第17話「恩人」
ヴィオラさんの隣に腰をかけたヤマトさんの表情はこれまでにないほど真剣で、ふざけている様子は一切ない。
こんなに真剣なヤマトさんは見たことがなかった。
「ダメ、とは?」
投げ返すようにその真意を聞こうとする。
「君は絶対にうちがもらう。なにがあっても」
「ちょっと、ヤマトさん。本人の意思を尊重してあげても……」
「ダメなものはダメ」
なぜか頑なに意見を曲げようとしない。
ヴィオラさんがヤマトさんを制しようとするも、聞く耳を持とうとしていない。
ヤマトさんは反対意見言ったりしないのではないのか。
そう思ったが、口に出すことをためらってしまうぐらいヤマトさんは真剣であった。
「なんとか飯の恩を返そうと思ったんですけど、それだけはできないっす」
俺も真っすぐにヤマトを見つめる。
もうここに来る前から答えは決まっていた。
ここに来た時に意思は固まっていた。
その答えを変えようとする気はない。
ここだけは、これだけは譲れなかった。
「……だと思ったよ」
数秒見つめあったところで、ヤマトさんの表情が崩れる。
体もぐでーっと力が抜けたように、机に上体を伏せた。
いつも通りのヤマトさんに戻ったことにヴィオラさんも安堵している。
「もう、何がなんだか……」
「ねえ、ほんとにダメ?」
少女のように俺の片手を抱き寄せながら、ヤマトさんがあざとく目を向けてきた。
そんなことをしてしまうヤマトさんに可愛いという文字が頭の中に浮かぶも、グッとこらえる。
「カナタ君も悩んでくれた上での答えなんです、ここは引き下がりましょう」
母親のようになだめヴィオラさんがこれ以上の勧誘を止めてくれているが、ヤマトさんも掴んだ手をなかなか離そうとはしてくれない。
ありがとうヴィオラさん、あなたのその言葉がなかったら俺はギルドに入ってしまったかもしれない。
「1つだけ質問してもいいっすか?」
俺は自分自身の疑問を解決しておく必要があった。
1つでいい、1つだけわからないのだ。
「なぜ、俺なんですか?」
たった1つの疑問を投げかける。
それもそのはず、まだ俺はヤマトさんがなぜそこまで自分に固執するのかがわかっていなかった。
俺がやったことなんて、飯をご馳走になった程度。
何一つとして自分がこのギルドに勧誘される理由が見つからなかったのだ。
「うーん、直観?」
「直観?」
ヤマトさんがこれまで通り掴めない発言をする。
これほどまでに、容量が掴めない言葉はないだろう。
聞いた自分がバカだったとも思ってしまう。
「君は頑固者っぽいからね、私が何を言ってもダメね」
半ば諦めながら、拗ねたようにこちらを上目遣いで見てくる。
「でも、何かしらの形ではお礼さしてください」
でも飯の恩を忘れたわけではない。
してもらった事に対して何かを返さないと気が済まない。
それが俺の性格であり、曲げられないところでもあったのだ。
「じゃあ、うちのギルドに」
「ヤマトさん」
「はぁーい」
ヴィオラさんがきちんとその言葉を止め、やれやれといった表情を浮かべている。
「いいのよ、そんなことしなくても。お礼がしたくてやった訳じゃないし、それに勝手にヤマトさんが連れてきただけだから」
ヤマトさんはその言葉を聞きたくないのか、ヴィオラさんのほうを見向きもせずに知らんぷりしている。
「それはそうなんすけど」
「あ、そうだ。今度の遺跡探索のクエスト、君も行くんでしょ? ロゼッタさんが言ってた」
「はい」
「じゃあさ、この前のご飯のお礼は、私たちの子を助けてあげるってことで」
「私たちの子?」
「うん。このギルドからも新人の子二人がそのクエストに行くことになっててね。ほんとは、私もその子らの保護者としていく予定だったんだ」
普通行けなくなって残念という内容の話であるが、なぜか顔に微笑を浮かべている。
相変わらずこの人の表情からは、心情は察知できない。
「俺危なくなっても助けられるほど、実力ないっすよ」
「あー、その点は心配いらないよ。彼ら戦闘力だけなら『二つ目の実績』だからね」
『二つ目の実績』。
俺も詳しくは知らないが、一つクラスを上げるのにも相当な実績がいるはず。
今の俺が冒険者成り立ての状態が『何もない実績』。
その二つ上とあれば、大方の戦闘力は予想がつく。
「それだったら、心配いらないじゃないっすか」
「うん、でもまだ彼ら若いからね」
「俺も若いっす」
「あはは。そうだね、君も若かったね」
なぜ笑う。
しかし、頼みとあればその子らを無下にすることはできない。
遺跡探索中なにか困ったことがあればできる限りでは助けてあげたい。
それが飯のお礼であるならばなおさらだ。
それにヤマトさんやヴィオラさんを含めて、このギルドにはお世話になっている。
そのギルドの一員ともあれば、気前のいい奴らに違いないはず。
「それで、その子らの名前は?」
名前だけわかっていても仕方がないが、名前程度はその人物らのことを知っておく必要がある。
その最初の段階は名前を知ることであろう。
「タイヨウ君ととネロちゃん」




