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この物語の最後に僕は死にます  作者: 松浦
第1章「未開拓遺跡編」
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第9話「道で寝てればギルドに着く」

「ただいま、ヴィオラ」


「あ、ヤマトさん。お帰りなさい」


 眼鏡をかけ、深緑の髪を後ろで一つに束ねている綺麗な女性が迎えの返事をしていた。

 銀縁の眼鏡が知的という印象をもたらし、クールな雰囲気も纏わせている。

 目鼻がくっきりしており、外国人と言われても納得できてしまうほどスタイルもよい。


 まあ、この世界で外国人は俺の方かもしれないが。


「そちらは?」


 その女性がヤマトさんの後ろにいた俺に気づき声をかけてくれた。


「この子? さっき道で拾った」


「道で拾った? どういうことですかそれ」


「いや、言い方……」


 ヤマトさんの言葉に驚くその女性が極めて真っ当なことを言う。


「とにかくこの子、お腹空いてるみたいなの。キッチン使うわね」


「拾いネコか俺は……」


 そう言い残すとヤマトさんは足早に奥の方に行ってしまい、残ったのは俺とその女性だけだった。


 ちょっと気まずいな、これ。


「もう、ヤマトさんは……」


 額を手で押さえ、怪訝な表情を浮かべるヴィオラと呼ばれていた女性。


 ヤマトさんの一連の行動に慣れているのか、俺のほうを向いてもその表情は変わらない。


「どうぞ、こっちに座って」


 こんな自分を招き入れてくれ、席に座るように促される。


「あ、どうも」


 ついでにお茶を出してくれて、ほっと一息つくことができた。

 けれどこの二人きりの状況には気まずさがある。

 しかも、ここまで来てしまった手前帰るわけにもいかない。

 それに俺にとって一番大事ご飯が待っているのだ、簡単には引き下がることはしたくない。


「あなた、どこでヤマトさんに拾われたの?」


 長机を挟んで向かい側にヴィオラさんも腰を掛けた。

 先ほどまでの悩み事は一旦置いて切り替えたのか、俺がどこで何をしていたかを尋ねてくれる。


「えっと、道端で」


「道端?」


「俺が寝ていたら起こされて、飯奢ってあげるからといわれここに連れてこられました」


「はぁ~。ヤマトさんも大概だけど、あなたも知らない人にほいほいとついていっちゃだめよ」


 大体のことを把握したようで、ため息交じりに注意される。

 改めて正論を言われると確かに納得してしまう節もある。

 ただ、読んで字のごとく背に腹は代えられなかったから仕方ない。

 

 それにヤマトさんのような美人だったら誰でもついていく。


「はい……」


 でも改めて面と向かって言われたことでバツが悪くなってしまう。


 こうやって注意してくれる人などこの世界にはいなかった。

 人との距離感の取り方、接し方も、遠い昔の過去に忘れ去ってしまった気がする。


 だからこそ、自分で自分を律しなければいけなかった。

 甘えることも、じゃれ合うことも、怒ったり、怒られたりすることもなかったから。

 だから俺にとってこういう存在は貴重と思えてしまう。

 有難いと思ってしまうのだ。


「ねえねえ! ヴィオラもご飯食べる~?」


 ほんの少し感傷的な気分に浸っていたところで、奥の方からヤマトさんの声が聞こえてきて現実に引き戻される。


「いえ、私は大丈夫ですよ」


「なになに、ダイエット~?」


「いえ、そういうことでは……」


 ヴィオラさんもヤマトさんのペースに躍らされ、困惑している。

 このやり取りだけでも、ヤマトさんの人柄が垣間見えた気がした。


 おそらくこの人は人の話をあまり聞かないタイプだ。

 でも、それはあくまで受け手側の印象。

 彼女はきちんと相手の話を自分の中に落とし込んでいるのだ。

 だから相手の気持ちがわかる。

 相手の気持ちを推察できる。

 相手にターンを譲ることもせずに自分のペースで話を進めていく、そんな人と言ったところか。

 だからこそ、俺はここまで来れたのだが。


「あ、そういえばほかのみんなは今日帰ってこない?」


「はい、みなさん外出していて帰ってこないそうです」


「そっか」


 少し悲しそうな表情を浮かべたヤマトは再び料理の準備に取り掛かる。


 みんなという事はほかにも誰かいるのだろう。

 特に説明もされずほいほいと付いてきてしまったがここはおそらくギルドだ。

 二人で暮らすには大きすぎるし、机一つにしても間違いなく個人用ではない。

 たぶん、この二人以外メンバーがいるからってことだろう。


「あの、何か手伝いましょうか?」


 じっとしていることがさすがに申し訳ないと思いヤマトさんに声を掛けた。


「いいの、いいの。お客様はそこで、可愛いお姉さんとお話でもしておいて」


「は、はい……」


「まあ、ヤマトさんはああいう性格の人だから、ゆっくりしておきなさい」


 鼻歌交じりに調理中のヤマトさんの方を見ながら、ヴィオラさんも微笑を浮かべている。


「できた!」


 明快なヤマトさんの声とともに、今の俺の全身を刺激するかの如く香ばしい料理の匂いが奥の方からやってきた。

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