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04 いざ、顔合わせへ

 礼儀作法講座の初日は、言葉遣いや挨拶の練習が主だった。あっちの知識があるので、これはほとんど苦労せずクリア出来た。


 問題は次の日から始まった礼の仕方だ。こっちは何度もダメ出しをくらった。頭を下げる角度。スカートを持ち上げる高さ。右足を軽く後ろに引いた時のバランス。

 その合間に衣装合わせなんかもあって、戸惑いばかりだった。


 そんな毎日を過ごしていたら、あっという間に十日が過ぎ、顔合わせの日がやってきた。


「準備の時から思っていたけど、ここまでする必要あるの?」


 私は朝からダリアや他の侍女に囲まれ、あれよあれよと言う間に、鮮やかな青のドレスを着せられ、髪はサイドを編んだハーフアップにされている。


「セレーネ様はご存知ないかもしれませんが、幹部の方々は気難しい方ばかりなのです。レジェ様に忠誠を誓っていらっしゃっても、セレーネ様も受け入れてくれるとは限りません。ですので、失礼にならないようきちんとした恰好をして、ご挨拶をするんです。お教えした通りになされば、大丈夫ですよ」


 髪を結っているダリアは鏡越しに微笑んだ。


 私のことを見定めるための場でもあるのか。この十日間ダリアが必死になってた訳だ。


 お父様達以外の馴染みあるキャラ達に会える。という気持ちが大きくて深く考えていなかったが、自分の言動一つで良いようにも、悪いようにも転がると考えると、急に緊張してきた。


 前の私は人前で話すの苦手だったし、大丈夫かな……。


 そんなことを考えていると、部屋にノックの音が響く。ドア近くにいた侍女が確認をして、慌てたようにダリアに報告をしていた。

 それを聞いたダリアは一瞬驚いた表情をしたが、すぐ笑顔を浮かべ私に声をかける。


「セレーネ様、レジェ様がお迎えにいらっしゃいました。お通ししてもよろしいですか?」

「お父様が?」


 迎えに来るなんて話は聞いてない。それは皆も同じだったのだろう。侍女達は準備のために色々用意していた道具などを急いで片付け、部屋の壁際へ並んだ。


「準備はいいみたいだし、入ってもらっていいよ」


 私が椅子から下りてそう言うと、ダリアが目配せをして一人の侍女がドアを開けた。コツリと靴音をたてて、黒いマントと銀の髪をなびかせたお父様が入ってくる。

 そして、私の姿をじっと見つめた。その様子に準備をした侍女達は緊張の面持ちだ。


「お前は何を着ても可愛いが、今日は一段と可憐だな」


 顔を綻ばせ、そんなことを言う。魔王の威厳とやらはどこに置いて来たのだろう。


「みんなが頑張ってくれたお陰だよ」

「そうか。短い期間での準備だったが、よくやってくれた」

「も、勿体ないお言葉です」


 お褒めの言葉をもらって、侍女達は戸惑いながらも深く礼をした。ダリアは「当然です」と言わんばかりの笑顔を浮かべている。


「では、行くぞ」


 手を差し出され、私はその手に自分の手を置いて部屋を出る。流石に身長差があるので、エスコートしてるようには見えないけれど、お父様は満足そうだし良しとしよう。


「それにしても、どうしてお父様が迎えに?」

「勿論お前のその姿を一番に見るためだが?」


 何を言ってるんだ。と言わんばかりの顔をされた。お父様こそ何を言ってるのやら。呆れつつも、ちょうど不安になってた時だったから、こうして来てくれたことにほっとしている。お父様の手はいつも優しくて、安心できるから。


