第24話「負傷者」
戦えるスペースが十分に確保できていたのを差し引いても、彼らの動きは今まで見て来た若い冒険者の中でも類まれなるセンスを感じる。
もちろん、自身よりも遥かに高く。
ただ自慢をしたいというわけではないが、まだ俺の方が遺跡探索という点においては少しばかり優勢と思える。
イカロニテクスの攻勢は一度や二度だけでは終わらない。
死んだイカロニテクスは人間が聞き取れない超音波を放ち、その危険性を仲間の元へと即時で知らせる。
そしてその超音波は壁を、扉を貫通しこの遺跡内全体に伝播する。
群れを一気に倒した分、そこら中からイカロニテクスの群れが引き寄せられる。
一本道のため、魔獣が来る道は二つ。
タイヨウとネロが倒した前方。
そして俺以外誰も気づいていない後ろからだ。
「おい、耳塞いどけよ」
俺はタイヨウたちがいる方向を見つめながらポケットの中を探る。
手に取ったのは片手ほどの大きさの鉱石。
その鉱石を後方へと投げ捨てる。
その瞬間、キーンとした破裂音が遺跡に響き渡った。
「なんだ!」
「なにこれ!」
タイヨウとネロも耳に甲高く騒がしい音が聞こえてくる少し前になんとか耳を塞いでいる。
後ろから来ていたイカロニテクスの群れはその音が鳴った瞬間、生気を失くしたように地面にバタバタと落ちていく。
音の原因を探るためにこちらを振り返ったタイヨウとネロは魔獣がドタドタと落ちていく様を見て呆気に取られていた。
「すまん、こっちも急だったもんで」
さすがに突然聴覚を奪ってしまったことには詫びを入れなくてはならない。
「な、なんなのよ、これ!」
「サウザンド鉱石の魔力暴走だ。一定量の魔力を注げば、その負荷に耐えられなくなりさっきみたいな音を出して砕け散る」
「はあ~? あんたそういうのは先に言いなさいよ!」
ぐうの音も出ないが、こちらも後ろから敵が迫って来ていたのだ。許して。
「でもこいつら、野垂れ死んでるぞ。これとはなんか関係があるのか?」
「この魔獣は目が悪い代わりに聴覚によって情報を手に入れてるからな。鼓膜を破壊すれば飛んでいる位置もわからなくなり、地面に落ちていくことしかできない」
「魔獣より先に私たちの鼓膜が壊れたらどうするつもりだったのよ!」
「それは心配ない、こいつらの聴覚は人間の五倍はある。 この音量なら数分耳が聞こえなくなるぐらいだろ」
「十分すぎるぐらい余計よ」
「へ~、詳しいんだな」
タイヨウが関心しながらこちらを見る。
「それと、魔力の使いどころには注意した方がいいぞ。まだ先は長いからな」
言葉にしなくてはと思い、注意を促す。
俺からしてもこの遺跡は未知数。どんなに経験を積んでいても一瞬で崩れてしまうのが〈迷宮遺跡〉の怖いところである。
「言われなくてもそのつもりよ」
ネロが拗ねたように言葉を吐き捨てる。
短い付き合いではあるが、彼女の性格もタイヨウと似てて単純でわかりやすい一面がある。
負けず嫌いでプライド高い。
人間であれば典型的な性格だ。
ヤマトさんに言われたことを思い出す。
――あの子たちをよろしくね。
この方が扱いやすい、か。
* * *
俺達もやっと集団に追いつくことができた。
先の冒険者の騒ぎを聞いた限り、怪我を負ったものも何人かはいるはず。
悪い予感はしていたが、集団に追いつくことでその予感が的中していることがわかる。
イカロニテクスの奇襲によって怪我を負ったものを治療中であったため、集団の足は止まっており俺達も遅れながら追いつくことはできた。
ざっと見ただけではあるが三分の一、もしくは半数以上が大なり小なりの怪我を負ってしまっている。
「不味いな、思った以上に戦力が削られている」
その冒険者達を見ながら、この現状に危機感を抱く。
予測ができていたと言われればその通りではあるが、この人数にそれを伝えることは不可能に近かった。
寄せ集めの冒険者集団に何の実績もない俺が何を言っても聞いてはくれない。
それを言うべきはこの集団のリーダーである、アーノルドだ。
