3. 品川着
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「(・・・んはっ・・・やばいよこれっ・・・もっ・・・とまんなっ・・・あっ・・・あっ・・・)」
目の前は暗いけど、今度はユキトの声が聞こえる。まだ夢から覚めないのかしら。
もともと声の高いユキトが上ずった声を出すと、大学生なのに少年みたいに聞こえなくもない。少年みたいなあどけなさが残った顔立ちがセールスポイントだから、不自然ではないと思うけど。
「(・・・はうっ・・・へっ、変になっ・・・あっ、それだめっ・・・すご・・・うひゃっ・・・)」
さっきの快楽堕ちの話といい、なんだか際どい夢が続くのね。でも私、ユキトのそんな声を聞いたことないけど。夢は記憶から生まれるっていうのに、これ私の妄想が源流かしら。マネージャーとしてなんかユキトに申し訳ない。
「(あっ、あんっ・・・俺もう・・・おかひくなるっ・・・ひうっ・・・もうムリっ・・・ムリイイイッ・・・)」
なんかユキト必死そうだけど、これ夢の続きよね?
「・・・もっ・・・らめっ・・・あ・・・ふあああああああああっ!!!」
結構なボリュームがあった。まさか・・・
私はゆっくりと目を開けた。
見えたものに一瞬頭が真っ白になる。
「なんなのよこれえええええっ!!!」
私はユキトの寝室で叫んだ。
「・・・あひ・・・はっ・・・も・・・もっと・・・」
頭上で両手首を縛られたユキトが、ベッドの上でもぞもぞと動いていた。シャツのボタンは全部外されているけど、ズボンは無事だしさっきの王子に比べれば露出度は少ない。
一方で、さっきの王子様はイケメン度を保っていたのに、事務所のホープ・ユキトの株は暴落していた。目がおかしな方向を向いているし、だらしなく開いた口元から舌が見えちゃってるし、総じて顔がぐちゃぐちゃ。
「ユキト、どんなときでもプロ精神を忘れたら駄目って言っているのに!こんな顔して、写真にでも取られたらもう芸能界にはいられないわ!」
「・・・あへっ・・・」
「イケメン俳優が『あへっ』っていっちゃダメ!!とりあえず顔どうにかならないの!?少しは王子を見習っ・・・」
そういえば・・・
役者失格のユキトをダメ出しすることに熱中してしまって、なんでこうなったか考えてなかったけど、これは私と入れ替わっていたミリザンドの仕業よね。
「えっ、ミリザンドこっちでも魔法使えるの?というか隣国を併合するための魔法、こんな安売りしちゃっていいの?」
ミリザンドが私と入れ替わっている間になにかするなんて考えつかなかった。夢だと思ったし真に受けてなかったのもあるけど。次回のためにトイレの案内板くらい用意しておこうかなんて思ってたくらいで。
「・・・はへ・・・」
ユキトの顔があまりにひどいので、私はティッシュを数枚掴んで顔を拭いてあげることにした。目と口を閉じればそこそこまともに見える気もするけど、なんだか目をいじるのは縁起が悪いし・・・
「これが夢じゃないとすると、ユキトは魔法で快楽堕ちしていて、週一回禁断症状がでるのよね。腹筋つつくだけでいいならなんとかなるけど、社長に言っても信じてもらえないだろうし・・・」
気づけば私は独り言を言っていた。ユキトには多分何も聞こえてないから問題ないけど。自分が魔法で快楽堕ちしたなんて知ったらどんなリアクションがあるかしら。
明日から私、ユキトから魔女扱いされたりして。でも魔法の効用が快楽堕ちってなんだかロマンがないっていうか・・・
待って、私って傍から見たら年下のアイドルを誘惑した痴女マネージャー!?
「違うの!!事故よ!!別人格が起こした・・・って誰も信じてくれないわよね・・・」
冷や汗がでる。ユキトが正気を取り戻したら、解雇どころか裁判になったり・・・
私はふと、さっき腹筋を触ったときの王子の反応を思い出した。あれは禁断症状がでていなくても術者に敏感になっていたのよね?
試しにユキトの縛られている手首の先のダランとした指先を、そっと触ってみる。
「はんっ・・・ん・・・んふあ・・・」
そこそこ効果があるみたいだった。ユキトは目を細めて気持ちよさそうにしている。私の指先も何かに触られている感覚があって、これがあの銀髪の青年が言っていた跳ね返りなのね、と思ったけど、単に触られている感じがするだけで特に快感に困る感じはしなかった。
「ねえユキト、ここで起きたことは、二人だけの秘密ってことにできる?」
ミリザンドとやっていることは変わらないけど、私は保身に必死だった。
「んん・・・あ・・・でも・・・はんっ・・・」
ユキトはさっきより少しはまともな顔に戻っていて、ちょっと反応があった。
「秘密にしてくれたら、一週間後にまたいいことが起きるよ。でもこれは絶対に秘密だから、そうなったら二人だけになれるところを確保してね。約束できたらご褒美あるからね?」
どうせ一週間後にミリザンドと入れ替わるんだろうし、そうなったらユキトはまた餌食になりそうだから、あらかじめこうしておけばいいよね。
でもミリザンドは一体何をしたのかしら。魔法のシーンを目撃していないから、どこを触っていたのか少し心配で、次回に目撃者がいたらややこしそうだけど。
「・・・ご・・・あっ・・・ごほうび・・・んうっ・・・ほしっ・・・秘密・・・あう・・・約束・・・するっ・・・」
この約束覚えていてくれているといいけど。ミリザンドは王子に併合を約束させた後、どう実行するつもりだったのか気になる。
「そう。あ、ついでに例のユキトが渋ってたわんこ系の役、受けてくれたらもっとすごいことあると思うよ。」
「あっ・・・もっとすごいの・・・受けるっ・・・あん・・・俺っ、ワンコになるっ・・・」
明日ユキトがどれくらい覚えているかわからないし、この調子で人格に影響が出たらまずいから、王子と一緒でリハビリしていかないといけないけど・・・
とりあえずグッジョブ、ミリザンド。