やはりですか・・・
私は、急いで8つ目の棟を目指す。
5つ目の棟を通り過ぎる。
そして・・・
「・・・くっ」
やはり・・・。
胃に痛みが襲ってきた。
後宮に入ってまでも、いつもの事をしてくるとは・・・。
キーラという侍女は、私がお姉さまの部屋へ行くたびに、ほぼ毎回のごとくお姉さまの知りえないところで、私に毒を盛ってくる。
今回はお茶に毒を入れたようだ。
だから、『お茶だけでも飲んでください』と、言ったのだろう。
”ふらり”
と、足取りがおぼつかなくなってくる。
胸のあたりに手を置き、魔術を若干行使しながら8つ目の棟へと向かう。
”トントントン”
と、やっとの思いで、部屋に戻ってくる。
7つ目と8つ目の棟の廊下で、嘔吐をしたが嘔吐物の中に血が混ざってるのが見えた。
キーラに毎回毒を盛られているので、多少耐性が付いている。
それにも関わらず、このありさまなので、猛毒に近い毒なのだろう。
「ティア―ナ様、大丈夫ですか!?」
オルガが、すぐに私のもとへ来て、身体を支えてくれた。
「寝室へ・・・。」
寝室のベッドまで、私はオリガに支えられながら行く。
天蓋のベッドに横になる。
「オルガ・・・厚いカーテンを・・閉めてくれない?」
苦痛を感じながら言うと、オルガはすぐに天蓋の外側の厚手の赤いカーテンを閉めてくれる。
内側に、細かい石が大量に縫い付けられている。
その中で一番大きな石に触れ、魔術を少し送ると、ちりばめた石が光り出す。
普通なら夜空の星のようと感動すると思うのだが、今回の用途は違う。
私は、その作業に移る。
もう一つ内側にある白いカーテンを閉めた。
白いカーテンを閉めると、そこには文様が刺繍されている。
そう、このカーテンは精霊の加護を受けやすい文様が施されている。
そのカーテンに、仕付け糸のような糸が一本縫われている。
私は、その仕付け糸を抜くと、刺繍が光り出す。
そして、細かな光の粒子が私の体に降り注ぐ。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ~・・・。」
徐々に胃の痛みが治まる。
だが、まだ・・安心はできない。
「ごほっ・・ぐはっ」
咳と共に再び血を吐いた。
その血が、カーテンに飛び散ると、刺繍が赤く染まる。
すると今後は、ベッドの柱の色が深みを帯びて来きて、それと同時に刺繍の赤い染みが薄れていく。
このベッドは、特注で作った体調を整える機能が備わっているベッド。
多少の毒も精霊の力を借りて解毒してくれる。
それにしても、この聖宮殿は妖精、精霊が多く、加護を受けやすいのにこのありさま。
どんだけの猛毒を宮殿に持っていているの?
よく運び出せたわね。
・・・・逆に感心しますわ。
「オルガ・・近くにいるかしら?」
私は、横になったままで、声をかける。
「近くにいます・・・。」
すぐに返事をしてくれる。
その口調は、心配してますと言わんばかりに、不安げな口調をしている。
だけど・・・。
「オルガ。今日はこの通り私はこのベッドから出る事は出来ないわ。」
今日一日は、このベッドにいる事となると予想する。
「オルガは、この部屋の荷物が心配と、私がウェリーネの屋敷にいる時は、ここで待機すると言って、そのようにして貰っていたわ。」
重要な物は、全てウェリーネの屋敷に移動はしたものの、それでもこの部屋には、貴金属類がそれなりに置かれている。
私は、盗まれてもいいと言っているものの、オルガは自分がいるだけで防げると、頑なに部屋を開ける事を断った。
なので、私がウェリーネの屋敷にいる時は、オルガはこの部屋に待機をしてもらっている。
その際には、必ず部屋で一番安全なこのベッドで休むようにと約束をしてもらっている。
「でもね・・・私はこの部屋の物よりも、あなたの方が心配なのよ。」
魔女の生まれ変わりの私に、例えオルガの諸事情があろうと、ここまでしてくれている者を危険にさらす事は出来ない。
「今、この部屋が襲われたら、私は大丈夫でも、オルガが危険にさらされるわ。今の私の状態で助けるとこは出来ないわ。だから、あなたは安全な場所にいて欲しいの。」
「でも・・・。」
そう、答えるオルガに私は『お願い』と、念を押すように言う。
オルガは何も言えなくなり、辺りは沈黙に包まれる。
そして・・・。
「・・・わかりました。」
と、若干不満げに言った。
でも、わかって貰えてよかった。
「オルガ・・・ありがとう。」
私は、ホッと肩の荷が降り、目を瞑り体力をあまり使わない様にと眠りについた。
”パタンッ”
と、遠くの方で扉の開閉の音がする。
どうやら、オルガが部屋を出て行ったようだ。




