第18話「タイヨウとネロ」
「タイヨウ……」
俺は聞いたことのある名前を出され、頭の中を自動的に探した。
検索に引っかかった人物がその人物であるならば、チンピラから助けてくれた人物である。
助けてもらったのにも関わらずろくにお礼もすることなく俺がどこかへ走り去ってしまった。
「それって、もしかしてオレンジ髪の頭に、正義感が強い奴っすか?」
「あれ、もしかして知り合い?」
ヤマトさんがきょとんとしたこちらを見つめる。
この回答に否定をしないということは、その人物でまず間違いない。
俺の脳裏に数日前の体験が呼び起される。
顔中血だらけになっても、骨が折れても、弱者を助けた。
そんなヒーローのような存在。
「知り合いって程でもないんすけど、ちょっと前に助けてもらったことがあって……」
「あ!? タイヨウが言ってた人って、もしかしてカナタ君のことだったかも!」
「わわっ」
急に大声を出したヴィオラさんに、ヤマトさんが驚いた反応をする。
「どういう事ですか?」
「タイヨウがね、今日すごい人に会ったって」
「すごい人?」
すごい人という言葉には違和感を覚える。
もしかしたら、違う人であるという疑念が頭をよぎった。
「そう! なんでも助けてあげるつもりが、逆に助けられたって」
ほな俺と違うかぁ~。
「でもタイヨウが言うには、黒髪で歳も近そうなのに、いかにも貧乏そうな人だったって」
ほな俺やがな。
その言葉を受けて、少し複雑な気持ちになってしまう。
これだけで、嘘が苦手で取り繕うのがへたくそなタイプであろうタイヨウという存在が浮かび上がる。
まあ、それが素直さということにも繋がるのだが。
「じゃあきっと君のことだろうね」
ニヤリと笑いながらこちらを見てくるヤマトさん。
その棘を含んだ口撃に何も言い返せない。
「まあ、何はともあれ顔見知りってことだけわかればいいよ」
ヤマトさんが大きく伸びをしながら、そう言葉にする。
「そうっすね。また集まった時に見つけたら声を掛けてみます」
「うん。よろしくね」
ヤマトさんがウインクをして見せる。
「そうだ、カナタ君。今回の遺跡調査、まだ未開拓のところだから気を付けてね」
ヴィオラさんが思いだしたように忠告をしてくれた。
遺跡を熟知しているつもりだが、未開拓という言葉には身構えてしまう。
遺跡はそれぞれに違った構造をしている。
一つの遺跡を知っているからといって、ほかの遺跡を攻略できるとは限らない。
それに加え出現する魔獣も違ってくる。
そして未開拓遺跡は開拓されている遺跡と比べて難易度が跳ね上がることは周知の事実。
それが未開拓遺跡、通称『迷宮遺跡』。
「よし、それじゃあ俺はお金稼ぎも兼ねて今から遺跡にでも行ってきます」
実践慣れも兼ねて遺跡を巡りに行く。
冒険者登録も済ませて、お金も昔よりは稼げるようになったのだ。
まだまだ旅は続くのだ。稼げるうちに稼いでおきたい。
「どうする、ご飯食べてく?」
ヤマトさんが気を遣ってくれていると思ったら、その表情は含みのある顔をしていた。
「ここで飯食ったら口説かれそうなんで遠慮しときますよ」
「ちぇー」
悔しそうにしているヤマトさんに、それに対してツッコむことを諦めているヴィオラさん。
この二人の息の合い方を見ても、このギルドの雰囲気が垣間見える。
「いいギルドっすよ、ここ」
ちょっとしかこの空間にいないのに、この人物達と少ししか喋っていないのに。
この言葉がすっと出てくる。
なにか特別な思い入れでもあるのかと思ってしまうほど、このギルドは居心地がいいと感じてしまっていた。
「でしょ?」
嬉しそうに微笑むヤマトさんの顔は晴れやかだった。
それだけこのギルドを褒められたのが嬉しいのか、少しばかりその内面がわかる。
「私はいつでも待ってるから」
しっかり釘をさすように、ヤマトさんは誘い続けてくれていた。
自分のどこにその魅力があるのかがわからない。
ただ、これだけよくしてもらっているのだ。
何かしらで恩返しをしなければと心の中で誓いを立てていた。
「ヤマトさんも頑固なところあるから、気負わなくていいよ。入る入らないは置いといて、またいつでもご飯食べに来ていいからね」
「ありがとうございます」
微笑みながら、このギルドに別れを告げる。
たぶん、これがこのギルドに来る最後の時であると思っていた。
そう思った俺にも寂しい気持ちが浮かび上がってくる。
このギルドは何か人を引き付けるものでもあるのだろうか。
まだ春の香りが漂う道に、綺麗な桜並木が連なる。
その懐かしい匂いと、目に見える景色を捉えながら過去の記憶を巡ってみた。
嫌なことも、辛いことも、楽しいことも自分の記憶を確認してみたら色々な感情が浮かび上がる。
悪いものでもねえのかもな、異世界っていうのは。
そう思いながらその道を一歩ずつ、一歩ずつ歩く。
懐かしさと、新しいことへのワクワクが混ざり合い俺の心を満たしていた。




