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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第1章「未開拓遺跡編」
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第13話「財布」

 カナタを見送ったロゼッタは、彼から預かった書類に目を通す。


「え、これって……」


 ロゼッタが見ていたのは実績の項目。

 この実績には冒険者ランクを設定するために必要な項目である。

 通常冒険者ランクは一番低い『何もない実績(ミーデン・クラス)』からスタートするが、この実績によってはスタートのランクが高くなる可能性は十分にある。


 カナタは本当に必要な事だけを端的に書いてあるだけで、実績の欄の文章量は多くはなかった。

 書いてあったのは、訪れた遺跡の名前のみ。


 しかし、その遺跡の名前がロゼッタの目に留まる。


 〈桜の遺跡(ブロッサム・リメインズ)


「確かこれって、【森の妖精(フェアリー・ウッズ)】が見つけた遺跡よね。しかも、特別指定遺跡だから一般の冒険者や、トリ・クラスの冒険者でさえも立ち入ることができないのに、どうして彼が……」


「ロゼッタさん!」


 書類とにらめっこをしていた、ロゼッタ耳に快活な声が届く。

 顔を見上げるとそこには、タイヨウの姿が見えた。


「あら、タイヨウくん! それにネロちゃんも」


「どうも、ロゼッタさん」


 タイヨウの後ろからひょっこり出てきた、ネロもロゼッタに挨拶をする。


「今日は二人そろってどうしたの? クエストの受注?」


「いや、今日は落とし物を」


「落とし物?」


 タイヨウがポケットから出したのは、何の変哲もない、いやちょっとボロい財布だった。


「財布なんですけど……」


「うわ、なにこのぼろっちい財布、あんたこんなの道に捨てときなさいよ」


 ネロがその財布を汚いものを見るような顔で、これでもかというほどけなしている。


「まあ、どんな物でも落とし物だからね。それで、これどこで拾ったの?」


「一番街の路地裏です。で、たぶん落とした人は俺らと同じぐらいの年齢の子だと思います!」


「そう、わかった。しっかり預かっておくわ」


「ありがとうございます! じゃあ、俺らはこれで!」


「うん、またいつでも来てね!」


「じゃあね、ロゼッタさん」


 タイヨウとネロの二人は颯爽といなくなり、手元に残ったのは財布。


「財布? う~ん、まさかね」


 ロゼッタも頭の中の整理ができたのか、集会所の奥へと去っていく。


 財布、されど財布。

 この世の誰かにとったら、これが一番必要で大切なものかもしれない。

 しかし、それは神のみぞ知る。


 * * *


「よし!」


 街の大きな門を超え、気合を入れる。

 扉の奥の道には街灯一つなく、手に持っているランタンのみが道の先を何とか照らしてくれていた。

 ただ、その明かりは小さなもので前方一メートルぐらいしか照らしてくれない。


 しかし、そんな中でも夜から出発しなければならなかった。

 なぜなら。


「明日の飯のためだ」


 しっかりと足元を確認しながら、かすかに照らされている道を歩いていく。


 夜のうちから出発する目的は、大量の鉱石を持ち帰り明日の朝集会所が開いた瞬間にクエストを発注、完了しお金を手に入れること。


 その報奨金を手にすることを考えると、にやけが止まらない。


 先ほどまで慎重に歩いていたが、自然と足取りも軽くなってきて軽快に遺跡へと向かう。


 目的の遺跡は街から数十分歩いた場所にある。

 比較的わかりやすい位置にあり、遺跡に辿り着くまでの道も舗装されていたため迷うことはなく辿り着くことができた。


 遺跡の入り口は木が絡まっているが、街に一番近い遺跡ということもありそこも周囲は綺麗に整えられている。

 それでも大きな太い根っこのようなものが扉を覆っているが、それが余計俺の心を躍らせるのだ。


「やっぱテンション上がるよな~」


 深夜だからなのか、久しぶりの遺跡探索だからか、テンションもいつも以上に高まっている。


 遺跡の楽しさに憑りつかれてしまったのはいつからだろうか。

 何もなく森を歩いていた時に遺跡を見つけた時にふと足を踏み入れた時であったか。

 俺が見たことなかった景色、出会ったことのない環境、どれもが俺にとっての好奇心をくすぐられ続けた。


「それじゃあ、行くか!」


 スキップ気味の足取りで暗闇の遺跡へと向かう。


 嫌なことばかり起こるこの世界で、それを忘れることができる唯一無二の場所へ。


 * * *


「眠い……」


 人の体ほどある大きな麻袋を抱えながら、ゆっくりと一歩ずつ街を歩く。