おそらくアーノルドもこの手負いの数は想定外だったのか怪訝な表情を浮かべている。
だが今は悩んでいる時間などない。
ここから結論への到達速度が遺跡探索を率いるものとしては必要な能力だ。
自分が予想していたよりも早く決心がついたアーノルドは、毅然とした声で冒険者集団に向けて言葉を発した。
「手負いの者はここで怪我を治し次第撤退、怪我がないものは先へ進むぞ!」
ざわざわと冒険者達が騒ぎ始める。
その言葉を聞いた冒険者集団から厳しい野次が飛び交う。
ギルドに所属していようがいまいが、形は冒険者。
ここで置いていかれるということは、戦力として見られてはいないということになってしまう。
高い報酬に目が眩んだ者もいるだろうが、撤退ということはつまり途中離脱。
一端の冒険者でさえその言葉に良い意味を持つ者はいない。
加えて報酬は皆無になり、保証金もきちんと取られている。
危険を冒してまで〈迷宮遺跡〉に来たというのに、序盤で帰らされるというのは反発が起きるのも無理はない。
事実上の帰還命令に野次の一つや二つ飛ばしてしまうことも頷ける。
しかし、俺はこの判断は正しいと思っていた。
確認できたイカロニテクスは集団が大きければ大きいほど脅威となる。
実際に半数ほどの人物が怪我を負ってしまったのも事実だ。
今後イカロニテクスの群れが再度攻めてくる可能性なんて十分にあり得る。
だからこそ手負いの者を引き連れていくことの方が遺跡攻略の難易度は上がる。
アーノルドのこの判断は英断とも呼べるべき対応である。
「それはさすがに厳しすぎないか?」
タイヨウはこの判断に納得していないのか、この疑問をネロにぶつけた。
「いい判断だと思うわね。この先何が起こるかわからないのに、足手纏いを連れっていっても仕方がないわ」
「言い方は悪いが、その通りだな」
俺もネロに同調するように、言葉を続けた。
正義感の強い男だからか、ネロと俺の言葉に納得していない様子である。
「タイヨウ、余計な事は考えるんじゃないわよ。あなたの悪い癖だわ」
ネロが力強い語気でタイヨウを制す。
ネロの方が彼の性格を理解しているはずだ。幾度となくこの性格に悩まされたことは想像も容易い。
その苦労を多く経験しているからこそこの状況でも冷静に対処できるのだろう。
タイヨウもネロには逆らうことができないようで、口を閉ざしてしまう。
「いいか! よく聞いてくれ! 私は【王の楽園】に所属しているが、今回のクエストにおいては引率という責任を背負っている! これ以上犠牲者を出さないためにもどうか協力してほしい!」
アーノルドの声音は強く重たいものであった。
その言葉から裏があるような雰囲気は全く感じることはない。
ただ真っすぐに真実を伝えている。
集団のざわつきも完全になくなることはなかったが、落ち着き始めていた。
やはり、このアーノルドの言葉の力には目を見張るものがある。
【王の楽園】というギルドにはこういう存在がごろごろと存在しているのだ。
名実ともに人気があることにも頷けた。
ただし寄せ集めの冒険者達もプライドがあるのか少しの傷程度の者だったら立ち上がってアーノルドに付いていくものもちらほらと見える。
「さあ、私たちも今度は置いていかれないようにするわよ」
ネロも一呼吸置き、集団の波に着いていく。
「よしっ!」
タイヨウも気合を入れなおして遺跡の先へと進む。
俺は傷を負った冒険者の方を振り返っていた。
厳重に重厚に装備をしていた者たちであったが、いとも簡単に、容易に、安易に負傷者を出てしまう。
やっぱり、何かおかしい。
未知数な実力の冒険者を寄せ集めで、〈迷宮遺跡〉に挑むことが。
ここまでの負傷者を出すことなんて考えればすぐ答えが出るだろうに。
この人数で行かないといけない理由でもあるのか。
「お~い、カナタ! 置いていかれるぞ」
少し距離の離れたところから、タイヨウの声が聞こえてくる。
その声を聴き、足を進め遺跡の先へと向かった。




