息を感じない。
「・・・・なっ」
言葉が出なかった。
出し切れない程のショックな光景が広がっている。
これが、この世界の中心と言えるゼファー聖王国の町なのか?
ここに来る際の道でも驚いていたと言うのに・・・。
スワイベルの町へと続く道の途中で、土砂崩れにより道が塞がれていた形跡があった。
それも、つい最近道が開通したような一部が湿った感じの道。
それにも、驚かされたと言うのに、この町は・・・・。
息を感じない。
道の端に寄りかかっている死体、死体・・死体。
生きている人はどこにいるのだ?
どこだ?
どこにいる?
どこなんだ?
いないのか?
辺りを見回し・・・見つからず。
町を歩き・・・探すも・・・死体が転がってるだけ。
”コホッコホッ”
今のは咳か?
俺は、カミーユとケネスの方を振り向く。
二人は、自分が咳をしていない事を動作で示す。
近くに生きている者がいるのか?
俺は、命を探しだす。
これは死体。
あれは死体。
これも死体。
あれも死体。
・・・いったいどこにいる?
私は小さな子供の手を掴む。
”トクンッ”
反応がある!
”ほわ~”
と、魔術を子供に流し込む。
みるみる子供の顔色が良くなっていった。
「よかった・・・。」
”ジーーー”
子供が目をあける。
・・・・え?
子供はただ目を開けただけで、俺らの顔に視線を合わせる事はなかった。
・・・・目が、死んでいる。
こんな中では・・・目が死んでいるのは当たり前だ。
だが・・・。
俺は、再び生きている人を死体の中から探し出す。
そして、魔術を送り込む。
その繰り返しを何度も、何度もし続ける。
まだいる・・・まだ、生きている者がいるはずだ。
この町を・・本当に死なしてはならない。
希望を・・・まだ希望はあるはずだ。
これでは、効率が悪いな・・・。
”ブワファーーー”
と、町の真ん中に差し掛かったころ、町全体に魔術を施し、生きている人間に魔術を送り込み。生命力を維持させた。
だが、どうしてなんだろう。
体の不調を良くしたと言うのに、誰も動こうとはしない。
ただ、死ぬのを待っているような雰囲気。
もう、死んでいるような・・・そんな感じ。
動こうとしないのは何故だ?
きっとお腹が空いているはずだ。
食べるものを・・・ない。
この町には何もない。
食べ物を施さないと・・・。
このままずっと・・・・。
いや、ダメだ。
生きている者が、生きようとしなければ・・・。
どうすれば?
・・・思いつかない。
ティアーナはこの光景を見て、すぐに行動を起こすと、サミュエルという男が言っていたな。
この状況下でも言える事なのか?
・・・教えてくれ。
・・・・・これが、試されているという事なのか?
もし、そうならなんて残酷なんだ。
「違う。」
もし、残酷というなら・・・それは俺自身だ。
このことが、この地方を任せている者の目にも触れなければ、書類にも上がらず。
誰の目にも留まらず・・・消え去られていた。
それを当たり前のように・・・見過ごす。
なんて、恐ろしい事なんだ。
残酷なのは・・・俺自身。
「俺って・・・なんて最悪なんだ。」
肩に手が置かれた。
「スチュアート、このままこの光景を見ていても、この光景に流されるだけだ。一端離れよう。」
カミーユが、そのように言い。
町の教会の転送魔術の陣を使い、ナターシャと言っていた者のところへと戻った。
「・・・お待ちしておりました。」
ナターシャは、転送魔術の陣の前で、俺らを待っていたかのように立っていた。
俺らは、再びリビングに行く。
椅子に座り今後の話をしなければならないのに、どっと疲れが出たかのように、動けない。
俺らの前にお茶が置かれるも、お茶に手が伸びずにお茶を見つめるだけだった。
”コトッ”
と、テーブルの中央にお菓子のシャリーの入った皿が置かれる。
”ドンッ”
先ほどシャリーの入った皿を置く時と違い、叩きつけるようにシャリーに付けるようにとジャムの入った瓶が置かれる。
”クルッ”
ジャムの瓶を少し回転させると。
「どうぞ。」
と、男性が俺を見ながら言う。
「君は・・・。」
「ドナルド・スグリです。」
丁寧にお辞儀をしてくれた。
シャリーを食べる気などないのだが、一応お礼を伝える。
ジャムはシェニールの果実のジャムだった。
赤い実の・・・。
「・・っ?!」
俺は、ドナルドを見る。
「このジャムは・・・。」
「フランネル国のキャンブリック産のシェニールのジャムです。」
ジャムのラベルには『キャンブリックの涙』と、商品名が書かれていた。
・・・キャンブリック。
サミュエルと言う者がキャンブリックの悲劇と言っていた。
「すぐにその場所に行きたい!」
誰かキャンブリックに行った者はいるか尋ねる。
転送魔術を使うにも、一度その場所付近まで行ったことがなければ、術を張るどうすることが出来ない。
・・・時間はかかるが、上空を飛んで行くかだ。
「・・・・・お連れしましょう。」
ドナルドという男は、考え込んでから答えをだす。
答えを出した後、ドナルドはナターシャを見て、目で合図をする。
ナターシャはその合図を受け取り、コクッと覚悟する目で頷く。
「こちらです。」
ドナルドが地下の魔術陣へ案内をしてくれる。
「ドナルド。キャンブリックの悲劇とはなんだ?」
俺は、階段を降りているドナルドに聞く。
『行けばわかる』と、答えになっていないような事を言われてしまった。
「キャンブリックの町をどう見るか・・どう感じるかは、人それぞれかもしれません。」
地下3階の転送魔術の陣の部屋まで来た。
そして、転送魔術が発動された。
森の中の街道へと降り立つ。
微かに町が見えた。
町の中の道には、子供たちが走っている姿が見える。
「あれが、キャンブリックの町なのか?」
ドナルドは俺の質問に『はい』と、答えてくれた。
「あの町は、アスター家にとっての悲劇の場所です。そして・・その悲劇を一身に受けているのは、間違えなくティアーナ様です。」
ティアーナに何が起きたと言うのだ?
俺とカミーユ、ケネスは、ドナルドと別れてキャンブリックの町へと入って行った。
お菓子のシャリー・・・味付けされていないラスク。
シェニールの果実・・・サクランボの実の部分がイチゴの果物。味はイチゴ。




