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バラのジャムは誰のもの?


「まぁ! エヴァン。仕事が早いんだから! さすがわたくしの自慢の息子だわ」



 この国の王妃でエヴァンの母親が息子を抱きしめようと近寄ってくるも……



「やめて下さい! 私は幼児ではありませんよ。母上に抱きしめられるくらいならアイリスに抱きしめられたいです!」


 はぁっ。とため息を吐き、やれやれ……と言った顔する王妃。



「……せっかく褒めてあげたのに」



「そもそもですよ? 母上のためにバラジャムの職人を連れて来たわけではありませんからね。そこだけは勘違いなさらないで下さい!」


 晩餐が始まった。陛下と王妃、弟の四人で晩餐を取る。皆が忙しくしていても、時間が合えば晩餐を共にする。



 アイリスは祖母の具合が悪いと本日は実家に泊まるようで、エヴァンは機嫌が悪い。もちろん祖母の体調を気にするアイリスは悪くないのだが、今日一日アイリスの顔を見られないと言うだけでイライラしていた。



「エヴァン、そんな言い方をすると王妃が可哀想であろう?」


 この国の国王でありエヴァンの父が言った。



「何度も言いますがアイリスの為なんですよ。ただ王宮のバラを使っているので、王家の紋章を入れているだけです。本当はアイリスの名前を入れたかったのに、アイリスが遠慮するからです!」


 はぁっ。とため息を吐く国王陛下。



「アイリスちゃんが出しているお菓子もたまにはこちらに分けてくれても良いのに!」



 バラジャムに付けて食べるのに最適なスコーンを職人が作り上げた。


 アイリスが喜ぶ姿を見て職人は、次々と新作を生み出す。アイリスが開くお茶会は好評なようだ。


 アイリスの学生時代からの友人であるジャスミンがお茶会の噂を広めてくれるので、王太子妃のお茶会に呼ばれると言うことは一種のステータスであった。



「ジャムを渡しているでしょう? まだ不満があるのですか?」



 バラジャムは王家のバラを使用している為、エヴァンが独占するわけにもいかなく、バラジャムを作ると王妃にも分けていた。



「たまにはわたくしの為にもお菓子を作って欲しいって言うだけなのに、シェフに会わせてもくれないんだから!」



「シェフは人見知りなんです! 大勢の人間に会わなくても良い! という理由で連れて来たんです! シェフとは専属契約ですから、そういうことを言われても困りますよ!」


「誰に似たのかケチなんだから!」



******




「王妃様、お呼びとの事ですが?」


 翌る日アイリスは王妃に呼び出されていた。アイリスがくるや否や立ち上がり言った。


「合同でお茶会をしましょう!」


 王妃様と合同で? お茶会を?


「え? 合同ですか? それは光栄な事ですが、」



「アイリスちゃんがエヴァンと結婚してくれて娘になってくれて、やっと長年の夢が叶うのよ! 娘とお茶会に参加する夫人達が羨ましくて……エヴァンはアイリスちゃんを独り占めして全然時間をくれないんだもの! アイリスちゃんとお茶をしてもいっつもエヴァンが邪魔しにくるでしょう? あら、嫌だ噂をしたらもうっ!」



 バタンと扉が開かれた。王妃の自室をノックなしで入ってくるのは限られた人間のみ。




「エヴァン! マナーがなっていません! ノックなしに扉を開けるなんて、どういう教育を受けて来たのですか!」


 エヴァンを叱りつける王妃だが……




「アイリスに何の話ですか? 話なら私のいる時にして下さい! アイリス面倒な話しなら断っていい!」


 アイリスの元により両肩に手を置きまるでアイリスを揺さぶるように言った。



「め、面倒なんてとんでもありません。王妃様と合同でお茶会をする事になったんですのよ。大変光栄な事ですわ」


 揺さぶられて躊躇しながらも答えるアイリス。


「面倒じゃないかっ! 母上の仲良くしている貴族のおばさん達にいじめられやしないか心配だ……」


 そしてギュッとアイリスを抱きしめた。



「失礼な子ね! たまに若い令嬢たちと交流を持ちたいのよ! それに母娘でお茶会なんて素敵じゃないの! 息子なんかとお茶をしてもひとつも楽しくないものっ! 何を聞いても素っ気ない答えしか返してこないんだから! わたくしもたまには楽しみたいのよ! アイリスちゃんが良いと言っているのですからエヴァンは口出し禁止です!」


 はーはーと肩で息をする王妃様を見て、申し訳ない気持ちになる……



「エヴァン様、心配をしてくださるのは嬉しいのですけれど、王妃様もそう言っていますし、お許し下さいね」


 ぽんぽんとエヴァンの腕を軽く叩く。


「その茶会は女性だけですよね?」


 エヴァンが王妃を見る。


「えぇ。男性が来るとうるさそうだもの。特に、あ・な・た・が!」


 威圧感たっぷりの言い方。



「約束して下さいね? もし約束を破ったのなら母上のことを信用できなくなりますからね。敵として認定します」


 はぁ。っとため息をつく王妃とアイリス。約束をして渋々執務室へと向かうエヴァン。



「困った子だわ……ただわたくしはねあの子がアイリスちゃんの為に呼び寄せたシェフの作ったバラジャムが好きなのよ。王家の紋章入りのジャムと言ってもアイリスちゃんの許可なしに勝手に使うのはのは憚れるのだけど、合同でお茶会をしてわたくしのお友達にも振る舞って披露して欲しいの。うちのシェフが作る焼き菓子も美味しいのよ、セットにしてゲストにお渡ししましょう」



 王妃様はとても楽しそうだった。







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