アイリスは悲しむ
「なんで止めなかったのですか……」
「え? 令嬢達をかい?」
「可哀想ではないですか」
「? ……ケント侯爵令嬢が?」
エヴァンは嫌そうな顔をする。可哀想ではない。ケーキを投げつけ、それに応戦する令嬢達の醜い姿……吐き気がする。
「ケーキが……マカロンが可哀想。せっかくシェフが美味しく食べられる様にと作ってくれたのに……食べたくても食べられない人がたくさんいるのに」
しくしくと涙するアイリスの目元をハンカチで優しく拭うエヴァン。
「あぁ……私はなんという事をしたんだ! あの時は愚かだった。まさか十数年後にアイリスをこんなに悲しませる事になるなんて。できる事なら過去に戻って、やり直したいくらいだよ」
過去に戻るなら出会の時からやり直せ。いや傲慢だった陛下の態度を……おっとこれは不敬だ。心の中で突っ込み汗をかくレイ。
「ごめん。アイリス私が悪かった。これからは決して食べものを粗末にしないとアイリスと産まれてくるこの子に誓う」
エヴァンはレイを見た。それを見て察するレイ。
「アイリス王太子妃、申し訳ない。思えば私も傍観者だった。これからは食べ物を粗末に扱うものを見たら、罰する事にしよう。二度と繰り返すことはしない」
面倒な事になりそうだ……レイは思った。
「レイ、孤児院に食べ物は行き渡っているか調べてくれ。国の将来を担う子供達が食べ物に困るなどない様にしなくてはならない。お腹の子の為にも早期解決したい! 将来お腹の子が大きくなった時に国を支えてくれる子供達だ」
悪いことではないがやることは山積している。レイだけでは無理な話だった。調査機関を利用する事にしよう。
「エヴァン様。それほどまでにこの子のことを考えてくれるですね。嬉しいですわ」
「アイリスが将来憂うことのない様に今のうちに解決をしておこう。許してくれるかい?」
こくん。と頷くアイリス。
その後の仕事は早かった。結果は孤児院にはきちんと金は行き渡っていた。しかし数箇所の孤児院で職員が私服を肥やしているという事が発覚。国の金に手を出した事により、牢へと入れられた。監査が入り正しく運営できる様にと王太子命令が出され、エヴァンも直接現地へ向かった。
「アイリス、孤児院へ行ってきたよ。孤児院では野菜などを作っていて自給自足をしているところもあった。職員が文字を教えていたり子供達も笑顔だったよ」
「この子が産まれたらわたくしも視察に行きますわね」
それならと……エヴァンは時間があれば王都の孤児院へ向かっている。子供達が食糧に困らない様に、野菜の苗も孤児院へ寄付している。
王太子妃が、子供達の食料問題に関心を寄せている。と聞いた貴族達はこぞって孤児院に寄付をするようになった。すると孤児院は食糧だけではなく子供達の将来の為に、教育に力を入れる様になった。
******
「これでアイリスも安心して出産する事が出来る。レイご苦労だった」
「……憂いが解消したならそれで良いさ」
アイリスが悲しむから。となるとエヴァンは仕事が早い。良い事なんだけどな。今回の件でも感謝の声が聞こえるし、王太子夫妻の人気は高い。
「アイリスは出産を控えていてナーバスになっているんだ。アイリスが少しでも安心して過ごせる様に努力するのは当たり前だよな」
夫婦が円満でいてくれないと困る。ケンカに巻き込まれたくない! この二人の喧嘩は本当に面倒なんだ。基本的に痴話喧嘩なんだけどな……
「エヴァンは結婚してアイリス王太子妃としばらく二人で仲良く過ごすと思っていたのだが、子を作るのが早くて驚いた」
しばらくは二人で、いちゃいちゃいちゃいちゃ……しながら数年後に子を作ると思っていた。二人の時間が減るだろう?
「あぁ。結婚したら子供はまだかと周りから言われるだろう?」
「そりゃ言われるだろうな。期待されているだろうからプレッシャーだよな」
「アイリスがそんな事を言われたら気に病むだろう? こっちは敢えて作らないとしても周りは知らないんだぞ」
「二人でいちゃいちゃしたいから子供はまだ良いです。と言える立場ではないな」
「早く作っておけば、誰からも何も言われない。アイリスは子を産んでさらに地位が安泰する」
「そうだな」
「後一人くらいは作らなきゃならんだろうが、その後は早く親離れしてもらってアイリスと二人で仲良くのんびりする予定だ」
「お前いつか国王になるよな?」
「父上も元気だし、まだまだ頑張ってもらって子が育ったら、私を飛ばして王位を譲るっていう手もあるよな。もちろん執務は手伝うとして」
「それは如何なものかと……」
「まぁ、それもあるって事だ。産まれたら考えるとするか」
冗談なのか本気なのかさっぱりわからない。アイリス王太子妃の事しか考えてない男が子を育てられるのだろうか……
「二人目はいつにするかな。早く産んだ方がアイリスの体力的にもその方がいいか……」
産まれてもないのにもう二人目の話かよ。
「家族計画って大事だと思わないか?」
「私に聞くな……」
放っておこう。
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