さあ、『古代武具(ロスト・アイテム)』だけこそっと持ち帰って、おいとましますかね」


「これのことか?」


「は――」


 声のする方を素早く振り向く。

 振り向いた先にいたのは遺跡探索が始まる前にネロをナンパしていた人物だった。


 なぜこの場所にいるのか、逃げたはずではなかったのか。

 冷や汗のようなものが噴き出てくるのがわかる。

 見た目は人であるが、魔力が人のものではない。

 その情報をまとめて人のような見た目をしている、何者かであると断定する。

 魔獣と戦闘したばかりだから些細の魔力の違いがわかる。

 そして先の魔獣と魔力を比べてみても何倍、何十倍もの魔力量であった。


「なかなかお前やるなぁ。『神の実績(シン・クラス)』ってやつか?」


 そのおぞましい魔力を肌で感じており、距離を取ろうとするにも一歩も動けない。


「『神の実績(シン・クラス)』? なんだそりゃ」


 俺は重たい口を開き、半笑いの状態で質問に返答する。


「なんだ、違うのか。まあそうだよな、この程度だったら余裕で殺せる」


 その何者かは少し落胆し、頭をぽりぽりと掻く。


「じゃあ俺からも質問していいか。あんた、何者だ?」


 わかってしまう。

 この魔力は人間が辿り着けるはずがないと。

 人間が持って生まれたものではないと。


「俺か? 俺はシェムハザって名前で……」


 シェムハザと名乗る男は、ひと呼吸置き、言葉を続ける。


「まあ、魔獣の最上位ってところだな」


 その言葉を最後まで聞く前に、魔力を集中させた拳をぶつけに行く。

 しかし、その男はいともたやすくその拳を手で受け止めてきた。


「おいおい、人が喋ってる最中に殴りにこなくてもいいだろう」


 まじか。

 完璧なタイミング、完全に意表を突いた不意打ちの一発。

 それをいとも簡単に止められた。


「ナンパ師さんよ。何とかその『古代武具(ロスト・アイテム)』だけ俺に渡して帰ってもらうことってできるか?」


 こいつに作り笑みを浮かべてみせる。

 手で受け止められている拳をなんとか振りほどこうとするも寸分も動かない。


「いや~、それは無理だな。俺の正体を知られた以上、お前を生きては返せねえ」


「いや、正体言ったのはあんただ、俺は関係ない。つまり、俺を生きて地上に返せ」


 強い語気でそう言い放った。


 すると突然シェムハザは笑い出す。


「ハッハッハッハッハ。お前情けねえやつだな。情けなさ過ぎて、笑えちまったよ」


 シェムハザは掴んでいた俺の拳をおろし、その手で自身の顔を覆う。


「俺はそういう正直な奴のほうが好きだ。情けないとは言ったが、本音を言わないやつのほうがもっと情けねえ。ただ、まあ俺にも立場っていうものがあるんでね」


 うーんと少し悩んだ様子のシェムハザであったが、口を開き言葉を続ける。


「やっぱり、殺すわ」


「――そうか。じゃあ、全力で逃げてやる」


 シェムハザから禍々しい魔力が放たれているのがわかる。


 踵を返し逃げようとしたその時、気づいた時には天井見上げていた。


「いや、無理だろ。こいつ強すぎる」


 自身の両手で自分の胴体を触る。

 手を見ると大量の血で手が覆われていた。

 『偽りの英雄(ライアー・ヒーロー)』発動時に止血したはずだった傷から、またしても大量の血があふれ出している。

 胴体のほうを見てやると、胴体を上から下に引き裂いたような傷が三本入ってあった。


「あれ、お前ほんとにさっきのやつか? ただの雑魚じゃねえかよ」


 シェムハザが上から不思議そうに覗き込んでいるが、もうこいつの顔を霞んでしか見えない。

 どうやって攻撃されたのかわからないまま、血がドクドクと流れ出ていることを体で確認することしかできなかった。


「さっきの魔族倒してたときは、そこそこだと思ったんだけどなあ……」


 顎に手を当て、先ほどの戦闘を思い起こしている様子だ。


「ま、いいか。じゃあ、まあ、地獄で会おうや」


 そうシェムハザは言い残し、俺の頭を狙って最後の一撃を当てようとする。


「おい、シェムハザ。後ろ見てみろよ、お前死ぬぞ」


「しょうもないハッタリだな。じゃあな、嘘つき少年」


 俺はその隙にポケットにある鉱石を手で掴む。

 その鉱石に魔力を注いで、シェムハザに投げ込む。


「くっ……」


 ライトライ鉱石の魔力暴走。


 こういうときのためにポケットに忍ばせておいてよかった。


 その光が放たれた瞬間、扉へと急いで逃げる。

 しかし、先へと進めばシェムハザに後ろから殺されるだけ。

 だから扉の角で待機して、一撃で仕留めるしかない。


「ありゃ。逃げられちまったか」


 扉越しにシェムハザの声が聞こえてくる。


「まあ、でもわかっちゃうんだけどね」


 そう、地面には俺の血が今いる場所までつながっていた。


 なんとか一撃で仕留めたいがもう魔力がほぼない。

 ライトライ鉱石の魔力暴走を使いたいところだが、あれはあれで魔力を消費してしまう。

 それに俺から流れ出す血によって、位置はバレてしまっているのだ。


 さあ、どうしたもんか。


「無駄な足掻きは好きじゃねえなあ」


 そう言いがらゆっくり、じっくりと足音を出しながらこちらに向かってくる。


 この気持ちになったのは久しぶりだな。


 でも、あの地獄で感じた時よりも頭はクリアな状態だった。

 心臓の鼓動で全身が揺れなければ、呼吸が浅くなりどうやって呼吸をしていいかもわかる。


 身体はボロボロであるが、あの頃なんてそれが日常茶飯事だっただろ。

 慣れというものは本当に恐ろしい。


 あの時の経験が、傷跡が、考えが、今の自分に良い緊張感をもたらす。


「なあ、どうせ扉の前で待ち伏せしてるんだろ? 一瞬で殺してやるから観念して出て来いよ。 俺はお前のことちょっと買ってたんだぜ? 死ぬ時ぐらいは簡単に死んでくれや」


 シェムハザは扉に向かって声をかけてくる。

 しかし、返事はしない。


「俺も忙しいんでね、サクッと死ねや」


 シェムハザの魔力が扉に向かって放たれたのがわかった。

 その後一瞬の間をおいて扉に大きな傷が三本入っている。

 ただそれを俺は空中から見上げていた。


「こっちだよ、バーカ」


 そのまま踵落としをシェムハザの頭に向かって強烈にぶち込む。


「ぐ……」


 しかし、シェムハザは倒れることなく、膝を曲げ何とか立つ姿勢を保っていた。


「まじか、これ普通のやつなら顔面吹き飛んでるぞ」

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