表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

秋夜の音楽描会(おんがくかい)

秋夜音楽描会(おんがくかい)   --- シェイカー ---

作者: ふゆ~れ

秋の夜、公園の森で開かれる不思議な音楽会に迷い込んだことから始まる物語。



「音の『落書き』?」


隣の少年に首をかしげる。


「楽しく描く、の『楽描き』だよ。楽器の音のことを『音色』って言うじゃない?だから

『音を描く』も、間違いじゃないと思うし。僕達も『演奏』っていう程のことはやって

ないし。」


「そうなの?演奏じゃないっていっても、さっき聞いていた感じでは十分いい演奏に聞こ

 えたけど。」


「そうなんだ?! …それよりもお兄さん、初めてだし楽器も特にやってないんだよね?

とすると…今日はタイコでも叩いてみる?簡単に音出せるし。」


 大きなお猪口を縦に伸ばしたような形のタイコを指さす。先程叩いていたのを見る限り、

低い音や高い音、結構色々な音出せるようだ。でも、結構目立つ音だし、初めてでそれ程

色々な音を叩ける自信もなく、


「う~ん・・・、さすがにいきなり大きい楽器は気が引けるなぁ~(^^;」


「そうかぁ、なかなか恥ずかしがり屋さんなんだね。そしたら…控えめに振りものなんて

 どう?」


といって、円筒形の容器を出してきた。それをシャカシャカと振りながら、


「振れば音が出るし、そんな大きな音ではないから。これならどう。」


と、手渡してきた。


「う、うん、そうだね。」


受け取って、耳のそばで振ってみると、シャラシャラと音がする。


「振りもの。シェイカーは何かの入れ物に、砂利とか、種とか、細かいものを入れて封を

 すればそれで出来上がり。簡単に作れてお手軽な楽器だよ。」


と言いつつ、少年はどこからともなく始まった音にタイコで加わった。


 楽器を手に見ていると、「ほらほら」と声を掛けられる。見ると、片手でタイコを叩き

ながら、もう片方で振りものを振る真似をしている。それに促されて楽器を持つ手を振り、

シャラシャラと僕は音の中に加わった。僕が楽器を振り始めると少年は目を細めて頷き、

手をタイコに戻した。


 シャラシャラ・・・


リズムに乗っているとは言えないけど、音の輪には入れたようだ。


 シャラシャラ・・・


(あっ、なんか楽しい。)


 しばらく合わせて振っていると、なんだか楽しくなってきた。少しもやもやとしていた

気分が晴れてきたような、そして、ちょっとリズムにのって体を揺らしてしまうような。

それからしばらくの間、僕は音に合わせて楽器を振り続けた。


 シャラシャラ・・・


 続けていると、楽しいのだけどやはり今度は自分の音がずれてるのも気になってきた。

周りのリズムに合わせようとしても少しずれてしまう。リズムに合わせて手を振っている

はずなのだけど…。


(どうしたら、他の人と合わせられるのだろう?)


 少し振るタイミングを遅くしてみたり試行錯誤してみるが、意識するほどずれてしまう。

すると・・・


・・・シャカシャカ・・・


隣から、自分とは別の振りものの音が聞こえてきた。


「シェイカーって、簡単そうに見えてちゃんとやろうとすると、中々難しいんだよね。」


音のした方を向いた僕に、音の主が話しかけてきた。


「こう、ドアをノックするような感じで振ってみな。」


僕よりもそこそこ年上のおじさんだった。その手からは小気味の良い音が聞こえてきた。

言われたように、今迄手を揺らすように振っていたシェイカーを、空中の壁を叩くように

振ってみた。


シャッカ シャッカ・・・・


少し音が鋭くなり、隣の人のそれにちょっと音が近づいた。


「そうそう、中の粒々を飛ばして入れ物の壁に当てるような感じで。」


中の粒々を宙に浮かせるべく、少し角度をつけて強めに振ってみる。


・・シャカシャカ・・・


シェイカーの音にメリハリがつき、そのお陰なのか、周りのリズムとも音が合わせやすく

なった。


「いい感じになってきたね。」


僕はそのおじさんに、ニコリと頷いた。


 周りのリズムと自分の音があってきたことで、一層シェイカーを振るのが楽しくなった。

僕は暫くの間シェイカーに夢中になった。




 一段落ついたときに他のシェイカーの音も聞かせてもらった。自分のものとは少し違う

音がする。容器の材質や中の粒々の種類(大きさ?)等で変わってくるらしい。


「同じシェイカーでも、中のものの動きを意識して振るともっと色々な音が出せるんだよ。

 中のものを揺らすだけでなくて、入れ物の壁にぶつけるように振ったりすれば少し違う

 音になるし。シェイカーは単純な楽器だけど、なかなか奥が深いよ。」


 とも教えてもらった。

 シェイカーを揺するように振るとシャラシャラと流れるような音。中の粒々を浮かせる

ようにして強く振り、最後をちょっと止めるとシャッと鋭い音になる。少し難しいけど、

外に振るだけでなく、シェイカーを手前に引くときも同じような音が出せる。もちろん、

振る強さである程度音量も変わる。


「音が出せるようになったら、今度は周りの音を聞いてごらん。周りの音を聞いてみて、

 『ここにこんな音があったらどうかな?』とか『逆に自分の音を引いてたら?』とか、

 色々試してみるともっと楽しくなると思うよ。」


 その時、まだ自分の音を出すので精いっぱいの僕は、


(そんなもんなのかな?)


と、生返事を返した気がする・・・。

 その言葉を実感したのはもう少し後、シェイカーの鳴らし方も多少慣れてきて、周りの

音をもっとよく聞く余裕がでてきてからだった。






「よかったら、またおいで。」


「この時期、天気がいい夜は大抵やってるから。」


「はい!」


 夜も更けてきたけれど、一向に終わる気配がない演奏会。明日の仕事もあるので、僕は

一足先に帰ることにした。


・・・


(なるほど、『音の楽描き』って、その通りだな。)


 皆と別れて、家に帰る途中最初に聞いたこの集まりの名前が蘇ってきた。

 楽譜を渡されて何かの曲を演奏しているわけでもなく、その場のノリで進行する演奏。

その中に時々誰かがちょっと目立つ音を投げ込んで来たりする。それだけで終わることも

あれば、時々それに呼応するように別の音が返ったり、リズムの流れが変わったりする。


 白い紙にみんなでよってたかって自由に落書きをしている。てんでんばらばらに描いて

いるのだけど、俯瞰するとどこかでそれぞれの絵がつながって見える。そんな感じ。


 そして、その絵を描く中に僕が加わっている。


 初めてで、かつ一人で来た僕がほんの何十分ですんなりとその輪の中に入れた。何だか

不思議な空間だった。


(・・・あれっ?)


 そういえば、自己紹介もしてなかったな?…というか、他の人も名前の聞いていないし、

何故か顔すら覚えてない。


(まぁ、でも楽しかったし、次行ったときにでも聞いてみようかな。)


 あの音も遠くなり、僕は虫たちの声が降り注ぐ林を後にした。




最近ハマっている『ドラムサークル』。

みんなで打楽器を使って楽しむ催し・・・みたいな(超ざっくり説明)。

それを題材にして掻いてみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