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異世界勇者の成功談と失敗談  作者: 棚橋
プロローグ
1/1

自分研究部へようこそ

誤字脱字があったり、文が拙かったりするかもしれませんが、どうか温かい目で見てくれると幸いです。

「ここを……こう書いて、あとはその辺りに線を引いていけば…」

「完成?」

「うん。あとはお供物をして、お祈りさえ捧げれば…」


 俺は今、現状教室内に三つしかない机の一つに座っている。読んでいた文庫本も読み終え、そろそろ二人の話し声が鬱陶しく感じ始めた。

 突然だが、俺の足元には魔法陣が敷かれている。

 この魔法陣は、自分研究部、通称自分研の部室である、多目的教室Cの面積の、ほとんど全面を使って描かれている。

 この状況を、どの様に説明すれば良いのか判断がつかないが、ここは国語の授業に習って5W1H、つまり、いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように、と言った風に説明していこう。


 まず、いつ、だが、これは今、時刻にして五時、俺が部室に来た四時には書き始められていたことから、かれこれ一時間以上この魔法陣を描き続けていることになる。


 次に、どこで、だが、これは先程説明したように、我が部の部室である多目的教室Cで行われている。加えて説明するとすれば、この多目的教室Cは校舎の四階すなわち最上階の端っこの教室である。よって一般生徒はおろか、教師でさえ、滅多に寄り付かないという場所なのだ。だからこそ、白昼(既に昼ではないが…)堂々と床中に魔法陣を描くことができるのだ。

 

 順番通りに行けば次は、だれがだが、この説明は長くなりそうなので最後に回し、先に、なにを、なぜ、どのように、を説明しようと思う。

 しかし、この三つは説明することがほとんどない。

 なにを、は魔法陣をとしか言いようがない。また、なぜと聞かれても、理由なんて俺が知りたいくらいだ。そうなってくると、説明する内容は、どのように、しかないが、これもそれはそれは禍々しくとしかいえない。魔法陣の不気味さが、インクの赤黒さと相まって、如何にもな雰囲気を醸し出している。


 …というか。これは本当に消えるんだろうな。ちゃんと、水性のインクを使ってるとは思うが、不安になってくる。床が木製じゃなくて本当に良かった。


 そしていよいよ、だれが、だが、これは先程の会話からも分かる通り、この魔法陣は二人がかりで描かれている。

 

 魔法陣を描いているうちの一人は、(つばくろ) 言葉(ことは)という変人だ。

 彼女に関する噂は常に事欠かない。曰く、小学校の校庭に迷い込んだ猫を、殺して解剖していた。とか、曰く、彼女の両親は彼女に殺されていて、もうこの世にいない。とか、曰く、本当は二百歳を超えていて、魔術によって年齢を誤魔化している。と言った具合である。

 後の二つはともかく、最初のは本当にそうだとしても、どこか納得してしまいそうで怖い。


 ただまぁ、彼女はいいのだ。確かにおかしなところはあったとしても、俺の部活に変な奴がいる。程度で済む。

 俺にとって問題なのは、もう片方だ。恥ずかしながら、本当に、恥ずかしながら、もう片方は俺の友人なのだ。いいかげん、縁を切ろうかと本気で考えそうになる。

 俺の友人、夕張(ゆうばり) 光樹(みつき)は、天才で、尚且つ、彼女と同じ部類、奇人変人の類だ。

 定期テストではいつも満点、様々なコンクールでも数多くの賞を貰い、スポーツでも体育の授業内の試合で、あいつ、もしくはあいつのチームが負ける所を見たことがない。敵に全国大会常連の猛者が居ようと関係ない。あまりに一方的に負けたせいで、その後スランプになった選手までいたと言う噂すら聞くほどだ。


 しかし、そのような才能を持っていたとしても、夕張 光樹は、それらのために努力をしない。授業中は居眠りに、教科書やノートへの落書き、酷い時はゲーム機を持ち込み遊び始める始末。体育の授業も例外ではない。もちろん、内申点は最悪。定期テストがいいお陰で成績は悪くないが、満点とってるくせに俺より成績は低い。あいつが唯一してる努力は、背が低いのを気にして毎日牛乳を飲んでいる事くらいだ。


 そんな彼は当然のように、中学の間ずっと帰宅部だった。

 あちこちから来る、運動部、文化部を問わない三年目の秋頃まで続いた勧誘の数々を、尽く蹴って卒業までの三年間、帰宅部の座を守り通したのだ。

 なのになぜ彼は今、放課後の部室で、楽しそうに部活動(?)に勤しんでいるかと言えば、この自分研のあり方に由来する。


 そもそも、この部活には活動目的がない。いや、あるにはあるが、自分をより理解するためという、いまひとつあいまいな目的となっている。

 なぜこの様な目的になっているかは、この部の成り立ちを知れば分かる。

 

 昔この学校では、必ず部活に入らなけれならないというルールが存在した。学校の存在意義は授業だけではないと、部活動に勤しんでこその充実した学生生活であるとして、当時、部活に所属する生徒がいあまりにも少なかったことに対する対策が取られたのだ。

