第11話「集会所」
「行っちゃった……」
悲しそうな表情を浮かべ、その扉をずっと見続けるヤマト。
「心配ですね、彼のことは。 無理やりにでも引き留めた方がよかったんですかね」
「当たり前だよ。でも彼、カナタ君は大丈夫な気がする」
「なにか根拠でも?」
「彼、見た目以上の実力者だよ」
「え?」
「今日ね、お祭りの射的で悪徳野郎がいたんだよ。その店主が能力を使って景品を落とさないようにしててね、私もなんとか頑張ってたんだけどなかなか打開策がなくてね」
今日あったことを淡々と語り続けるヤマト。
祭りを一番楽しみにしている子供たちにも能力を使ってお金を巻き上げることは、彼女にとって許されざる行為だ。
しかし、その能力がなんなのか、どんな能力なのか解決する手段も方法もなかった。
何とか見つけようとするも思い浮かばなかった。
やりきれない気持ちがヤマトの頭を逡巡していたのだ。
「そんな時に彼がひょこっと出てきて、一瞬でその能力を見抜いたの」
「ヤマトさんでも見抜けなかったのに、ですか?」
ヴィオラが息を吞むように、質問を投げる。
「買いかぶりすぎだよ、『神の実績』の私でも相手の能力なんて読めない。できて相手が能力を発動しているか、していないかぐらいの判断だけ」
「じゃあ彼は能力を使って、能力を見抜いたってことですか?」
「ううん。彼は能力なんて使ってなかった」
「え!?」
「ふふっ。もしかしたら私たちはとんでもない人に恩を売っちゃったのかも」
ニヤニヤと不敵な笑みをヴィオラに向けている。
ヴィオラは未だに、開いた口が塞がらない。
この世界で数人しかいない『神の実績』であるヤマト。
その人物が一目置くほどの人物が、偶然出会った。
神が導いた運命なのか、天使がもたらした幸運なのか。
そんな物語みたいな未来に心を馳せるヤマトであった。
* * *
「ふぁ~あ」
大きく口を開けあくびをし、太陽の強烈な日差しによって目も半分しか開かない。
目の前もぼんやりとしか見えず、ゆっくりとぼとぼと路地を歩く。
相も変わらず街は喧騒に包まれ、人々は忙しなく動いている。
俺が財布を無くそうが、野宿しようが人々にとってみれば関係のないこと。
そうはわかっているが、唯一と言っていいほどの心の拠り所であった財布を失くしたことに怒りを通り越した絶望感だけが俺の心を蝕んでいた。
朝一番で遺跡探索にでも行って、鉱石でも拾って来ようと思ったが昨日の疲れから昼過ぎまで路地裏で寝てしまっていた。
祭りの喧騒によって朝から何度も何度も起こされたが、その都度反抗するように寝ていたため疲れも全く取れていない。
「今からでも行くしかないか」
ぎゅるりと鳴った、腹の音を聞きさらに自責の念に駆られる。
金がなければ飯を食べてエネルギーをとることも、体を休めることもままならない
だからこそ歩き出すしか選択肢はない。
「ん? なんだこれ」
街の外に向かって歩いていると、道の壁に稚拙な張り紙を見つけた。
職歴・学歴不問!!
どなたでも歓迎!!!
・【王の楽園】公認の調査だから安心!
・優秀な冒険者も付き添います!
・報酬はなんと三十万ペイです!!!
詳しくは集会所まで!
「こ、これは……」
疲れのせいで傾いていた体を起こし、目を輝かせながら一目散に集会所へ駆け抜けていった。
三十万ペイ。
俺にとってこの数字はとてつもなく大きなものに感じる。
ただの遺跡探索のクエストならば、報酬は多くて1万ペイぐらいだろうか。
その三十倍の額がついている。
もちろんこの高額な報酬であるため、その分なんらかのリスクはついているはずだがそんなことは関係ない。
この街に来てから、初めて楽しみなことができたのだ。
* * *
「いらっしゃいませ」
ギルドの受付嬢が、礼儀正しく深々とお辞儀をして出迎える。
笑顔がよく似合う女性で、茶色の髪を後ろで一つに丸め清楚な印象を受ける。
白のカッターシャツに黒色のベストを羽織り、胸の中央にある赤色のリボンも知的な印象を受ける。
しかし、俺は受付嬢の対応、容姿に気にしている場合ではなかった。
「あの! 張り紙見て来たんですけど!」
受付の机に身を乗り出しながら、鼻息を弾ませる。
「え、えっと、少し落ち着きましょうか」
受付嬢の顔がドン引きしていることに気づくが、そんなことを気にしている場合ではない。
こっちは生活が懸かっているのだ。
「えっと、こちらの件でよろしかったですか?」
受付嬢が提示したのは、俺が見たのと同じ張り紙だった。
「これです!」
その言葉と同時に俺の鼻息ももう一段階荒くなる。
それだけ興奮状態に近い。
それを見ていた受付嬢も、苦笑いを浮かべるしかない模様だ。
「では、書類の方を準備させていただきますので少々お待ちください」
受付嬢はニコッと笑いカウンターの奥に書類を取りに行った。
少し心の落ち着きを取り戻し、遺跡探索に思いを馳せる。
俺にとって遺跡探索は、この世界の唯一の楽しみであった。
異世界では俺が楽しめる娯楽施設も少ない。
そんな中唯一心躍るものが遺跡探索であった。
遺跡には、元の世界にはなかった鉱石や、宝物が眠っている。
これがこの異世界で見つけた趣味であり、生きがいであったのだ。
「お待たせしました! ではこちらに必要事項記入の元、サインをお願いします」
「了解であります!」
元気よく敬礼をし、書類に目を通していく。
先ほどまでの疲れはどこに行ったのか、先ほどまでの自分は何だったのかわからなくなってしまうほど今は興奮している。
「書類の方にも書いてありますが、一応大事な事項だけでも口頭でもお伝えしますね。今回のクエストはギルド【王の楽園】が発注しているクエストなので、難易度の指定はございません。ですので、冒険者様自身で危険かどうかを判断してもらう必要があります」
受付嬢が、書類の大事な要点を話してくれているがもうすでにサインは書き終わった。
いちいち説明なんていらない。
遺跡探索ができて、報酬ももらえるそれだけでいいではないか。
「はい、これでお願いします」
「え! えっと、まだ説明が途中ですがよろしかったですか?」
「全く問題ありません」
キリっとした目を作ってみせ、格好をつけて返事をした。
「ではこちらお預かりしますね。では保証金として、報酬の一割の三万ペイいただきますね」
「え、保証金?」
「はい」
素敵な笑みを浮かべながら受付嬢が、俺がお金を払うのを待っている
保証金?
なんのことだ、そんなお金が必要なんて説明してくれなかったではないか。
「えっと、ないです」
「え?」
「お金ないです……」
「えっと、今持ち合わせがなければ自宅などに取りに行ってもらっても問題ないですよ」
ニコニコしながら受付嬢が対応するも、俺にそんな常識は当てはまらない。
「いや、それが、取りに行ってもないです。むしろ取りに行ってお金があればいいんですが、それも叶いません」
俺の理解できない言葉を受けて受付嬢が困惑した様子ある。
まさか保証金というものが存在したとは想定外。
これまで集会所というものを利用したことがなかったつけがここに来て回ってきてしまった。
このクエストだけなのかもしれないが、そんなシステムさえも知る由もできない。
「じゃあ、これにて失礼します……」
背中を丸めながら岐路につこうとする。
お金がなければどうしようもできない。
例え財布があったとしても払えない。
帰ることしかできないのだ。
「あの! 待ってください!」




