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スイーツ大好き


「アイリスは、なんでそんなにスイーツに目がないんだ? 一度聞こうと思っていたんだ」


 エヴァンとのお茶会で聞かれた。



「……それは、恥ずかしい話なんですけれど幼い頃は食いしん坊で、キッチンに入り浸るほどでした」



「幼いアイリスがキッチンに! それは想像しただけで平和な光景だね」



 にこにこと機嫌が良さそうなエヴァンを見て、アイリスは話を続ける。



「シェフがクッキーやケーキを焼いている姿を見るのが大好きで、シェフが魔法使いに思える程でした」



「魔法使いとは! それだけアイリスを夢中にさせるなんてそのシェフが羨ましいよ」



 悔しそうな顔をしながらエヴァンが言った。


「まだ幼かったのですが、あの頃は毎日のようにお茶会の真似事をしていました」



 うんうん。と頷くエヴァン。


「可愛いかったんだろうねぇ。私と出会う前のアイリスも」



「その頃、両親は王都と領地の行き来で忙しかったのでお兄様がわたくしの面倒を見てくださっていました。両親としばらく会えなくてもお兄様が一緒に遊んでくださったので寂しくはありませんでした」



「そうか、あの頃は伯爵も王都に来ていたんだったか……」



 あれ? これは話の流れとしておかしな方向に来ているのではないか……とエヴァンは思った。



「それからしばらくして、陛下の誕生日に領地が襲撃を受けました」



 辛そうな顔をするアイリスに心臓が抉られるような気持ちになる。



「あ、エヴァン様! 気になさらないでください! お父様も過去の話だと言っています!」



「すまない。何度謝っても謝りきれない」


 頭を下げるエヴァンを優しく気遣うアイリス


「同じことを繰り返さないと言う約束をしてくださり、新しく慰霊碑も建ててくださいました。祈りを捧げに毎年エヴァン様が来てくださるので、領民も喜んでいるんですよ。お礼を申し上げますわ」



「……アイリス、ありがとう」



 ふるふると頭を振り、答えるアイリス。


「話の続きを聞かせてくれるかい?」



「えぇ。襲撃を受けた後は屋敷は無事でしたが、領地が復興するまで贅沢は禁止となりました。領主が贅沢をするわけにはいけませんもの。ですから高級品であるお砂糖や蜂蜜を使ったスイーツは食べなくなりました。お母様がドレスや宝石を売って領民のために食糧に変えたりしていましたし、お父様は陛下の側近の方とお金について話し合いをしていました。スイーツくらい我慢しなくては領民に申し訳なかったので、我慢していたんです。そうしていたらお兄様が隣国のお母様の親戚に頼んでベリーの苗を分けて貰っていて、一緒にお庭に植えました」



「確か私がルメール領に行った時に屋敷でアイリスはベリーを収穫していたか……」



 アイリスに会いたくてルメール領に行った時親戚だと言う男とベリーを摘んでいた……まるで逃げるように領地へ帰っていった、あの時の……



「はい。すぐにベリーが育つわけではないのですがお兄様の優しさがとても嬉しくて、思い出すだけで温かい気持ちになれますの。それからですわ! 屋敷で果物を育てるようになったのは」


 辛かっただろうにふふっと笑うアイリス。


「そうか……」


「もし何かあれば屋敷で育てた果実は領民に分け与えることができます。甘味があると暗い気持ちも少しは明るくなるんです。不思議ですわよね」

 


「…………」



 無言のエヴァン。



「それから隣国の方々が復興のお手伝いをしてくださって、従兄が来た時に焼き菓子をたくさん持って来てくれて、久しぶりに口にした小麦の甘さやバターが懐かしくて……屋敷の子供たちや襲撃で親を失った子供たちにも渡しに行きました。するとみんな目をキラキラと輝かせて……不幸なことがあっても小さな幸せがあるんだと身に染みましたわ。たかがスイーツとお思いでしょうが、」


「思わないよ。辛いことを思い出させてしまって悪かった。二度と過ちは犯さないよ! さぁ、アイリス! 好きな物を好きなだけ食べると良い! 今日は体重を気にしないでくれ」



 周りにいたメイドたちがアイリスの話を聞き厨房に行きお菓子をドッサリと持ってきていた。


「こんなに食べられませんわよ? そうだわ皆で食べましょう?」


 侍女、メイド、護衛たちが集まりスイーツを口にした。


「今日は無礼講だな……そんなことがあったからアイリスはスイーツに目がないんだな」


「えぇ。ですがわたくしも幼かったものですから、領地の復興のお手伝い……と言っても邪魔をしていただけかもしれませんが、お兄様と離れてしまって、お菓子に釣られて知らない人についていってしまって……それからお菓子をくれる人に付いて行ってはダメだと、それはそれは怒られましたわ」



「その菓子を出してきたのはどこのどいつか分かっているのか?」



「えぇ。復興を手伝ってくれていた隣国の方と聞きました」



「そいつとはそれから会ったのか?」



「? いいえ。あれからはお会いしてませんね。どうされたのかしら? 人の良さそうな感じでしたが……」


「犯罪者は人の良さそうな顔をして近寄ってくるんだ。アイリスをスイーツで釣るなんて」



 エヴァンは側近のレイを見ると、レイはため息をつきながらこの場を去った。何やら察したようだ。それにスイーツで釣ってアイリスを嫁にしたのに、どの口が言うのか……とレイは呆れていた。



 その後レイの調べによると、お菓子で釣ってアイリスを攫い売ろうとしていたことが発覚した。



 既に男は捕まっていて隣国の刑務所に入れられていた。取り調べは終わっているようだ。


 身分の高い幼い令嬢を連れ去り、奴隷としてそう言った趣味の人達に売っていたそうだ。人身売買は重罪だ。




「全く許せんな! 幼いアイリスを連れ去ろうとしていただなんて!」


 エヴァンが憤るとレイは……


「そうだな。我が国の未来の王妃になる方を攫おうとしていた。我が主が大変憤っていると伝えておいたぞ。近々その男は断頭台だな」


「おい、隣国の事に口を出したのか? 面倒な事に……」


「ならないようにしたよ。そこは安心して欲しい」


「そうか、頼もしいな。何をどうしたかは聞かないでおく」


「助かる」



「ところで、バラのジャムはうまく行ったのか?」



「あぁ。これでいつでも王宮のバラを使ってジャムが作れるぞ。王妃様も大層喜んでいた。王家のマークのバラジャムの誕生だ」




「アイリス喜ぶだろうなぁ」




 隣国へいくついでに、隣国からバラのジャムを作れる職人を引っ張って来た。


 隣国の特産でもあるのだが、レシピを売り出す事にしたようで、レシピを買い職人と話をして来てもらったのだ。



 職人は我が国出身と言うこともあり話はとんとん拍子に進んだ。



 アイリス専門のスイーツ職人兼バラジャム担当となった。




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