第21話「ナンパできる奴に人見知りはいない」
「なあ、あの人って有名なのか?」
隣にいたネロに質問する。
「はぁ、知らないの!? ほんとに無能ね。【王の楽園】っていうとこの国じゃ最大規模のギルドよ。その中でも第1支部の副リーダーとなれば知らない方が珍しいわよ」
ネロは語気を強めて早口で俺の質問に答えてくれた。
「へー、なるほどねえ」
ピンとは来ていないが、アーノルドが醸し出すこの異様な雰囲気を見ればこの男がどんな人物なのかはなんとなくではあるが理解できていた。
その偉大さに気づくことができない俺であるが、その張本人のアーノルドは遺跡探索の説明を続ける。
「今回の私たちの目的は遺跡の調査及び、最深部に存在するとされている【古代武具】の入手。この遺跡は『迷宮遺跡』である。油断は禁物だ、くれぐれも注意してくれ」
アーノルドの説明が終わり、広場にいる冒険者たちは遺跡を目指してぞろぞろと進行を始める。
それに続くように、俺、タイヨウ、ネロも続いていこうとする。
「なあ、カナタって遺跡詳しいんだろ?」
タイヨウがふと尋ねてくる。
「詳しいってほどでもないと思うが、好きな場所ではあるな」
「へー! なんか遺跡の面白い話聞かせてくれよ!」
目をキラキラ輝かせ、興味津々に尋ねてくるタイヨウ。
ゴホンと咳払いをして遺跡探索の魅力について語ってあげる。
同じく遺跡探索を志すものに、遺跡の魅力を惜しむことはしない。
タイヨウの隣にいるネロは心底どうでもいいような顔をしているが、遺跡の魅力がわからないものは聞かなくて結構。
自然と説明も早口になっていき、こちらの熱が上がっていくのもわかる。
タイヨウの頷きも多くなり真剣に聞いてくれている様子だ。
「ねえねえ、そこのお嬢さん。このくっさい冒険から外れて俺とお茶しませんか?」
すると突然俺のためになって有難い話を遮るように端正な顔立ちの男が、ネロに向かって喋りかけてきた。
「は?」
ネロもナンパのようなものに鬱陶しさを覚えているのか、心底鬱陶しい顔を浮かべている。
「気持ちもわかります。ですがお嬢さんのような可憐な少女にはこの汚い遺跡調査というのは似合わない」
ネロの表情に引けを取らず、恰好をつけた様子で粘り続けている男。
歳は若そうには見えないが、イケメンという部類に確実に入ってくる見た目であった。
普通の女性であればほいほいと付いていってしまいそうだが、相手が悪い。
その相手はなりふり構わずぶっ飛ばそうとしてくる、気性の荒い地雷女だからな。
「うざい。ぶっ飛ばすわよ」
ほら見たことか。
「これはこれは、失礼。この猿どもの腐った話を聞いてかなりご機嫌がななめのようだ」
「あ?」
俺もこれにはさすがに怒りのアンテナが立つ。
「さあさあ、お嬢さん。こんな気性の荒いバカ猿は放っておいて、私と行きましょう」
「おい誰がバカ猿だ、この脳内性欲まみれチンパンジー」
「あ?」
俺が反論するように憎たらしい口を叩けば、その男も憤怒の表情を見せる。
「可哀そうなお嬢さんだ。この気持ち悪い猿どもが嫌になったらいつでも私の元までおいで」
男は半ばキレ気味であったが、邪魔が入ってしまったことでそのまま人の波に紛れて立ち去っていった。
ネロが男の背中に向けベーっと舌を出して下まぶたを引っ張る。
気づいたら集団の最後尾になっており、その人波は俺たちから徐々に離れていく。
「ああいうバカは一発ぶん殴っとかないとわからないわよ」
「ああ、それには同意見だな」
「まあまあ」
珍しく意見が一致し、俺もネロに同情する。
その高ぶる気持ちを落ち着かせるようにタイヨウが二人をなだめる。
「しかし、なんか今日は色々な奴に絡まれるなあ」
タイヨウが頭を掻きながら、この現状に困惑している様子だ。
「当たり前よ。今回の遺跡探索はギルド公認のクエストにも関わらず、冒険者登録さえしていれば誰でも参加可能なクエスト。さっき集まっていたやつの中には前科持ちだっていたわよ」
「普通だったら、経歴とかで弾かれるのか?」
「ええ。しかも、未開拓の遺跡を素人同然のやつに調べさせる。なにか裏があるに違いはないわ」
ネロがそれだけ言い残し、集団についていく。
タイヨウは何も腑に落ちていない様子だったが、とにかくネロに付き添って行った。
確かに言われてみれば、未開拓の遺跡を調査するのは大体大手のギルドだったはず。
遺跡を調査できるということで、全く気にしていなかったが一般の冒険者が調査できないのが『迷宮遺跡』。
加えて未開拓とされているにも関わらず、古代武具が眠っているという情報もある。
「まあ、とにかく行くことしかできねえな」
今あれこれと考えていても仕方がない。
集団の流れに従うように、歩き出していった。




