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異国 異境

 ゴロウアキマサはアンナの部屋から出ると出先から帰っていた仲間を見つけた。

「新しい子が入ったって?」

 そういうのはまだ幼い子供に見える。柔らかな銀色の髪ふっくらとした薄紅の頬、そしてつぶらなみどりの瞳、いわゆる天使のように愛らしい子供に見える。

 だが彼は設計技師であり、機関車のみならず様々な蒸気機関の装置を開発する部門にいた。この計画の要ともいうべき人間だった。

「ああ、だけどなんで連れてきたんだ、ありゃ、今も昔も田舎の娘さんだったらしいが」

 驚いたことに、一度も蒸気機関自体見たことがないとか。

「カラクリはせいぜい水車小屋しか見たことないんだと」

「そりゃまた、おかしなことだね、それにしてもわざわざ会いに行ったの?後でエドワードが紹介してくれるんじゃないの」

「なんかほっぽり出されたみたいでな、可哀そうになって」

 子どもは皮肉気に目を細めた。見た目年齢はゴロウアキマサのほうが年上に見えるが実際の年齢がどちらが上か確認してみたことはなかった。

「まあいいけど、足手まといじゃないことを祈るよ」

 そう言って子供はさっさと自室に戻る。

 この家の使用人はゴロウアキマサとその仲間たちを胡散臭そうな目で見ている。実際怪しげな一味だとゴロウアキマサも思う。

 しかし、エドワードは何を思ってあんなのような少女を連れてきたんだろう。

 ドイツという国から来た。

 ゴロウアキマサにとって、ドイツやエドワードのいたというイギリスもまたこの世界と同じくらい異世界だと思う。

 奇妙な衣類をまとった、人間離れした人間、それがエドワードの母国から来た人間に対する印象だった。

 向こうも日本人を人間離れしていると思っていたのではないかと思う。

 最初はただ紅毛人の国に生まれ変わったのだと思った。生まれ変わりの概念は彼の国の宗教にもあったのでそこは違和感がなかった。

 だが、エドワードに会って、この世界のどこにも日本という国がないのだと、どこまで探しても決してたどり着けないのだと知らされた。

 その時確かに彼は絶望したのだ。

 遠い異国に生まれ変わって生涯日本の土を踏むことはないと覚悟していたはずなのにそれでも絶望して、そんな自分が不思議だった。

「あの娘は、いつこの世界にドイツがないと気づいたのだろう」

 そんなことを思った。



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