第22話「探索開始」
暗い森の中をかなりの時間歩いていた気がする。
歩いてきた道には木々がうっそうと生えており、そのせいで太陽の光もあまり入ってこなく昼にも関わらず薄暗い場所で不気味な雰囲気を醸し出していた。
集団の後方にいたため前方の様子をあまり視認はできなかったが急に木々がなくなり薄暗かった森の奥から強い日差しが見え、森を抜けたことがわかる。
その先に見えたのは横に広く、大きく縦に伸びた階段。
その階段の頂上には巨大な三角形の建築物が見える。
そして階段の下には白いレンガで作られた道が真っすぐと階段まで伸びていた。
所々陥没しており舗装されてはいないものの、くすんだ白色のコンクリートによって遺跡までの道であったことは確認できる。
その道横には崩れた柱が綺麗に並べられており、遺跡に来たという実感が湧いてきた。
遺跡まではそこまでの距離を要さなかったが、この雰囲気による緊張からかこの時点で疲れている冒険者もちらほらとうかがえる。
この疲れによって遺跡探索に悪い影響が出なければいいが。
「よし、ここだ!」
アーノルドが遺跡に続く階段を少し上り、集団を見渡せるようにして俺たちがいる最後の所まで届く声量で冒険者たちに声をかける。
「ここからが〈迷宮遺跡〉だ。先ほども述べたがくれぐれも注意するように」
アーノルドは冒険者たちに注意を再度促し、階段を上っていく。
それに続くように冒険者もアーノルドの背中を追いかけて階段を上がっていった。
「それにしても、どうしてこんなデカい遺跡が未開拓なのかしら」
「確かにそうだな。どこかの冒険者が見つけていてもおかしくはない」
ネロの言葉には賛同できる。
特に隠れた場所にあるわけではなく、森を捜索していれば見つからないことはない。
しかもこの森一帯は危険区域に指定されているわけではなく、日が出ているということもあるだろうが魔獣の姿はほぼ見なかった。
加えてこれだけの壮大な建造物。
見逃す方が難しい。
しかし、立ち止まって考えている暇はない。
俺達も集団に続くように階段を上っていった。
* * *
遺跡の中には下に伸びる階段が設置されており、階段には明かりが一つもなく、目の前が何も見えない状態だった。
明かりを足元に照らし、道をしっかりと確かめながら、ゆっくりと進む。
冒険者たちも各々明かりをつけ、コツコツと階段を下っていった。
階段を降りた先は洞窟のような作りになっており、道端には明かりの代わりとなる青光を放つライトライ鉱石が散り散りと存在し、明かりを灯すほどではないほどだった。
遺跡の壁面は石によって積み立てられており、破損している箇所はあるものの他の遺跡と比べればこれだけ綺麗なものは俺自身見たことがなかった。
そして外に比べてかなり気温も低く、少し肌寒い。
冒険者たちもこんな遺跡を見たことなかったのか、周囲をキョロキョロと見渡している。
この類を見ない遺跡の雰囲気もあってか先ほどまで談笑していた冒険者たちにも緊張感が張り詰める。
「ここらの鉱石って勝手に採っていっていいのか?」
しかし、俺は緊張などしている場合ではなかった。
目の前に広がる鉱石の山に気を取られてしまう。
「へ? まあ別にいいんじゃないか?」
タイヨウも他の冒険者と同じように気を張っていたのか、俺の言葉にハッとした様子である。
どこか上の空で返事にも感情が乗っているとは感じることができない。
「緊張でもしてるのか?」
タイヨウの方を見ることはなく、鉱石を採集しながら尋ねる。
「そんなつもりはないんだけどな……」
タイヨウ自身も自覚はしてないようだが、自然と緊張感が生まれているのかもしれない。
遺跡探索が初めてだとしたら、緊張してしまうのも無理はない。
そして〈迷宮遺跡〉という未知の領域に足を踏み入れているのだ、気を張らない方がおかしいか。
「タイヨウ!」
「おっと」
片手で収まるぐらいの鉱石をタイヨウに放り投げる。
鉱石を採集したら青白い光は輝きを失い、透明な石へと変わる。
「あれ、光が消えた」
「ああ、これはライトライ鉱石の特徴だな。魔力を注げばまた光る」
「へぇ~」
タイヨウが興味深くライトライ鉱石の裏側や側面をまじまじと見つめる。
タイヨウの顔も晴れやかになっていき、笑みもこぼれている。
もちろん緊張感を持つことは大切な事だ。
しかし、周りに目を向けられないほどの緊張感はこのような未知の探索においては足枷となる。
それを知っているからこそ、こういう行動が自発的にできたかもしれない。
「これポケット中にでも入れて持っておけ、魔力を注げば松明替わりになる」
そのやり取りを珍しく黙って見ていたネロが口を開く。
「あんた意外と気が利くのね」
棘のある言い方ではあるが、ネロなりの誉め言葉だと受け取る。
「お前も持っとけよ」
ネロにもライトライ鉱石を投げ、ネロもその鉱石を受け取る。
「この鉱石って相場は大体いくらなんだ?」
鉱石の種類に関して知識はあるものの値段をあまり気にしたことはなかった。
鉱石採集は質より量。
値段を気にして採集していたわけでもなく、鉱石もギルドのクエストとして受けることはなかったので相場市場の知識は皆無であった。
「ライトライ鉱石は日常的に使われるから、この大きさぐらいで100ペイぐらいはするんじゃないかしら」
「百ペイ……」
脳内には、豪華な飯が並んでいる場面が思い浮かぶ。
人の片手ほどの大きさの鉱石で百ペイ。
そしてこの遺跡には至る所に共生している。
「タイヨウ! ここの鉱石を採りまくるぞ!」
「え?」
「これを山ほど持ち帰れば俺らは明日から億万長者だ!」
目を見開きながらタイヨウに熱い口調で語り掛ける。
タイヨウもその熱意を感じたのか考えることは一切せず、否定することもせず、俺に言われた通り近くにある鉱石を必死に採取する。
「こんなんでいいか?」
「バカか! もっと丁寧に鉱石は扱え! 子猫のように、女の子のように優しく扱え!」
「は、はい!」
タイヨウも俺の真剣度合いに感化されたのか子分のような言い方になってしまっている。
タイヨウ、お前のその反応速度、才能あるよ。
「はあ。こんなバカ猿どもと一緒に来るんじゃなかったわ」
大きくため息をつくネロ。
しかし、そんなネロをほったらかし俺とタイヨウは鉱石を服のポケットに詰め込んでいく。
「おいおいカナタ、俺もう持てねえよ~」
「ばかやろう! これを持ち帰れば俺らは明日から飯に困ることはないんだぞ!」
「俺は飯に困ってはないけどなぁ~」
タイヨウのポケットの中へパンパンにライトライ鉱石を詰めていく。
それを見ているタイヨウの困り顔を浮かべている。
そんなタイヨウを説教しつつ、俺も自身のポケットにもパンパンに鉱石を詰めていく。
動きがのろくなろうが、命の危険が近づこうが関係ない。
今は目の前の鉱石にしか目がない。
「くだらない」
二人のズボンや上着が鉱石でパンパンになっているのを一瞥していき、呆れたネロはとことこと一人で歩いていってしまった。




