危険物
「護衛にも伝えてあるから、アイリスに変な虫が付くことは、まずない」
「ハイ」
「例えば変な事に巻き込まれても、いつ何をしていたか記録してある、安心しろ」
「えっ?どう言うことでしょう?」
ギョッとするアイリス。
「誰かの持ち物が無くなって、アイリスの鞄の中に入っていたとしてもそれは、虚偽だ」
「なんの話ですか? それは」
「昨日の話だよ、内々で話は終わらせたみたいだ、犯人を深く反省させるためにしばらく学園には来ない」
優雅にカップに口をつけるエヴァン。
「やはりエヴァン様の婚約者というのは危険でしたのね……」
「危険物は事前に排除するから安心しなさい」
「そのような事があったとは……」
「知りたいか? それなら今までの事を……」
「結構ですっ、聞くほうが怖いです」
両手で腕をさすり出すアイリス。
「寒いのか?」
「そうではなくて……」
エヴァンがアイリスの近くにより体を寄せる。
「バカがまだ居るんだ、アイリスがますます可愛くなるものだから、アイリスの髪の毛に触れようとしてくる男もいたな……」
アイリスの髪を一束取りキスをする。
「えっ?」
「ラブレターをカバンに入れたバカもいたらしい」
「え? 知りませんよ!」
「まだ聞く?」
「結構です、護衛の方に労いの言葉をお伝えくださいっ……」
「伝えておく」
にこりと微笑むエヴァンにゾッとした。
「くだらない話はやめて、お茶会の続きをしよう、せっかくの休みなのに」
「ハイ、ソウデスネ」
初めて聞いた話に頭が真っ白になった。そのまま頭をコテンとエヴァンの肩に預けた。
「どうした?」
「疲れました……」
「少し目を瞑ると良い」
「はい」
甘い物を食べて満足して、目を瞑ると心地よい風がバラの香りを運んでくれる。
「幸せ……」
ポツリと呟くアイリス。
「ふふっ、可愛い」
エヴァンがメイドに目配せするとストールがアイリスの肩に掛けられた。
十分ほど目を瞑っただろうか、エヴァンを見るとエヴァンも目を瞑っていた。
「お疲れなのかしら?」
ストールを二人の膝にかけ直す。エヴァンの頬をツンツンと触ってみる。
「起きない」
じぃっーとエヴァンの顔を見る。 前髪が長くなってきて耳にかけている。
青い瞳は閉じられているが整っていることがよくわかる顔立ちだ。
「きれいな顔、ふふふ、好き」
エヴァンの目がぱちっと開かれる。
「きゃあっ」
驚くアイリス
「アイリスの告白が聞けて良かった、そこはキスでもして目覚めさせて欲しかったけど」
かぁーっと顔が赤くなる。
「もうっ起きていたならそう言ってください、恥ずかしいでしょう」
「良いことを聞いた、ありがとうアイリス」
「もう良いですからっ」
離れようとするアイリスの頬にキスをする。
「アイリスもしたいときに、いつでも、どこにでもキスしてくれて構わないからね」
「むりです」
くすくすと笑うエヴァン。
「そう? 残念」
「あらぁー! またイチャイチャしてるのね?」
「母上」「王妃様」
立ち上がるアイリス。
「そのままで良いわよ? 楽しんでますか?」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「エヴァンも休めている? このところ頑張って執務をしていたものねぇ」
「母上のお陰でアイリス共々良い休日を過ごしていますよ」
微笑むエヴァン。
「良かったわ、サイラスが命の危機を感じたと言っていたからそんな危険なことが行われているのかと思ったら、いつも通り過ごしていただけなのね?」
エヴァンとアイリスを、交互に見て微笑む。
「大袈裟なやつだな……」
「物騒ですわね……」
「何の話していたの?」
王妃がエヴァンに聞く。
「アイリスに手を出そうとしたり、アイリスがよそ見をするようなら、その家を潰すという話です。流石にサイラスの家は潰せませんから、どこかに飛ばすくらいですよね?」
にこりと微笑むエヴァン。
「あら……そんな物騒な話をしていたの……」
「当然でしょう? アイリスとは一生を誓いあったんですからね」
「自分の息子とは思えないくらい、恐ろしいわね……アイリスちゃんよろしくね、この子の将来と国の未来がかかっているのよ」
「……責任重大ですね」
「イケメンだし、お金持ってるし、一途で良い子だから! 仕事も熱心よ、頼んだわね」
言いたいことを言って、去ってゆく王妃
「私の一生を誓ったからね、そんなものでしょう? アイリスはそんな軽い気持ちで誓ったの?」
「誓いは結婚式の際に神様と皆様の前でするものではないでしょうか?」
「式を挙げるまで浮気を許すと言うこと?」
「いえ……そう言うわけでは、ありません」
「だろ?」
「……ハイ」
「分かればよろしい」
 