 しかし、その当時の先輩はそれを良しとしなかった。だれが言い出したことか知らないが、『帰宅部が禁止なら、帰宅部に代わるものを正式に部活として作ればいい』と、このような趣旨のことを言ったのだ。そしてそのふざけた理由で作られたのが、この自分研だ。

 ただ、例え帰宅部の代わりであったとしても、部活である以上活動目的が必要だった。そこで、こんなとって付けたような目的が付けられたのだ。普通なら、こんな部活に許可が下りる訳がないのだが、入部希望者があまりにも多かったため、無下にはできなかった。結局、各自最低週に二回は部活に参加することを条件に、こんな部活が設立されたのだ。

 そもそも、そんな行動力があるなら、普通に部活しろという話である。


 しかも、こんな先生方が、頭を抱えて許可した自分研であるが、こんな部活があっては帰宅部を禁止していても意味がないとして、割とすぐに禁止が取り下げられたので、部活をしたくない生徒は普通に帰宅部になれば良くなった。そのお陰で、全校生徒の半数以上いた入部者は、数人しかいなくなった。そして、複数の教室に渡っていた部室は、今や校舎の隅にまで追いやられていた。


 そうして、自分研究部は帰宅部同然の部活として、この学校に存在することとなったのだ。

 しかし、これは俺の友人、夕張 光樹が自分研に参加する理由にはならない。確かに、入部の後押しをした要因の一つかも知れないが、それだけなら、普通に帰宅部のままでいただろう。実際、帰宅部が解禁された途端、ほとんどの生徒が退部していったように。


 ではなぜ、彼は自分研に入部しているのか?

 

 その答えは、帰宅部が解禁されてなお残った、数人の生徒の影響である。

 彼らの影響とはどういうことかと言うと、こんな必要なくなった部活に残る生徒が、普通の一般時の訳がなく、一人ももれず奇人変人の集まりとなった。そして類は友を呼ぶのか、はたまた、この存在意義不明な部活がそうさせたのか、次の年も、その次の年も、入部希望は奇人変人の類だった。そうして、いつしかこの部は、奇人変人が集まる部活という噂が流れるようになった。


 そしてこれこそが、夕張 光樹がこの部に所属する理由である。

 彼は、自らがそうであるように、奇人変人を好んだ。どうしてそうなったのかは知らない。前に聞いたことはあるのだが、面白いからとかそんな理由で躱された。(もしかすると、本心かも知れないが……)


 ともかく、あいつが自分研に所属する理由は、奇人変人がいるからと言う、自分研の作られた理由ほどふざけた理由だったのだ。


 俺は光樹に誘われて入部したわけだが、もちろんこの噂のことは知っていた。しかし、所詮は噂と思って甘く見たのが行けなかった。

 ここ二年間入部者がいなかった影響で、現在、一年生しかいない。しかし、その反動か何か知らないが、俺と光樹を抜いても、入部者が四人もいるのだ。それも、個性豊かなメンバーだらけである。正直言って、相手をするだけで疲れる。…そろそろ本気で退部を考えるか。


 ガラッ


「入るわよ。ことは、言ってた通りお菓子買ってき…た……」


 おっと、そんなことを考えてる内に、唯一、普段はまともな個性豊かなメンバーの一人の穂高(ほたか) さき が来たようだ。

 彼女は一見、一般生徒のように思えてしまう。

 実際、彼女が入学したばかりで自分研に入った頃は、自分研は奇人変人ばかりという噂を信じない人が続出したそうだ。しかし、今となっては、自分研の噂も、彼女が変人だということも、疑われることはなくなった。


 というのも、入学してしばらく経った頃、とある事件が起こったからだ。

 穂高 さきが、例の謎起き少女、燕 言葉の陰口を叩いていた数人を、フルボッコにしたからだ。俺は見たわけではないが、それはそれは悲惨だったそうだ。内、一人はあまりの恐怖でこの学校を辞めたほどだ。

 被害者たちにも非はあったとして、停学で済んだが、退学でもおかしくなかったそうだ。正直言って、そんな危険人物に関わりたくないのだが、同じ部活に入っている以上、そういうわけにもいかず話すのだが、正直言って、噂が本当かどうか疑いたくなるほど、普通の人だった。

 しかし、怒らせると、この学校一怖い、というか危ないので、自分研内でも彼女を怒らせないように細心の注意を払っている。それは、他の変人たちも一緒だった。


 と言っても、彼女の怒りのトリガーは分かりやすく、燕を悪く言わない限り起こらないので、未だ怒ったところを見たことはない。なぜそんなに燕に懐く(というにはあまりに過激だが)のかはわからないが、細心の注意を払う必要がある。まだ、学校を辞めるには早すぎる。


「部長、それに飾磨くんに寝屋川くんに夕張くん、なんで止めてくれなかったの?」


 どうもツバコン(ツバクロコンプレックス)の穂高さんも、この魔法陣は目に余るようだ。

 穂高が買ってきたお菓子を、お供えしようとする燕を捕まえて頬を引っ張りながら、責めるような視線をこっちに向けてくる。


 ちなみに飾磨とは俺の名前だ。

 飾磨(しかま) (きょう)今後ともよろしく。


「あはは、面白そうでつい…」


 光樹が、笑いながら言い訳めいた口調で答える。

 こいつのそんな口調ははじめて聞いた気がする。……本当に何があった?


