出会ってしまった場所ですね
「さぁ、着いたよ」
そこは小さな庭だった。
「ここはあまり使われていないんだけどね、こじんまりしていて、人も少ないし、前はよく抜け道として使っていたなぁ……」
「素敵な場所ですね、可愛らしいです」
ふふふっと笑うアイリス
「覚えていないの? まぁ、いいか、座って」
日差しが心地よく入ってくる。王宮のメイド達が机の上に紅茶や、お菓子を準備し、アフターヌーンティーのように小さなスイーツが並べられた。
「さぁ、どうぞ」
足を組みテーブルに両肘をつきアイリスを眺めるエヴァン。
「わぁ、どうしよう……目移りしちゃうぅ……」
ふと、スイーツが並べられた一角に目をやると
「あっ、このフルーツ!」
「この前美味しそうに食べていたから、うちのシェフに頼んでオリジナルのスイーツを作って貰ったんだ」
「お気遣いありがとうございます、いただきます」
サクッとフォークを入れて一口食べてみると
「んんっー!! 美味しいっっ」
頬を抑えて悶絶するアイリス。
「そんなに美味しいの?」
こくこくと頷く
「このジャムも、このフルーツを使っているんだよ、スコーンに付けて食べてみて」
遠慮なくジャムをたっぷりつけて口に入れた瞬間に甘さと酸味が口内に広がる。
「はぁー美味しいっ幸せですっ」
「そんなに喜んでくれるとは……」
じっーとアイリスがお茶を飲む姿を見る。姿勢も良く、スイーツを食べる姿も上品だ。
「お茶も美味しいです」
「それはね、アイリスのうちの伯爵領とは逆の国境沿いの領地でしか取れない花があってね、紅茶と花をブレンドしてあるんだよ、花の香りがしない?」
「はい、エレガントな香りです」
紅茶の香りを嗅ぐアイリスについ笑ってしまう。
「わたくし何か失礼なことを……」
「してないよ、美味しそうに食べるんだなぁと思って、用意した甲斐があるよ」
顔が赤くなるアイリス
「すみません、食べ過ぎました……」
「遠慮しないで、まだたくさんあるんだから、アイリスが何を好きか分からなくて色々用意したんだ。何が好き?」
「チョコレートやフルーツ、クリームも好きです」
「そう? じゃあ今日のお茶会は成功だね」
お茶を飲むエヴァン。優雅な仕草だ。
「ところでアイリスはなぜ、私から逃げるのかな?」
「えっ!?」
「逃げるように領地へと帰っていったね。私からの誘いを無視するとは、中々いい度胸をしているね」
「それは、お母様が……」
「ふふっ、悪い、アイリスを困らせたくなったんだよ。仕返しかな?」
「意地悪なんですね王子殿下」
ほっとするアイリス
「幼い頃に私よりも小さな女の子に言われたことがある。花の冠を作っていて下手くそでつい笑っちゃったんだよ、そしたら作って見せてって言われて」
くすくす笑うエヴァン。
「見よう見まねで作ったら意外と上手く作れてさ、その女の子の頭の上に載せたんだ」
「へ、へぇー」
背中に汗が流れる……。
「で、その女の子がアイリスって事、ここで出会ったんだ」
軽く指を指されるアイリス
「へ?」
「覚えてないの? はい、ハンカチを返すよ」
「わたくしのものでは、」
「この花の刺繍はきっと娘の事を思って母親が縫ったのかな? 愛情がこもっているよね、アイリスの花だ。この子が生まれた時にちょうど満開だったのかねぇ……」
……ど、どうしようバレている!!
「父上が断った事でルメール領に多大な迷惑をかけた。先日視察に行って目にするまではちゃんと知ろうとも思わなかったんだ、恐ろしかったよね?」
涙がハラハラと落ちてくる。
「あの時、鐘が、鳴って、同時に爆破音が……怖くて、お母様の胸に……」
「うん、悪かった」
「王子殿下のせいでは、なくて」
返させた物とは別のハンカチを渡された。
「今後はこのようなことがない様尽力する」
「はい、そのお言葉だけで……」
言葉にならなかった。
「今日伝えたかったのはこの事だよ」
「はい」
「あのさ、留学とか急にいなくなるのはやめてくれ、何故私から逃げるんだろうか?」
「逃げてなんて」
「必ず捕まえるよ、ゲームなのかな? アイリスが逃げる、私が捕まえるって事?」
ふふふと美しく笑うエヴァン。
風になびく黒い髪が妙に美しいと思った。そして急に立ち上がりグリーンの葉を持ってきて、椅子に座り直す。
見事な手捌きで編み上げ、テーブルに飾ってあったピンクや青い花をポイントに差し込み花の冠が出来上がった。
「はい、どうぞ」
アイリスの頭に載せる。何も言えなくなり下を向くアイリスに
「まるで花の妖精だ」
帰りにはお土産にスイーツとブーケを持たせてくれた。意外といい人かも知れないと思ったが、それは家族に内緒だ。
 