「緊張しているか?」

「少し。でも、幹部の人達に会えるの楽しみにしてたの。私に魔法を教えてくれる人もいるんでしょ?」

「ああ」


 今後のためにも幹部達とはいい関係を築きたい。特に教えを乞うことになるウィネット。彼女にどう思われるかが一番重要だ。


 魔法の研究にはすごい熱を持ってるキャラだから、全属性適正だって知ったら協力してくれそうではある。実験台にされないかが不安だけど……。


「お父様」

「何だ?」

「私、魔法をいっぱい覚えて、お父様達を守れるぐらい強くなるね」


 本来ゲームではお父様は倒される側の人間だ。けど、その子供として生まれたのなら全力でそれは阻止したい。そのためにはまずは力をつけるのが一番だろう。


 私の言葉にお父様は少し驚いた顔をしてから、声を出して笑った。


「魔王と恐れられている俺を守るぐらい強くとは、大きく出たな。期待して待っている」


 これは、子供の戯れだと思ってるだろうな……。


 そんな会話をしていると、向こうの廊下からオルガが駆けてくるのが見えた。


「レジェ様。どちらにおられるのかと探しておりました」


 それを聞いて、私は「え……」とお父様の方を見上げた。


「お父様、オルガに私を迎えに行くって言ってなかったの?」

「そういえば言い忘れていたな」


 お父様は特に悪びれる様子もない。


「……ごめんね、オルガ」

「お気になさらないでください。いつものことですから。それよりも、本日のセレーネ様は大変お美しいですね。レジェ様がお迎えに行かれるのも分かります」

「あ、ありがとう」


 社交辞令かもしれないが、普段そんなことを言わないオルガに褒められると、何だか照れる。その時、隣からひゅおっと冷たい空気が流れてきて、外の木にとまっていたであろう鳥が逃げ出した。


「レジェ様。そのような殺気を放たないでください。幹部の皆様も来られておりますし、何事かと思われます」


 謁見の間はまだ遠いのに、幹部の人達はこの殺気を感じ取れるのかと、私は違った点に着目して現実逃避する。


「やらんぞ?」

「ええ、重々承知しております。セレーネ様はレジェ様の大切なお方ですから」

「……ふん」


 いつもと変わらない笑みを浮かべているオルガを見て、お父様はどこか納得していないような不満顔で殺気をしまった。

 いつか自分に恋人でも出来様なら、流血沙汰になるのは必至だなと未来の相手に合掌する。


「準備は整っております。謁見の間へ」


 オルガが先導し、私達は謁見の間の横にある通路までやってきた。私の歩調に合わせていたので時間がかかってしまった。待たせて気分を害させていないだろうか。


「セレーネ様はこちらでお待ちに。名前をお呼びしますから、それから中へ」

「はい」


 謁見の間へのドアはなく、代わりに布で仕切られている。その前には兵士らしき人が立っていて、一言二言オルガと話したあと、布をめくって二人を見送る。

 暫くすると、謁見の間から話し声や足音なんかが聞こえてくる。もうすぐ出番だと思うと、どきどきと心臓が高鳴る。そわそわと手足が動いて、落ち着かない。


「椅子をお持ちしましょうか?」


 私が疲れていると思ったのだろうか。仕切りの前に立っていた兵士が声をかけてきた。水色の髪を後ろで束ねていて、普段見かける兵士に比べて、着崩してる感じがする。それなりに位の高い人なのだろう。


「大丈夫です。緊張しているだけですから」


 そう返すと、兵士はうーんと考える仕草をする。そしてはっと何かを思いついたように顔を明るくし、視線を合わせるように膝をついた。


「手のここをゆっくり押すと緊張がほぐれると聞いたことがあります」


 彼は自分の親指と人差し指の分かれ目の部分を押して見せる。折角の厚意を無下にはできず、私は真似をして押してみる。

 それを何回か繰り返していると、不思議とそわそわしなくなった。


「少し落ち着いた気がします」

「それは良かったです」


 こんな風に接してくる人は珍しい。メイドや兵士と挨拶を交わすことはあったが、いつもそれだけだった。


 こんな人もいるんだ……。


 物珍しくてじっと見つめる。ぱちっと目が合って、兵士の人は屈託ない笑顔を見せた。それにつられて私もへらっと笑う。


「セレーネ様。こちらに」

「は、はい!」


 その時、謁見の間から声が聞こえ、私はぴっと背筋を伸ばした。先程と同じように兵士の人が仕切りの布をめくってくれる。そして小声で「頑張ってください」と言った。


「いってきます」


 私も小声で返して、謁見の間へ足を踏み入れる。

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