エステルの花茶
テーブルを中心に座る一同。
私の正面の席にオルガが座り、そのサイドにスグリ家族が座る。
「私・・金髪碧眼のような華やかな感じでなく、黒目黒髪だから暗い感じに見えるのに、何故別人と思ったのかしら?」
私はなんとなくオルガに聞いてみるが、『ブラウンの瞳にブリュネットです。』と、コレットが横やりを入れてきた。
あんまり変わらない気がするのだけど・・・。
私はオルガに微笑みかけて、オルガの言葉を待つ。
「私にとっての魔女のイメージは、お歳を召した方を想像します。」
”プッ”
と、コレットが吹きだし笑いをこらえていた。
すぐにナターシャがコレットを睨みつけ、コレットを制する。
流石は母親っといった感じね。
「もしくは、妖艶な感じの女性で・・・。」
次にオルガが出した魔女イメージの言葉で、ナターシャとコレットは私の胸のあたりを見る。
・・・恥ずかしいのですが。
私は困った顔を2人に見せると、すぐに顔を逸らしてくれた。
「ですから、お優しそうな方だとは思わなかったのです。」
嬉しい言葉だけど・・・彼女の為に言うべきことは、言わないとね。
「見た目で判断してはだめよ。これでも私は魔女の生まれ変わりなのだからね。」
”バンッ”
「違いますので!」
「違います!」
「違う!」
一斉にスグリ家族が、言葉を合わせたかのように言う。
毎回の事なのだが、私が魔女の生まれ変わりという事を口にすると、必ず違うという事を言うスグリ家族。
私が魔女の生まれ変わりと言われているだけで、魔女の生まれ変わりである証拠はないと・・・。
でも、魔女の生まれ変わりでない証拠もないのだ。
だから、魔女であった時に辛くならないように、心に留めておかないとならない。
私は特別、この世界が嫌いなわけではない。
あえて嫌な事と言えば、『魔女の生まれ変わり』と、言われている事。
何度も・・・何回も・・・幾度も言われ続けていた。
『ティアーナ』=『魔女の生まれ変わり』
それが、定番の様に・・・。
でも、それなりの回避方法も知っている。
『フランネル国王女』で、無くなる事。
私が『ティアーナ』で無くなる事。
そう、一般庶民として生きる事。
ティア―ナで無くなれば、魔女の生まれ変わりと言われなくても済む。
魔女の生まれ変わりと言われているストレスがなくなる。
その辛さから解放され、もしかしたら魔女にならずに人生を過ごせる世の中にとってもよろしい事になる。
いい事じゃない!
そう、私には『庶民ライフ』が、一番なのよ!
『オリスト界便利辞典』で”洗濯機”という、洋服を洗う道具があるとかかれていた。
樽の中の水が、右回転、左回転と交互に回る水の中に、洋服を入れると汚れが落ちるという道具。
今のご時世は、川で一枚一枚手作業で人が洗っているのだ。
時間がかかっているため、ほとんどの一般庶民は洗濯屋さんに頼んでいる。
実は私・・・風車小屋を改造して、洗濯機のような物を造ってしまったのよね。
だから、ティアーナを捨て庶民になった時は、洗濯屋さんとして生きる道があるのよ。
少人数で大量に洗濯が出来るから丸儲。
大量だから、乾燥に場所に困難か生じる懸念があるが、乾燥なんて、精霊術とか魔術で何とか出来るし・・・。
もう、私には洗濯屋さんしかない。
そう自負している。
えっと・・・話がそれた感じがしたが・・・。
まあ、いいか。
それよりも、私が魔女の生まれ変わりと言われているにも関わらず、私に使える理由をきいてみないと・・・。
「私は、ゼファー聖王国のメルトン村の出身です。」
メルトン村・・・どこかで聞いたことがあるわね。
なんだっけ・・?
「スライバー鉱石の採掘が盛んな村です。」
あらあら・・・。
「ナターシャ。お茶をお願いしてもよろしいかしら?」
真剣な眼差しでナターシャに言うと、わかりましたとナターシャは部屋を出て行く。
スライバー鉱石とは、照明石と言われ照明器具の重要な明かりとなる部分。
魔術を少し送り込むだけで、明かりがついたり消えたりする、生活に密着した重要な鉱石。
だけど、スライバー鉱石は、採取時と加工時にでる粉の粒子を体内で大量に蓄積してしまうと、魔術の効きが悪くなるという恐ろしい病気になってしまうのだ。
スライバー症と言われる病気。
スライバー症の人が怪我をした時など、それなりの魔術士が対応しないと怪我を治すことが出来ない。
その病気を治すには、特級レベルの魔術士でないと治らない厄介な病気なのだ。
そんな中で、エステルの花茶には、病気の防止する特殊な効果があるのだが、相当な高価な品になっている。
近年、ウェリーネ国で大量に生産される事になって多少安くなったものの、それでも庶民には手が届きにくい。
国の呼びかけで、スライバー鉱石を扱う者たちに、国がエステルの花茶を与える支援をしているにも関わらず、スライバー症の人は減る事はない。
その理由を調べてみるととんでもない理由が隠されていたのだが・・・。
「お茶をお持ちしました。」
ナターシャがカートでお茶を持ってきた。
耐熱性のガラスのカップの中には花茶が浮かび、お茶にキレイに色どりを見せていた。
「!?」
オルガが驚いた顔を見せている。
「どうぞ、飲んで頂戴。」
私は、オルガの前にお茶が行き届いた時に伝える。
オリガは、ショックな顔を隠し切れないでいた。
「ティアーナ様が言っているのよ。飲みなさい。」
と、コレットがオリガを促す。
”カチャッ ガクガクガク”
オルガのカップを持つ手が震えている。
”ゴクリッ”
飲み込みの音がこちらまで響くような感じだった。
”ツーー”
と、オルガの目に涙が零れる
「ひ・・」
「泣くほど美味しいのね。ナターシャ開いていないお茶はどれぐらいあるかしら?」
私は、オルガの言葉をかき消し、ナターシャに聞く。
すぐに5箱あると答えてくれた。
「全てさしあげて、こんなに美味しく飲んでもらえる人のところに渡った方が生産者も喜ぶでしょう。」
ナターシャが『そうですね。』と、ワザとのように言う。
そう、オルガが飲んだお茶こそエステルの花茶。
王侯貴族が好んで飲んでいるお茶なのだ。
色どりといい、お茶としての味もおいしく。
王侯貴族の嗜みにまでなっている花茶。
・・・・・守るべき庶民を守らずに、王侯貴族の嗜みにまでなったエステルの花茶。
これが、庶民に行き渡れない理由なのだ。
「あ・・ありがとうございます。」
オリガが涙を流し喜んでいた。
私の心は複雑だった。
この程度の事しか出ない事を嘆く心でいっぱいだから・・・。