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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第1章「未開拓遺跡編」
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第16話「ギルド」

 手に大事に持っていた五枚のお札を眺め、改めてお金が手元にあるという実感が湧いてくる。

 一番大切であり、心の拠り所であるにも関わらず、離れていく存在。

 欲しい時には存在せず、持っている時にはありがたさを感じることができない。

 まるで彼女のような、そんな存在。

 一生付き合っていく必要がある存在。

 だとしたら、結婚相手とした方が正しいのだろうか。


 歳を重ねるごとに益々、お金への執着心が高まる。


 このまま行ったら、お金と結婚しちゃう。どうしよ。

 そんなことを考えていたら、気がつくとヤマトさん達がいるギルドの扉の前に立っていた。


 しかし、ここまで辿り着くまでにずっとヤマトさんの言葉が引っかかっていたのだ。

 君が欲しい、という言葉。

 順当に解釈するなら、ギルドに来てくれということであろう。

 少しだけしか会ったことのない人物、タダ飯を食っただけの人物。

 そんなどこにでもいる俺をギルドに誘ってくれた。

   

 ただ、俺はギルドに入ることはない。

 とある人物を探している以上、1つの場所に居続けることができない。

 それに自分の性格的にも、同じグループで他人と一緒の活動をすることはできないことはわかっていた。


「もし言葉の意味がそうだとしたら、丁重に断るしかないな」


「あ、カナタ君」


 いざ扉を開けようとしたとき、横から聞きなじみのある声が俺の耳に届く。

 その声の方を振り向くと、両手で紙袋を持っているヴィオラさんの姿があった。

 その袋からは長いパンがはみ出ており、買い物帰りであることがわかる。


「こんにちは」


「こんにちは。またお腹でも空いた?」


「いや、今日はヤマトさんに呼ばれて」


「ヤマトさんに? うーん、ヤマトさんそんなこと言ってたかな……」


 目線を少し上げて、頭の中の記憶を探している様子であるヴィオラさんだったがヤマトさんからは特にそのような事は聞いていないようだ。


「とりあえず、中で待っとく? ご飯はすぐにはできないけど、お茶ぐらいは出すよ」


「あ、じゃあお言葉に甘えて」


 ヴィオラさんについていくように、ギルドの中に入った。


 木造の暖かな香りに包まれ、その匂いで実家のような安心感が漂う。

 決して大きくもなければ、内装も豪華ではない。

 お世辞にも綺麗だとは言えないこのギルドだが、俺はこの雰囲気が落ち着いた。


「それでヤマトさんはなんて?」


 淹れたてのお茶を差し出し、ヴィオラさんが正面に腰を掛ける。

 それに対し軽く会釈をして会話を続ける。


「俺も詳しくは知らないですけど、君が欲しいって言ってたらしいっす」


「ん?」


 まあ間違いなくそういう反応になるだろうとは予測していた。

 実際俺自身もその言葉の意味は今になってもイマイチ理解できていない。


 眉間にしわを寄せているヴィオラさんも俺と同じような理解度であろう。


「どういう意味?」


「それが俺にもさっぱり」


 はぁ、と深いため息を漏らし、決まりごとのように頭を抱えている。


 この人はいつも頭抱えているな。


 そんな彼女を見ていると悩みが少しわかる気がした。

 人に振り回される気持ちは痛いほどわかるからな。


「うーん、たぶんカナタ君をうちに入れようってことだろうけど」


「まあ俺も大方その予想ですね」


「カナタ君は、もしその誘いだとしたらどうするの?」


 ヴィオラさんは真っすぐに、回答をゆっくりと待つように、じっと俺の目を見つめている。

 少ししか会ったこともなければ、数時間しか一緒にいなかった俺に真剣になってくれている。

 ギルドというのは仕事仲間という繋がりという側面も持ちながら、家族のように切っても切れない関係になる。

 命を預けて戦うからか、長い間一緒にいるからだろうか。


 家族に入るのかどうかの見極めをたった今、してくれている。

 これは簡単にできる話ではない。


 ヤマトさんという家族を、仲間を信頼しているからか。


「有難いお誘いですが、断ろうと思ってここに来ました」


 その誘いをたった一言で断ってしまうのは少し抵抗があった。

 でもこういうときははっきりと答えなくては思い、ヴィオラさんの双眸を見つめる。


「そっか……」


 すこし残念な顔をしたヴィオラだったが、その後すぐに優しい表情へと変化を遂げた。

 おそらくヴィオラさんも心配してくれているのだ。

 自分のことを、そして自分の人生を。

 それだけに申し訳ない気持ちが心を一杯にしようとする。


 あまり人との関わりを持ってないのは、人が嫌いなわけではない。

 心配してくれることも有難いと思っている。


 しかし、その心配が身に堪えてしまうのだ。

 その心配に応えるために、期待を背負って生きるという行為が嫌だから。

 関りを持たなければ、嫌な思いも、することもされることもない。

 だから、距離を置いてしまう。

 だから、誰も助けてくれなくていい。

 でも、世界はそうではないのだ。

 生きていくうえで人との関わりから逃げることはできない。

 自分のことを心配してくれる人、飯を作ってくれる人、そして人生を支えてくれようとする人。

 中には自分を陥れようとするもの、邪魔をしてくる者もいる。

 生きるということは簡単なようで、難しい。

 単純なようで、難解。

 この答えのない旅をずっとし続けなければならないのが人生かもしれないということがこの異世界でほんの少しだけわかった気がした。


「なんか、すいません」


 俺は俯きながら、言葉を紡ぐ。

 色々な感情が入り混じった中で、この言葉しか出すことができない。


「何を謝ることがあるの。君が決めた答えに、ヤマトさんは文句なんか言ったりしないよ」


「ダメ」


「え?」


 ヴィオラさんの言葉を聞いた途端、すぐ後ろから声がする。


 そこにいたのは俺をこのギルドに導かせた張本人。

 ギルドにもう一度呼んでくれた当の本人。


「ヤマトさん」


 その女性を見つめて、しっかりと視界に入れた。

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