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第21話 もはや床

「お妃様」


無事に月華さんと青鋭が宴を取り仕切ることが決まり、少し経ったある日のこと。のんびりと刺繍をしつつ暇をつぶしていると、女官が入ってきた。その手には何やら箱が。


「どうしたの?」


なんなのか全く見当がつかず首を傾げる私に、女官長がにっこりと笑いかける。


「宴のお衣装が届きましたからご試着くださいませ」


「あら、そうなのね」


おかれた箱を開けると、中にはとても高そうな衣装が入っていた。うっ、眩しすぎて見れないっ! 全体的に桃色で統一されているそれには見事な花の刺繍が施されている。うわ、こんなの見たら刺繍する気が失せちゃうわ。


「……これ本当に着なくちゃなの?」


「もちろんです。陛下がお待ちですから早く着替えてしまいましょう」


私の意見は見事に無視され、女官たちが私の服を脱がせ始めた。いやー、こんな服私には不釣り合いだわ!! でもそんなこと思っても仕方がない。なぜって? だってこの人たちはこれが職業なんだから一瞬で私のこと着替えさせちゃうの。


「さ、この布をかぶってくださいませ」


そう言ってかぶせられたのは、薄い布。顔隠すらしい。ありがたいね、だって顔が見えてたら私が絶世の美女じゃないってばれちゃうところだったもの。向こうから見えない分こちらからの視界も悪いので、ゆっくり身長に歩き出す。うう、頭が重いわ。なんでせっかく薄くて軽い布にしたのに布に装飾を施しちゃったのかしら。ただでさえ重厚感のある衣装を着ているのに床にのめりこみそうだわ。


「陛下、お妃様をお連れしました」


「ご苦労」


冷酷王の冷たい声が響く。ここどこ。すると、かぶっていた布がいきなりめくりあげられた。


「ほう、なかなか様になっているのではないか?」


いきなり何するのよ。なかなかって何なのよ。


「そうですね。これで転ばずに歩いていただければ完璧なのですが……」


樟石さんがはあ、と特大のため息をつきながらこちらをちらりと見てきた。なんなのこの小姑みたいな人。どんどん遠慮がなくなっていくわね。


「転ばずに歩くくらい簡単ですけど?」


口元に手をあて言い返すと、どうだか?と言われた。私はやればできる子なのよ。出来るに決まってるわ。


「よくお似合いですわ、お妃様」


いつの間にか人払いされた部屋にいつの間にかいた玉蘭が可愛い笑顔で告げてきたが、にわかに信じがたい。落ち着かないし早くいつもの服に着替えたいわ。


「そわそわと落ち着きがありませんよ」


「はい」


ぴしゃりと指摘されたので動きを止める。なによ、もう見たんだから帰ったっていいじゃない。


「とりあえずその衣装に慣れてもらうために陛下と食事してください。あ、高かったんですから絶対にしみなどつけないように」


「えええ!?」


思わず姫らしくない声を上げてしまう。ううう、樟石さんの視線が痛いわ。ごめん、ごめんって。


「料理はそこにすでにありますのでどうぞ」


席に促されしぶしぶ座ると、私は箸を手に取った。一人で食べるのもさみしいけど、陛下と食べるのも怖いわ。はあ、味が……


「先ほどまでは何をしていたんだ?」


同じように向かい側に座った陛下が突然そんなことを聞いてくるので、思わずむせそうになる。危ない危ない。すっかり油断してたわ。


「暇だったので刺繍をしてました。でもこんな見事な刺繍を見せられたからもう今はそんな気分じゃなくなったわ」


「それは残念だな。鈴華の刺繍が見てみたかった」


「そのうちならいいですよ」


あらこの料理、すごくおいしいわ。初めて出たわよね、また出してくれないかしら。毒見の後で冷めてしまった料理を食べるのは時に苦痛だが、美味しければまあ許せる。さすがに温かい汁ものは温かいまま出してくれるけれど。


「あ、その後あのお二人はいかがですか?」


唐突に頭をよぎったので尋ねてみると、陛下と樟石さんと玉蘭が一気にため息をついた。


「仕事はお早いのに口喧嘩ばかり。長年ともに仕事をなさっておられるというのに仲が深まる兆しも見えませんわ」


「口論しながら仕事をするから効率は上がるが周りの士気が下がる。ほとんど二人でやっているから特に問題はないが、他の官吏が怯えるので二人に私のところで仕事をするように言ったほどだ」


「陛下の御前でも平気で口論するのが月華殿と青鋭殿らしいといいますか……」


それでいいのか。陛下が気にしていないのなら全然いいんだと思うけれど、陛下の前で喧嘩なんて度胸がすごいわ。


「仲いいのね」


「まさか」


即答された。


「まあ親たちと比べれば幾分かましなのだろうな。少なくとも月華と青鋭は葉家と董家など気にしていないから」


そう、董家と葉家は火花を散らしているのだ。陛下から聞く二人の話のせいで忘れてしまいそうになるが。実際今お互いを敵視しているのは葉大臣と董大臣、董大臣の上の息子など、月華さんと青鋭、玉蘭を除く人々。親の影響を一切受けず、自分で判断しているのは普通にすごいと思う。


「このままなにも起こらなければいいが、たとえ本人たちが家柄関係なく争っていたとしても、葉家と董家が仲良くなることをよく思わない連中には気を付けて」


わあ、第三勢力。

衣装は北宋時代の漢服をイメージしてください。いいですか?

次の投稿予定日は十月三十一日です。

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