 まだ太陽も少しだけしか顔を出していなく、早朝のひんやりとした空気が体に染みる。

 人の出も少なく、祭りもまだ始まっていない街は静かで昼とはまた違ったよさに包まれていた。

 普通ならばこの早朝の空気に気持ちよさを感じるところだが、眠気に襲われている者からしたらその空気を味わっている場合ではない。


「さすがに寝ないとどうにかなっちまいそうだ……」


 体はピークに達しており、思考も止まってしまっている。

 唯一、頭にあったのは歩いて街まで辿りつくことだけだった。

 そしてそれが達成された今、足取りはどんどん重くなり終いには目も霞んできてしまう。


「さすがに寝るしかないか」


 いつも通り、なのか路地裏に入り腰を下ろす。

 そしてそのまま冷たい地面に横になり、目をつむった。


「おいおい、こんなところで寝ている馬鹿がいると思ったら昨日のガキじゃねえか」


 ん?


 この声、もしや。


「兄貴! こいつの袋に大量の鉱石が入ってますぜ!」


「ぜ!」


 朝まで酒でも飲んでいたのか、こいつらから臭いアルコールの匂いが鼻腔を苦しめる。


「よし、それ持っていけ。俺はこいつに蹴りを一発お見舞いしてから行くぜ」


 おいおい、また俺から物を盗むつもりか。

 さすがに、黙ってはおけねえぞ。


 ドンッ


 蹴られた瞬間に手を出し、目を瞑ったまま掴む。


「おい、なにしてるてめぇら」


 まだ眠たさが残ると思っていたが、怒りが勝ったのか体もすぐに覚醒した。

 攻撃を止めると同時に目を開ける。


「くっ、放せこの野郎!」


 足を動かし、必死に抵抗しようとしているのがわかる。

 ただ、離すわけにはいかない。

 今、この場でこいつを罰しなければ世の中にとってマイナスだ。

 この何もしない、何もない俺が直々に慈善行為をやってやる。

 加えて俺の怒りもここで晴らしておくべきだな。

 あくまでついでに。


 俺はゆっくりと体を起こし、イチルを掴んでいる手にも力が加わってくる。


「さすがに温厚な俺も、財布は盗まれるは、夜通し採ってきた鉱石も盗まれるわだったら、黙ってはおけねえよ」


「ぐっ……」


 イチルの表情にも焦りが見られている。

 こいつは短気で、単純。

 自分の思い通りにならないことがあれば、すぐに頭に血が上り周りが見えなくなる。


 だからこそ、もったいない。

 恵まれた体格、魔力量があるのに.

 努力を重ねればとんでもなく強くなれるのに。


「お前、地獄を知っているか?」


「はっ! 知ってるぜ、そのぐらい。それに俺様は生まれてこの方地獄しか知らねえと言ってもいいぐらいだ」


「そうか。じゃあお前はとんだ天国で暮らしていたんだな」


「あ?」


「お前のように自由気ままに弱者から搾り取り、自分より強いものからは何も奪わない。いや、奪えないが正しいか」


「何が言いてえんだ」


 イチルも言われっぱなしでさすがに腹が立ったのか語気も強まる。


「地獄と言いながら、その地獄に入ることすらもビビッているお前のような負け犬が地獄を知っているような素振りを見せるなよ」


「てめぇ、言わせておけば!」


 怒りに身を任せ、言葉を続ける。

 そして足を持ち上げ、可動域とは逆の方向にこいつの膝を曲げていく。

 イチルは必死に振り払おうとして、魔力を足に溜め込む。


 が、そんなことをしても無駄だ。

 俺が足を掴んだ時点でもう勝負は決まっているのだから。


「返せよ……」


「は?」


「俺の財布、返せよ」


「財布? 知らねえなあ、そんなの」


「とぼける気か?」


「だから、そんなの知らねえよ」


 イチルの顔に汗が浮かんでいるのがわかる。


「そうか、じゃあ」


 ボキッ


「地獄の入り口まで案内してやるよ」


 ニチカやミチにも聞こえるほどの、痛々しい音が響き渡った。


「なっ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 静寂な街に響き渡るほどの悲痛な大声が出すイチル。

 イチルの右足首はプラプラと動いている。

 まあ、綺麗に折ってやっただけ感謝してほしいものだ。


「「ひぃ!」」


 イチルの足を見たニチカとミチもその危険性を感じたのか思わず声が出てしまっている。


「一度盗まれたものはもういらねえ、さっさと失せろ」


「ぐっ、あ、う……」


 その場に倒れ込むイチルからはもう嗚咽しか聞こえない。


 しかし、唇を噛みながら必死に耐えている。

 それによって口から血が流れだしていた。


 ニチカとミチは怯えながらも、なんとか持ち上げ、俺の元から逃げるように去っていった。

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