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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第1章「未開拓遺跡編」
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第25話「狂気狂乱」

 魔獣との戦闘を繰り返しながら、遺跡も最下層のほうまで進んでいった。

 ということは遺跡探索も終盤まで到達したとういうこと。


「ここだ!」


 大きな扉の前でアーノルドが振り返り、毅然とした声で冒険者たちを止める。

 数人、また数人と冒険者が消えていき、この終盤に生き残っているのはわずか二十人ほど。

 イチルや、ネロにナンパをしてきた男、それに加えてタイヨウ達にちょっかいを掛けてきた男達もまだこの集団に属していた。

 どこまで歩みを進めてきたのかは定かではないが、かなりの距離を移動してきたことは確かなことである。

 冒険者達の顔にも疲れが垣間見え、この扉の独特な薄暗い空気により集団に緊張感が走っていた。


「結構歩いたな」


 タイヨウが緊張感を含みながら呟く。


「いよいよね……」


 ネロが扉をじっと見つめ、扉の先にあるものに備える。

 明らかに外敵から中を守るように大きな扉は厳重に備え付けられ、来る者を拒むかの如く歪な魔力が微かながらだがタイヨウは感じることができた。


「ってあれ、カナタは?」


 キョロキョロとあたりを見回すもカナタの姿は確認できない。


「まさか、遺跡探索中に遭難したとか」


「ほっときなさい。どうせあいつはそこら辺の鉱石でも拾って道草を食っているんだわ」


 ネロがそういってもタイヨウは納得しきれなかった。

 遺跡は何が起きてもおかしくはない。

 それは先ほどのイカロニテクスの奇襲により、痛々しく頭に焼き付いている。

 それをわかっているからこそ、どうしてもカナタのことを心配してしまうのだ。


「おそらくこの先が遺跡の終着点だ。ここまで大変であったが、最後の試練となるだろう! 心して望め!」


 アーノルドがもう一度集団の気を引き締める。

 しかし、その集団は今朝いた人数に比べれば少なくなった。

 集団の歩みは一人いなくなったところで確認などしない。

 いなくなっていったメンバーをいちいち数えている様子などは見られなかった。

 だからカナタ一人いなくなったところで、止まることはないのだ。


 アーノルドが声を出したのちに、大きな扉をゆっくりと開ける。

 中は純白の壁で覆われており、先ほどまでの暗がりの遺跡とは正反対なほど明るい。

 その明暗差に目を細めてしまい、中の状況を確認するのに少しの間が空いてしまう。


 その景色に感嘆するもの、驚愕するもの、笑うもの、安堵するもの。

 冒険者たちが十人十色の表情を浮かべている。


 しかし、その白い空間にただ一点、黒く、歪で、不穏で、邪悪な者がいた。

 そこに一匹、魔獣がいたのだ。

 人型と形容していいのか、縦に伸びたカラスのような頭に大きな口を剥き出し曇りがかった牙を覗かせ、鋭い爪を輝かせる。

 体躯は人の二倍ほどあり見ただけで圧倒されてしまうほどの圧を感じてしまう。

 そしてなんと言っても魔力の量が並みの魔獣のものではない。

 冒険者たちはその魔獣を見た瞬間に息をのむ。

 誰一人喋ることなく、時が止まったかのように立ち止まってしまっていた。

 これはタイヨウとネロも例外ではない。


 その魔獣がにやりと笑う。


「逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!」


 その瞬間、魔獣が笑った瞬間にアーノルドが、叫ぶ。

 冒険者たちがその声に反応し、逃げようとしたその時だった。


 魔獣はもうすでに冒険者の輪の中にいた。


 一人の冒険者を見つめ、にやにやと笑い続ける魔獣。

 その冒険者は遺跡探索前にタイヨウ達に絡んできた人物。

 怪我も負わずにここまで来ており、こいつの憎たらしい口調がタイヨウの記憶に新しい。

 そのおぞましい威圧感にただ立ち尽くし、涙する。

 遺跡探索中も常に前線を張り、魔獣を大きな斧でなぎ倒していた。

 その冒険者の股間から、湯気が沸き上がり、黄色の水分がズボンに染みわたり地面に噴きこぼれる。

 そのまわりの冒険者たちも逃げることはできず、魔獣の動向を注視するだけであった。


「あ、あ、あ、ど、どうか命だけ……」


 そして、冒険者の首を一瞬にして弾き飛ばす。

 首がボトっという重たい音を立て、地面に自由落下していった。

 鮮やかな鮮血が近くにいたタイヨウの顔に付着する。


「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」」


 数多の悲鳴を契機に、冒険者たちが続々と逃げ出す。

 しかし、魔獣は逃げ出す冒険者たちをまるで虫けらを見るかのようにただ傍観しているだけだった。

 扉に背を向け逃げ惑う冒険者たちの中、その魔獣に逃げずに真っ向から戦おうとしている者が数人いる。

 タイヨウは炎を身に纏い、ネロは杖を構え、イチルはファイティングポーズを取りガンを飛ばす。

 そしてその先頭アーノルドは槍を突き出し、盾を構える。

 彼らの表情は殺気に満ち溢れ、臨戦態勢に入っている。


 しかし、魔獣はもうタイヨウたちの目の前にはいない。


 扉から逃げていった冒険者たちの断末魔のようなものが聞こえてくる。

 タイヨウが恐る恐る扉を振り返ると、片手には冒険者の頭を抱えそれをタイヨウの足元へ投げてくる。


「え……」


 思わずタイヨウの口から言葉が漏れ出る。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 アーノルドが魔装武具である槍を掲げ、魔力をその槍に込める。

 白色の長く細い槍が白銀の魔力に包まれていき、雄叫びをあげながら魔獣に突進していった。


 オリジナル魔装武具

 《頂点へと登る白き(ライトニング・サミット)


 魔獣との距離を詰めれば詰めるほど魔力が上昇していくアーノルド。


 しかしアーノルドに魔獣は何もしない。

 していることすれば、笑うことだけである。

 ただただ立ち尽くし、アーノルドの攻撃を待ちに待っているかの如く笑っている。


 魔力が満ち溢れた槍が魔獣に激突し、破裂音がその空間内に響き渡る。

 魔力が衝突した光により、その場にいた者たちがその魔獣を倒したかどうかは視認できない。


 その光が明け、アーノルドと魔獣を視認することができる。


 ただ、アーノルドの槍が刺さることはなかった。

 魔獣には人差し指だけで止められてしまい、槍が先端から裂けている。

 刹那、タイヨウとネロの足元に人が転がる。

 重厚な装備を纏っていたアーノルドの胴体に爪痕のような傷が深々と入っており、血があふれ出していたのだった。

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