花の冠
「エヴァン様の宝物って何ですか?」
聞いた事がなかった。何かを大切に持っているのは知っている。
「アイリスだよ。決まってるじゃないか」
アイリスの頬にキスをするエヴァン。側近達は通常通り仕事をする。
レイはいつ声をかけられてもいい様に、なんとなく聞きながら書類に目を通す。執事はお茶の準備を始めた。
「まぁ! それなら思い出の……物は?」
「なんだい、急に。アイリスとの記憶は全て宝物だと思っているよ。初めて会った時の可愛いアイリスの姿は、口頭で伝えて絵師に描かせるほど思い出に残っているよ。可愛かったな……今ももちろん変わらず可愛いけれど……物か?」
絵師を気の毒に思うレイ。見たこともないのに口頭で伝えられ描かされたのか……しかし手元に残っていると言うことは、その絵師は合格だったんだな。
「初めてエヴァン様に会った時にお花の冠を、」
「もちろん覚えているし、もちろん今でも持っているよ。はぁ……あのまま美しい状態で残せておけば良かったんだが枯れてしまった」
「まぁ。美しいだなんて……下手くそだとおっしゃったのに?」
あぁ……始まった。面倒だな。レイは思った。
「あれは……アイリスが可愛くてつい意地悪をしてしまったんだ。子供だったんだよ」
申し訳なさそうにアイリスの手を取る。
「リュカに意地悪するのも可愛いからなのですね?」
自分の子に意地悪するなんて何を考えているんだろうか……アイリス王太子妃絡みなのは間違いないな。とレイは思った。
「いや。あれは本気だ。アイリスは私のものだからそれは譲れないんだよ」
ちゅっちゅっ。とアイリスの手にキスをするエヴァン。
二人きりの時にしてくれ! もう執務は良いから出ていってほしい。その方が私の(皆の)為だ。
「王妃様に花の冠をエヴァン様がまだ持っていると聞いて嬉しかったのです」
エヴァンの瞳を見つめながらアイリスが言うとエヴァンは嬉しそうに笑う。
「ふふっ。当たり前だよ。また作って私にくれるのか?」
「エヴァンにはお花の冠より本物の冠の方が似合いそうですよ」
アイリスはただ幼い時の様に似合いそうと言っただけだった。
「そうか……それなら王位を継がなきゃいけないと言うことか」
「? どう言うこと?」
「父上も元気だしリュカも生まれたから、父上にまだまだ頑張って貰って、私を抜かしてリュカに王位を譲ろうと思っていたんだ。アイリスとのんびり暮らしたいと思って」
「そ、そうなの? でももしリュカの身に何かあったら、」
「アイリスを悲しませる結果にはならないと思う。護衛も付けているし、影も見張っている。しかし病には勝てないかもしれないな。毒には慣れさせるとしても……そうか。リュカには兄弟が必要だね」
「いつかは……」
頬をピンクに染めるアイリス。アイリスはまだ二十歳で子がいる様には見えない。
「レイ、今日の執務を終えても問題はないか?」
一応レイ達がいる事は分かっている様だ。
「全くない! 早く出ていってくれ。後は任せろ」
「そうか、頼んだぞ。アイリス、今からデートに行こう」
「今からですか?」
「あぁ。これからまた外出は出来なくなるかもしれない」
既に外出は禁止されていて城の外に出ていないアイリス。よく分からないが、デートという言葉は魅力的なので、着替えることにした。
アイリスは帽子を深く被り顔を見られない様にした。手を繋ぎ貴族の若夫婦のお忍びデート風だ。
「アイリス、まずはカフェに行こうか。新しいカフェが出来たんだよ」
数年ぶりの街歩きでキョロキョロするアイリス。美味しそうなお店が何軒もあるわね。
「はいっ! 楽しみです」
母乳はやめてくれ。と泣きながらエヴァンに言われ、乳母に頼むことになった。
アイリスはリュカに申し訳なかったのだが、王族というのはそういうものだと医師にも言われた。
その代わりリュカとなるべく一緒にいようと思った。医師からは、長い間よく我慢しましたね。とスイーツが解禁となったばかりだった。
「この店だな。入ろうか」
エヴァンとアイリスが店に入ると奥の席に通された。
「好きなものを注文すると良い。今までよく我慢したね」
「リュカの為ですもの。それくらいは……」
「リュカを無事産んでくれてありがとう。感謝しているよ」
そっとアイリスの手の上に自分の手を重ねる。
「ここはプリンやシフォンケーキが評判なんだ。新鮮な卵が使われている」
「まぁ。美味しそうですわ。エヴァン様調べてくださったの?」
「新店が出来るといつかアイリスを連れてきたいと思っていた。中々連れて来れなくて悪かったね」
連れてくる気はあったらしい。二年の間で随分と王都の街も変わった様な気がします。




