第20話「引率者」
「へっへっへ。いいなあ、若いもんは。これから遠足に行く見てえだ」
体格が大きく、頭にも甲冑を装備しており、首から下の装備もかなり頑丈なようだ。
その男が大きな笑い声とともに、冷やかしの言葉を俺達にぶつけてきた。
「そうだな。ガキはこんなところに来るんじゃなくて、家でお母さんのおっぱいでも吸ってよしよししてもらっとけよ~」
近くにいた冒険者も冷やかしにも取られる大声で笑いながら煽る。
「こっちを先にぶっ飛ばさないといけないようね」
ネロの視線はその三人に向けられ、怒りをあらわにしている。
先ほど自分に向けていた怒りが可愛らしく思えるぐらい、ネロは怒りに満ちている様子であった。
「お~、怖い怖い。遺跡に入った瞬間にボコボコにしてやってもいいんだぜぇ」
リーダー格の男が、さらにネロを煽る。
「別にアンタらなんか今この場でぶっ殺してやってもいいのよ」
ネロが売られた喧嘩を買い、背中に担いでいた杖を手に持って、矛先をその冒険者たちに向けている。
「おいおい、今から遺跡探索だっていうのに、ここでドンパチするのはバカがやることだぜ。あ、でもお子ちゃまそんなのもわかんないのかなぁ」
にやりと笑い、別に戦っても構わないというスタンスを取っている。
「あの~、お母さんはいない場合はどうしたらよいのでしょうか」
俺は右手を挙げ、キョトンとした顔で尋ねてみた。
「あ?」
リーダー格の男が何を言っているんだという顔でこちらを見てくるが、そんなのでは俺は止まらない。
「あ、それともあなたもお母さんがいなくてこちらの女性に甘えたいからちょっかいかけてるんじゃないっすか? うわ、絶対そうだ! やーいやいーい、子供部屋おじさーん!」
これほどかというほどにその男を煽る。
残念ながら俺も言われっぱなしでは気が済まないタイプなのだ。
異世界に来てからというもの、人付き合いがリセットされたため思ったことをすぐに誇張して発してしまうようになってしまった。
まあそれで損することのほうが多い気はするが、自分の心の持ちようは楽だからよし。
男は歯をギリギリさせ、怒りに満ちている。
「クソガキぃ、あんま舐めてると痛い目喰らわすぞ」
「おう、かかってこい。俺よりもガキみてえな性格している奴に負けるわけがねえよ」
べろを出し、変顔をして見せ相手の心を逆なでする。
そして男が俺に殴りかかってきたので反射的にカウンターが打てるように構える。
「やめろ!」
野太い声が近くから聞こえてくる。
左目に眼帯をつけた男が、一瞬にしてこの場を制した。
* * *
「あのままあいつらをぶっ飛ばしたかったのに、とんだ邪魔が入ったわ」
「どんだけ好戦的なんだよ」
呆れたように言葉を吐いてしまう。
ふんっとそっぽを向き、ネロもそのまま人だかりができている集合場所へと向かっていった。
「あいつはいつもあんな感じなのか?」
隣にいるタイヨウに純粋な疑問をぶつける。
タイヨウの目線は後姿のネロを捉え、顔に微笑を浮かべながらその質問に答えてくれた。
「ああ。それがネロの悪いところでもあり、良いところでもあるんだけど……」
タイヨウという男は一見単純に見えて、意外と物事を深く見ているかもしれない。
付き合いの長さなのか、タイヨウの鋭い洞察力の賜物なのか。
まだタイヨウという存在を理解しきれていない俺からしてみれば、そんなことは現段階ではわからない。
しかし、少し前に出会ったときと今日のタイヨウを見る限りだが鋭い一面を持っていることも事実だ。
遺跡探索の定刻を迎え、広場に作られた簡素な壇上から屈強な男が姿を現す。
男は顔中傷だらけで、片目は眼帯で覆われていた。
体つきは鎧で覆われていて詳しくはわからないが、その鎧の傷などからも彼が幾度となく戦闘を繰り返してきたことがうかがえる。
そしてこの男こそが先ほど俺らの喧嘩を一瞬にして止めた男。
「集まってくれた勇敢な冒険者たち! まず君たちが参加してくれたことに敬意を表する!」
百人ほど集まっている広場は喧噪に包まれていたが、男が喋った途端に緊張の空気が張り詰めた。
大勢の中でも後ろに届くほど声もはっきりと通り、その場にいる人を釘付けにしている。
まるで、戦争時の〝英雄〟のように。
男は微動だにすることもなく、冒険者たちを片目しかない目でしっかりと見つめて言葉を紡ぐ。
「私はアーノルド・シャワー、【王の楽園】第一支部の副リーダーを務めている! 今回は私が引率だ、よろしく頼む」
その男が【王の楽園】という言葉を口にした瞬間に、冒険者たちは張り詰めていた空気をよそに、ざわざわとするようになった。
冒険者の中には、驚嘆する者、称賛する者、にらみつける者がいる。
ただ俺にはその凄さは何もわからない。
アーノルドの言葉を受けてもぼけーっと突っ立っているだけしかできなかった。




