アイリス、入学します
わたくしはルメール伯爵が長女アイリスと申します。
父は隣国との国境線沿いにある領地をおさめています。
わたくしが小さな頃に隣国からの不当な攻撃に遭ってしまい甚大な被害が出てしまいました。
お母様の胸で泣いていたのを思い出します。
攻撃に遭って隣国の王家から直々に謝罪があり復興も手伝っていただけた事から、我が家は持ち直しました。
その時はまだ小さかったので記憶は怖かったと言うことだけです。
わたくしは十三歳になりました、王都の邸から学園に通う事となります。
わたくしには兄がいて二つ上の学年です。
また兄と一緒に暮らせるのがとても嬉しいのです!
「ジュードお兄様! お久しぶりです」
「アイリス!」
久しぶりの再会でギュッとハグをする
「アイリス相変わらず可愛いね」
「お兄様も素敵ですっ」
微笑み合う二人は一時的に辛い生活であった為、兄妹で支え合い、とても仲が良い。
「アイリス、あのな、父上から聞いていると思うんだけど、」
「はい! 王子殿下には近づきません!」
「分かっているのか…それは良かった」
「不敬罪で捕まっちゃうの?」
「……何のことだ?」
アイリスの両肩に手を置き不思議そうな顔をする。
「えっ? わたくしを探しているんでしょ?」
「たぶん、アイリスだと思う」
「幼かったとは言え、なにか失礼があってわたくしを探しているんでしょう? 今更謝っても許して貰えないかもしれないもの」
「そうなのか?」
「王子殿下とは知らずにお花の冠を作らせてそれを奪ったんですもの……怒ってらっしゃるのよ」
「よくわからないけど、そう言うことにしておこう」
「恐ろしいです。どうしましょう」
「王子はな、派手な女の子が嫌いなんだ! 嫌いなタイプの女の子には近寄らない筈……アイリス、化粧だ! 化粧をしろ!」
「えっ? した事がありませんっ。お化粧道具など持っていませんもの」
ジュードは侍女に急ぎ化粧道具を揃えさせる。
「あとは香水か? 王子はな香水の香りが好きではないんだ! これで近付けないだろっ!」
シュッシュっとアイリスに香水を振りかける。
「お兄様、気持ち悪い……」
うっと口を押さえて顔を青褪めるアイリス
「我慢しろ!」
「むりです……香水は体に合いません……」
侍女に湯あみの準備を頼み、香水の臭いから解放された。
「とりあえず、明日からは私と登下校、化粧をする事いいな?」
「はいっ! がんばりますっ」
明日に向けて早めに寝ることにした。
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入学式がありました。
学園に行くとみんなが髪の毛をくるくるとウェーブに巻いて、うっすらと笑みを浮かべております。
……おぉ、これが王都の流行なのか!
淑女は如何なる時でも笑みをと言う事かしら? 田舎とは違うわね。
一方アイリスは金髪のストレートヘアーに赤いリップを塗っていた。
幼い頃は天然ウェーブがかかっていたが、成長していくうちにサラサラのストレートヘアーになった。
…まぁ、ふふふっ、あの子知らないのね? 王子殿下の好みを!
…あら、お化粧をされていますわ! あの子は選ばれないわね
こそこそと陰で言われているのをアイリスは知らない。
新入生が入場する。
相変わらず似たり寄ったりの令嬢ばかりで、白けてしまう。
入場をする令嬢の中に一人毛色の違う子がいる。
金髪・グレイの瞳……あの子だ!!
面影がある!
心臓がばくばくと脈を打ちうるさいほどだ……
女の子に目が離せないでいると、
「おい、エヴァンどうした?目が血走っているぞ? 好みの子がいたのか」
まるで揶揄うようにエヴァンに言うと
「……あの子だ、あの子なんだよっ! 絶対にそうだ、間違いない!」
「あの金髪の子か?」
「あぁ……」
「分かった! 調べてくる」
「たのむ!」
そう言ってレイはこっそりと会場から抜け出した。
間も無くしてレイが戻ってきた。
「調べてきたぞ、名前はアイリス・ルメール、隣国との境にある伯爵家の長女だな」
「アイリス・ルメール? ルメール伯爵の娘か……」
「どうする?」
「話をしたい」
「分かった、なんとかしよう」
確かルメール伯爵の長男が学園にいたな……
そっちから攻めてみるか。
「ジュード殿、少し話をしたいんだが」
レイが、ジュードに声をかける
「レイ殿か、どうされた?」
表面上は穏やかそうだが内心はお互いに何を思っているか分からないと言う雰囲気だった。
「ジュード殿の妹君について少しお聞きしたいんだ」
「妹の事ですか? 入学式を終えたばかりだが、何か妹が失礼をしましたか?」
「いや、そうではなく……話を変えましょう、ルメール伯爵は最近王都では見かけませんがお元気ですか?」
「父ですか? あぁ、領地に篭っておりますからねぇ……最後に王都に来たのは……いつだったか」
「昔はジュード殿も王宮でよく見かけていたので、妹君も王宮へ来ていたのかと思いまして」
にこりと笑うレイ
「そう言う事でしたか……私も幼かったもので、妹と王宮へ行ったと言う記憶がありませんねぇ」
「妹君の見事な金の髪は一度見たら忘れられないほど美しいですね」
「あぁ、母に似ています」
にこやかに話し合いをする二人
「それでは、私は失礼していいですか?妹を待たせているんでね」
「それは足止めをして申し訳ない、それではまた」