幻の花と、幻であって欲しいお方
「クスクスッ」
と、微かに笑い声が隣から聞こえてくる。
カミーユ様の笑い声だった。
「どうして笑うのですか?」
会場へ向かう廊下で歩きながら聞く。
「それはね・・・そのティアラが本当のあるとは思わなかったからね。」
「知っているのですか?」
もちろんと満面の笑みをこちらに向けて言って来た。
「アジュガ王朝の伝統だろう。」
「・・・わざと、探しましたね。」
こちらも、もちろんと目を輝かせて伝えて来る。
「アジュガ王朝の女性が、初めて公式の場に登場する際に身に着ける伝統のティアラだろう。」
そう、このティアラはアジュガ王朝にとって大事な家宝のティアラ。
約1000年前、『ローザ』という当時教師をしていた一般女性が、王太子に見初められ妃として、王宮入りした際。たくさんの国民がお金を出しあい王太子妃になるローザにプレゼントをした物。
それが、今私が身に着けているティアラなのだ。
『希望の願い』と言われているこのティアラは、成人になったウェリーネ王女が、初めての公式の場で身に着ける大事なティアラで、叔父様に渡された時は驚きましたとも。
しっかり、そのティアラにセットのように、イヤリングもネックレスも用意されていて、突っ返すことなど無理でした。
奥の奥にしまい込みなかったことにしようと思っていたのに・・・。
これですか・・・。
ドレスが破れたのが、ワザとの様に思えてきます。
「いろんな優しい想いがそのティアラにはある。きっと、君が思っている以上に君の力になってくれる人はいるはずだ。」
魔女の生まれ変わりと言われて、迫害を受け続けている私に、元気づけさせようと言ってくれている事だとわかっているのに、その優しく響く声に、嬉しさを感じていた。
そして・・・とうとう会場の前に着いてしまった。
「サラサ国王カミーユ・ビスカリア=サラサ陛下、並びにフランネル国第二王女ティアーナ・クルクマ=フランネル王女殿下。」
と、大きな声で会場入りすることを伝える声が響く。
それと同時に会場が一気に鎮まる。
魔女の生まれ変わりが来たことで、怖い物見たさからだろう。
人だかりが端によけ道が出来る。
それは想定していたが・・・なんだろう。
避けていく人の数人が深々と頭を下げている。
どうして?
そのように思いながらカミーユ様に連れられ会場の中を進んでいく。
会場の半分より少し玉座に近い場所に差しかかった時。
想定していたことが起きた。
「魔女が来る場所ではないわ!!」
うん、私も思います。
ですから、後宮から出て行きなさいを是非聖王の口から言って欲しい。
だが、その声はかからない。
「最近、伯爵となって、やっとこの会場に入る事を許されたタンジー伯ではありませんか。」
カミーユ様から、先ほどとは全く違う、冷めた口調の声で言う。
内容も冷たく嫌みっぽい内容。
この人と何かあったのでしょうか?
「新参者の私でも、カミーユ様が連れているその者は聖王には危険です。」
会場の中から小さいながら確実に数十人同意をする声がする。
「ティアーナ姫の人となりを見て、安全と感じ私がお連れしたというのに、反感するのですか?」
「反感も何も、彼女は危険です。わかっていないのはカミーユ様です!」
私・・・魔女の生まれ変わりだからね。
でも、こうも堂々と言われると辛いモノがあるわね。
聖王のいらっしゃるここでは当然の仕打ちであっても・・・。
「そもそも、ティアーナ姫が魔女の生まれ変わりですの?そこから疑うべきではありませんかしら?」
と、金髪碧眼の可愛らしい女性が私の前に来た。
「クララ王女」
と、カミーユ様が彼女の事を言う。
エストラーラ国の王女クララ・サポナリア=エストラーラ。
聖王スチュアートとはいとこ同士。
でも、何故クララ姫が私の味方するのでしょうか?
聖王側の人間では?
「ここは、どうでしょうか・・・ティアーナ姫に精霊術を披露して貰っては?」
魔女ソフィスは、セカテロス界で大量の精霊と妖精を虐殺したと言われている。
だから、私は幼少期から、みっちり精霊術を叩きこまれていたのよね。
でも・・・・8つ目の棟の精霊術を施した際の失敗。
実際は失敗はしていないが・・・あのような事が起これば、魔女決定になりかねないな。
「それはいい。」
私の隣で、勝手に同意しないでくださいませんか、カミーユ様?
カミーユ様は私の手を取り、前へと出す。
・・・・やるしかない。
ここで、魔女と分かったら、牢屋に放り込まれる。
・・・で、終わるのだろうか。
殺されるね。
まあ・・・彼がきっと、聖王に世界を直接見ることを指導してくれることを信じて・・・やりましょう。
私は、歌をうたい。クルクルと踊りだす。
すると、通常なら珍しいのだが、精霊光が集まって来た。
周りが静かになる。
私の歌と踊りを呆然と見ているように伺えた。
私は、その中で最後に手を高く上げる。
すると、精霊光が上空へと飛んで行く。
”ドーーーンッ キラキラキラッ”
と、上空で花火が上がった。
”ドーンッ バリバリバリッ ドドンッ キラキラッ”
花火が後からどんどん夜空を彩っていた。
・・・成功でいいかな?
私は、一発の花火で良かったんだけど・・・・。
まだ、輝いています。
いつ止むかな~?
その事・・・質問しないでくださいね。
私・・・お答え・・・言えませんから?
「これは素晴らしい。」
玉座から聞いたことのある声がした。
「スチュアート・ローレル=フェニックス・ゼファーは、ティアーナ・クルクマ=フランネルを心より歓迎する。」
金色と緑色のオッドアイの瞳が玉座から私を見ていた。
その顔は笑顔だが、私の呆気にとられる顔を面白がるように微笑んでも見えた。
ローレル歴505年
ゼファー聖王国のゼファラン聖宮殿玉座の間で、彼が聖王だと初めて知り、一時間前の出来事が幻であって欲しいと思うのであった。
東屋であった彼が、聖王スチュアート・ローレル=フェニックス・ゼファー。
・・・その人だった。