「こいつが参加してる以上、俺もとやかく言えなくてな」


 光樹に何があったのか、大変興味があるが、今聞く内容じゃないので我慢する。まぁどうせ聞いても答えないだろうが。

 

「飾磨くんも大変ね」


 鷹穂が光樹の顔を見ながら言う。


「ちょっと、さきちゃん。その言い方は納得できないな」


 光樹の渾身の反論も、高穂は無視して寝屋川に視線を移す。

 これは一人一人に尋問していく流れなのか?

 そこまでしなくてもと思うが、すでに尋問が終わった身としては、もう巻き込まれたくないので何も言わない。


「えぇっと……僕は…人にあれこれ言えるような、できた人間じゃないって言うか…………」


 この控えめな喋り方をするのが寝屋川だ。

 寝屋川(ねやがわ) 優斗(ゆうと)、彼はとてつもなくネガティブ思考で、破滅願望持ちだ。

 自分研のメンバーでは珍しく、これと言った噂は聞かないが、彼の変人っぷりは俺はよく知っている。この間、近くのコンビニに寄った時、寝屋川がカツアゲに遭っていたのを目撃した。目撃したなら助けろよ、なんて細事は気にしないでもらいたい。ともかく、影から、友人の勇姿を覗いていた俺は、彼の変人っぷりを見てしまったのだ。

 彼は、チンピラたちに囲まれる中、満面の笑みを浮かべていた。

 それだけでも十分変人だが、その表情を舐められてると思ったチンピラの一人が、寝屋川を殴った。しかし、なおも嬉しそうに笑い、あろうことか鞄から包丁を取り出し、チンピラに差し出したのだ。チンピラも、流石にこれに驚いて、一歩後ずさる。その様子を寝屋川はどう勘違いしたのか、少し首を傾けてから納得したように頷き、また鞄から、今度はロープを取り出した。…どれだけ凶器が入ってるんだあの鞄。どうやら、寝屋川は、チンピラが血が苦手だと勘違いしたようだ。

 そこじゃねぇよ。

 そう言いたいのを我慢して、なおも様子を見る。

 これには流石にチンピラもビビったのか、いよいよ逃げていった。

 寝屋川は、少し残念そうな顔をした後、手に持った凶器を片付けて、コンビニからさっていった。


 その後俺は、震えながら気になってた漫画を買ったという。


 そんなことがあったので、俺は正直寝屋川も結構怖い。

 しかし、高穂はそれを知らないので、無遠慮にため息をついた後、寝屋川から視線を外した。


「で、部長は?…部長?」


 呼んでもなお何か考え事をしてるようで、相変わらず空を睨んだままだ。

 高穂が部長の席の近くまで近づき、肩を叩く。


「部長」


「なんだ、どうし…た」


 ようやく反応した。


「なんだ⁉︎いつの間にこんなことになった⁉︎」


 どうやらこの事態に気付いてすらいなかったようだ。流石の高穂も、これには呆れてものが言えない。

 よほど考え事に集中していたのだろう。こんな事態になっても気付いてすらいなかったとは…。しかし、何を考えてたかなんて、誰も聞かない。聞くと、小一時間、正義がどうたらこうたらと、面倒な演説が始まる。

 

 部長、阿賀野(あがの) 晃一(こういち)は、正義感が強い男だ。

 飽きてきたので、噂や前例は除くが、いちいち事件に首を突っ込んで、悪人を決めつけて糾弾する。なんの根拠もないのにだ。しかも、そのほとんどが正しいので、始末に負えない。どうも彼は、悪人に対して鼻が効くようだ。

 そんなことを続けているので、一部の生徒からは恨まれている。それによって、痛い目を見たこともあるはずなのに、未だに続けているところが、彼の変人たる所以なのだろう。


「ねぇ、さき、お祈りだけでもしていい?」


「おいっ、燕お前だな!これを書いたのは⁉︎」


 例に漏れず今回も、糾弾。

 まぁ今回は誰が見ても、燕の仕業だと気付くが…。


「んー。わたし的には早く消して欲しいんだけど」


「終わったら、一緒にお菓子食べよ」


「おい、燕!聞いてるだろ!」


「けどあのお菓子、お供えに使うんでしょ」


「そのつもりだったけど、やっぱりさきと食べたい」


「無視するなっ!」


「う〜ん。しょうがないわね。じゃあお祈りだけよ」


 あからさまに上機嫌に高穂が許可を出す。

 …チョロい。


 そして無視され続けている部長こと阿賀野は、未だ何か叫んでいる。


 そして燕が魔法陣の中心に片膝を立てて座り込み、何かよくわからない言葉(?)を言い始めた。


 すると、なんと自分研の部室、多目的教室Cの床が、突然光出した。


「「「「え?」」」」


 思わずそんな言葉がでたと思ったら、いきなり視界が暗くなった。

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