第23話「イカロニテクス」
「――総員! 戦闘態勢!」
ネロが歩き始めた瞬間、集団の先頭からアーノルドの強い言葉が響き渡る。
「戦闘が起きたみたいね」
俺達は集団に後れを取ってしまっており、かなり距離が開いてしまっていた。
ネロは戦闘が起きているにも関わらず落ち着いた様子で、俺とタイヨウにそう伝えると走って前方の集団に追いつこうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ~」
しかし、数歩走っただけで言葉によってネロの足は止まってしまう。
タイヨウと俺はポケットにパンパンに詰めた鉱石のせいで足取りはとても重く走ることなどできていなかった。
「タイヨウ、俺はもうだめだ。この先には進めない。お前だけでも、先に行ってくれ」
心から漏れ出た言葉が喉の奥から吐き出される。
「ダメだ! 俺ら二人でたらふくの飯を食べるんじゃなかったのか! 鉱石屋を経営するんじゃなかったのかよ!」
答えたタイヨウもその気になっているのか、俺に寄り添って真剣にこの演技に寄り添ってくれている。
まあタイヨウは演技だと思ってないだろうけど。
鉱石屋経営するなんて一言も言っていないけど。
と思ってしまったが、気持ちとしてはそのぐらいの夢は膨らむ。
「こいつら、後でほんとに殺す」
怒りが表情まで上り詰めているネロは、拳をグッと握り顔に怒りマークが出ているぐらいひどく憤っていた。
「ピャャャャャャャャャ!」
その瞬間、ネロのほうに一匹の蝙蝠型魔獣が集団の上を駆け抜け、一目散にネロのほうに飛んでくる。
イカロニテクス。
この魔獣につけられた名称である。
このように一般的によく見る魔獣には名称がつけられていることが多い。
魔獣のクラスはD級。
A~Dのランクに分けられている魔獣の一番下のクラス。
ただしこれは一匹の計算。
イカロニテクスは一匹では動かない。
必ず、多数で人を襲うのだ。
これは俺の推測になるが、複数になった時のこいつらのクラスはB。
「やばっ……」
ネロは俺たちのほうに体を向けていたため反応が遅れてしまった。
イカロニテクスがネロに攻撃をしようとした瞬間、ネロはとっさに腕をあげせめてもの抵抗をする。
しかし、タイヨウはイカロニテクスにいち早く気付きその魔獣をしっかりと目で捉えていた。
魔獣を視認し、魔獣を敵として、危険な存在として睨みつける。
そしてネロを守るため、ただただ魔獣を見つめ続けるのみであった。
するとタイヨウの周りから魔力がタイヨウを覆うように集中してくる。
「『太陽が昇る日』」
タイヨウが足先から頭まで炎に包まれる。
そして拳を腰のほうまで振りかぶり、魔獣に向けて拳を放つ。
タイヨウの拳から放たれた火球は、ネロの頭上を越え、魔獣に激突する。
魔獣は炎に包まれ、うめき声のようなものを叫びながら灰となって消え去った。
その魔獣を確認し、タイヨウの周りにある炎は消える。
「大丈夫か?」
タイヨウはニコッと笑い、ネロを心配する。
「別に、アンタの助けなんか必要なかったわよ」
ネロは恥ずかしそうに顔をそむけた。
照れ隠しなのか、その表情をタイヨウに悟られないように。
「おい、いちゃついているところ悪いが前見ろ」
俺は指を差し、前方に視線を誘導する。
すると黒い塊のようなものが冒険者の頭上を通って一目散にこちらに向かってきていた。
しかし、それは一つの物体ではなく複数の個体。
一体一体で群れをなし、凄まじい速さで冒険者の頭上を通過していた。
「ぎゃあああああ」
前方から呻き声のようなものが聞こえてくる。
遺跡は暗闇には包まれてはいないものの、前方の様子までは細かく確認することはできない。
しかし、その黒い物体、正しくはイカロニテクスの集団が冒険者たちを襲いながらこちらに向かってきているのはわかった。
イカロニテクスは群れをなせばそれが掛け合わさるように戦闘力は上がっていく。
先ほどネロに攻撃してきたイカロニテクスの群れはごく少数。
そしてイカロニテクスは個よりも集を重んじる。
よって仲間が殺されれば、すぐに仲間が駆けつける。
しかもこの一本道の洞窟。
俊敏性を兼ね備えた小さな魔獣であるため、集団で動いているこちらが不利となる。
幸いにも俺達は集団と距離が開いており、三人で戦うには十分なスペースがあった。
「来るぞ」
ネロが背中に背負っていた杖を構えながら、こちらに向かってくる魔獣を警戒する。
タイヨウも同じようにファイティングポーズを取りながら、迫りくる黒い波に備えた。
「私一人で十分よ。『孤人に咲く一輪の花』」
地面から花のようなものが咲き、同時に棘のあるツタが数本イカロニテクスに襲い掛かる。
凄まじい勢いでこちらに突進してきたため、激しく激突し黒色の鈍血が散らばる。
それだけではなく逃げ回る魔獣に対し棘のツタが追尾し、魔獣は掴まれた瞬間形を失う。
ただし数が多いため、その棘の罠を搔い潜りこちらに接近してくるのもいる。
が、俺のところには届かない。
ネロの攻撃にタイミングを合わせたように、タイヨウが拳に纏った炎によって魔獣を焼いていく。
魔獣が灰となり遺跡内の微かな風に吹かれて消え去った。
ヤマトさんが言っていた通りか。
この二人の適応力の高さには、連携力のレベルは一目おくほど。
敵との突然の接敵。
この突発的な出来事に関わらずこれだけ冷静さを保てるだけでも十分だ。




