オカジョウキの謎
オカジョウキとはいったい何?
アンナは首をかしげている。
「お姉さん生国はどっちだい」
ゴロウアキマサはきょとんとした顔で固まっているアンナに尋ねた。
「ドイツ、ああ、名前はアンナ、もしくはグエンダ」
「ああ、アンナさんね、ええとドイツの言葉でオカジョウキってどういうんだっけ?ええと、細長くて、モクモク煙りたてて馬がいねえのにするする走るあれだがよ」
「煙がもくもくで馬がいないのに走る?」
どこかで聞いたことがある。噂では聞いたがアンナは一度も見たことのない。
「ダンプフロップ?」
ようやくアンナの中で思い出せた単語を口にした。
「なんだ、それ」
聞いたことのない単語だったのかゴロウアキマサは軽く呻く。
「コッヒルを燃やして走るやつでしょう」
「コッヒルって。ああセキタンか、ややこしいなあ、エドワードは他の奴と英語で話してるが、俺にはチンプンカンプンってやつで」
ゴロウアキマサの言葉は時々向こうの母国語が混じるが、全く未知の言語だ。おそらくアンナの知らない遠い国の言葉なのだろう。
「私はそんなもの一度も見たことはないわ」
深い森の奥にある小さな村にまでそんなものが引かれるわけがなかった。
「まあ、俺の生国にも見たことない奴はいっぱい、おそらくほとんどのもんは見たことないだろ、俺はエドじゃねえ、トウキョウにいたからたまたま目に入ったってだけだが」
おそらく町の名前だろうけれど、どうして言い間違えたのだろうそれも似ても似つかない言葉に。
「どうして、町の名前が二つあるの?」
「急に名前が変わったんだよ、ただ、俺はエドのほうが馴染みがあるんでな、つい言い間違えちまう」
そう言ってゴロウアキマサは苦笑した。
「名前だけじゃねえ、なんもかんも変わっちまったなあ」
視線が遠くを見る。すでに手の届かない何かを探すように。
そうした姿を見ていると、まるでとてつもなく長い人生を終えつつある人のような眼をしていると思った。
もしかしたらゴロウアキマサはとても年を取った人だったのかもしれない。
おそらくゴロウアキマサの生まれた国はドイツより劣った国だけれど、ゴロウアキマサは首都近郊に住んでいたのだろう。
翻ってアンナはドイツに住んでいたけれど、ドイツの奥地の辺境と言っていい村の生まれだ。
どっちが上か下かそんなものを考えても仕方がないだろう。
「まあ、よろしくな、アンナさん、俺は明日、ちょっと仕事があるんで」
「仕事って?」
「金属鉱石だが、それを調べるんだ」
なるほど、鍛冶屋の仕事だ。機関車が金属でできていることぐらいはアンナも知っている。
見たことがあるだけで大丈夫なんだろうかと思っていたが、金属を加工する仕事をしていたんなら、十分戦力だろう。
だったらどうしてアンナが、機関車を見たこともなく、噂で聞いただけのアンナにいったい何ができるんだろう。
アンナは先行きがとてつもなく不安になった。
アンナのドイツ語はグーグル先生に頼みました。アルファベット表示だったので間違っているかもしれません、悪しからず。